第25話 ダブルカップリング6(三人称視点)

「ふぎぁぁぁっ!」


「ちょっ……真鐘?」


「うるさきゃぁぁっ!!」


 1回目とは真逆となった2人のポジション(物理的な意味ではない)

 麗律はもう怖くて怖くてたまらないとでも言うように隣にいる莉櫻の腕にひっついていた。もうプライドも何もあったものではない。

 しかし、莉櫻は引き剥がそうとも迷惑そうな顔一つしていなかった。男だからというのもあるだろうがほかの意識が彼の大半を占めて切るように思える。


「まだ上がるし!何なの?!」


「まだ終わりそうにないなぁ…」


「何で他人事のように言ってんの?……あ、ごめん」


 ここでやっと自分の行為に気づいたらしい麗律がそそくさと離れる。


「いいよ、別に」


 莉櫻も怖いことは怖いが隣の麗律が大きく取り乱していたため冷静なのだ。

 がくん、と落ちる感じがした。瞬間的に莉櫻の腕へとしがみつく。


「ハッタリかよ……ん?」


「いや、これはその……ひゃぁぁぁっ!」


 言い訳をしようと油断した時に落ちていく。もう四の五の言ってられない。

 ひしっとしがみつく。


「また上がってる……」


「もう怖い」


 これでフィナーレだ、とでも言うように今までで1番長い上昇の時間。乗る前の麗律の言っていることが正しければこれで終わりだ。


「なぁ…」


「なぁって名前じゃないし。あ、あと真鐘もダメ」


 真鐘も名前なのだが……というツッコミは入らなかった。


「麗律……」


「ん?何?」


 ここで最上まで到達したらしく、動きがピタリと止まる。莉櫻と麗律の時間だけが正常に動いているようなそんな感じ。


「俺と付き合ってほしい」


 麗律の時間も硬直した。言われたいとずっと願っていた言葉。その言葉は絶対に行ってくれないから自分が頑張ろうとしていたこの言葉。

 麗律の心はじーんと暖かくなり不思議なことに悲しくもないのに眼からは液体が出ようとしていた。

 どうしようもないこの気持ちを全て話してしまいたい。そうして自分を持って知ってもらいたい。


「……はい」


 言った瞬間にもう何も考えることは出来なかった。

 莉櫻の腕に顔をうずめて強引に止めいた涙を自由にさせる。


「……ばかぁ」


 涙声になっていただろう。しかし、莉櫻は何も言わないし何もしない。

 あれほどまでに怖がっていたアトラクションも最後の急降下には気付いた時には終わっていた。

 麗律はそこから先をよく覚えていない。いわゆる放心状態、心ここに在らず、という感じだった。見かねた莉櫻が手を差し出してリードしてくれたような気もするがもう離してしまっているため確信が持てず、かと言って訊きだすのも恥ずかしいためそのままになっていた。


「あれ?潤平達どっかいったな。どうする?」


「うん…」


「このアトラクションのグッズでも見に行くか」


「うん…」


 確かめたいけど……それ以前に莉櫻の言葉が刺さる。

 来る前には俺よりとかいっていたくせに…。最後には告白するなんてマジで意味わかんない。


「麗律?」


「ん?ひゃっ!何?!てか近い!」


 今にもキスが出来そうな距離で顔を覗かせる莉櫻の顔は申し訳ないような不安そうな顔をしていた。


「ごめん、やっぱり迷惑だったよな」


「そんなことないって言ってんだろ!なんでそういつも自分のせいって考えるの?……ただ自分はなんでだろって考えてただけなのに」


「今でも俺より相応しい人がいるはずっていう俺の気持ちは変わらない」


「なら何でっ!」


「でも!俺は……俺はその気持ちよりも麗律が好きだっていう気持ちの方が大きくて……。自分勝手だけど相応しい人に俺が選ばれた言ってそう思ったんだ」


「そうか。……本当に自分勝手だな」


「え?」


 まさかそう返されるとは思ってもいなかった莉櫻は思わず声が漏れてしまった。


「自分に相応しい人?それは自分で決めるし、誰にも決められたくない」


「そっか。ごめんな」


「まだ、謝んな。……そして自分の選んだ相応しい人はお前だ」


「麗律…」


「嫌とは言わせないからな。自分が決めたんだから」


「あぁ……あぁ」


 必死に涙を堪えようとしているのだが全く止まらない。莉櫻は指で拭いとるのではなく、そのままにした。


「おい……泣くなよ。松平や美玖が来たらどうするんだよ」


「あぁ……ごめん。ありがとう」


「もらい泣きって恥ずかしいな」


 麗律は必死に言葉を紡ぐ。そうしなければ莉櫻より泣いてしまいそうだったから。そうしなければもらい泣きではすまないだろうと思ったから。


「麗律が恥ずかしいなんて言うとは」


「お前、自分をなんだと思っているんだ」


 泣き声で互いの顔を見てしまった。赤く腫れた目元と赤く染まった頬。見ていたらおかしくなってきた。


「ひどい顔」


「そっちこそ」


 あははっと声を上げて笑った。、ひとしきり笑ったあと、麗律は一言、言っておかなければならないことを思い出した。


「そういう関係にはなったけど松平達みたいなのは無理だからな」


「待ち時間のアレは?」


「もちろん、ノーカン」


「えー、してみたかったなぁ」


「まぁ、いずれ……気が向いたら考えてやるよ」


 そう言って視線を景色へと外すと遠くから1組の見慣れたカップルが手を繋いでこちらへ近付いてきた。


「……待たせたか?」

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