第15話 恋愛相談(パート1)

 俺は会議室を出た後、急いで部室へと走った。恋愛相談をあの2人がやっていると考えるとどうしても不安になったからだった。

 会議室の“再起部について”は最近、活動がなかったために他部活動から不満、廃部の声があったから、なのだそうだ。人騒がせなことこの上ない。


「……それで?」


 俺は今、部長椅子に腰掛けている。そして、俺の言葉は目の前の2人に対して放ったものだ。

 机の上には今回の相談者さんの個人情報が記載されている紙が一枚。新山さんだろう。そして出入り口付近の椅子に座ってもらっているのがその件の相談者さん。

 再起部の部室内は結構広く、俺専用の部長椅子。長机が2脚対になって存在しているがまだまだゆったりとしたスペースがあった。


「いやぁ。何を話せばいいかわからなくて」


「他人との会話という仕事はあまり好きではありません」


 お2人さん?この事業を始めたいと言ったのがあなた達ですよ?


「……せめてもう少し内側で」


「彼女が拒むのです。仕方がありません」


 俺が部屋に帰ってきた時からずっとあそこに居るんだよな。もしかしたら馬が合うかも、と思わなくもないが自分から話には行けない。無理です。

 しかし、これでは相談にならない。


「ブチョー、今日だけだから」


 俺にやれと?そういう事ですよね。本当は心底嫌なんだけど……。廃部になることもないし俺が動く必要性は皆無なのだが……。


「……今回だけだぞ」


 どうして俺はこんなにも甘いのだろう。


「……えっと。こちらへどうぞ」


 ダメ元で声を掛けると相談者さんは普通に座っていた椅子から立ち上がり俺の示した椅子へと着席した。

 俺は部長椅子から紙を獲り、向かい合うようにして席に座った。


「……1人の方がいいですか?」


「じゃあお願いします」


 俺は部員2人に目配せをして退室を促した。吉田さんは全く分かった様子がなく、イラッとしたが新山さんが連れて行ったので今回は不問にしておこう。


「……確認でもう一度内容を話してください」


「自分の名前は真鐘麗律です」


 俺としたことが自己紹介を忘れていたので、ですと言った途端に俺の名前は松平潤平ですと名乗った。


「あの、松平さんは感じないかもしれませんが人見知りでコミュ障なんです」


 うん。最初の時と比べて違うなぁ~。もしかしたら違う人種なのかな。とか思っていました。


「……はい」


「でも、気になる人が居て」


「……その人に話しかけたいという事ですか?」


「いや、それが毎日その人から声を掛けてきてくれるんです」


 なんだそのリア充感。さっさとその相手の男が告白すればいいのに。


「……ではどんなことの相談ですか?」


「あの……自分から告白したいので協力してください」


 何とも…まぁ…最初からすごい内容の相談が来た。俺は顔に出ないように仮面をつけておくことにしよう。……相談中は自分の想いを相手に吐露することになるため、表情の動きには鋭くなるからだ。


「……自分から話しかけたことはありますか?」


「ないです。自分が話しかけたら迷惑じゃないですか。それに顔に自信がないですし」


 話しかけてくる奴が迷惑だと思うだろうか。そして顔に自信が無いという真鐘さんだが、決してブサイクではない。むしろ綺麗な顔立ちをしている。

 髪はダークパープルとでもいえばいいのだろうか。完璧な黒色ではない髪は肩に届く前に途切れており、眼はダークサファイアで、地球の七割を占める海のように深い青色をしていた。…この学校は校則がないのだろうか。

 個人的な感想を口にすれば可愛いというよりも妖艶というべきだと思う。


「……そんなことは無いと思いますが…念のため、相手の方をうかがっても?」


 フォローはしておく。俺も男だから。


「名前は鶴田莉櫻つるたりおう優しくて私みたいな底辺にも話しかけてくれる。優しいんです。あと自分の好きなゲームも一緒にやっていて教え合いもしているんですけどその時も優しいんです!!」


 優しいしか言うとらん…。しかし完全に恋する乙女になっているのは分かる。


「……他に何かあれば」


「実は彼、幼女キャラをよく好むんです」


 あ、ロリコンだ。お近づきになりたくないランキングベスト3には必ずランクインしてくるロリコン。周りの人間から1歩引かれているロリコンはロリコン同士で派閥争いが起こったりそのロリキャラに対しての信仰力を上げたりしている。


「……あーロリコンサンデスネ」


 声がいつもと違うのはしょうがないことだ。


「否定はしませんけど侮辱された気がします」


 同じく否定しません。けれど心で謝罪しておきます。


「……では相談内容はいつも話しかけてくれる鶴田氏に対して真鐘さんの方から話しかけたい。そして最終的には告白したいという事で間違いないですか?」


 真鐘さんは少し下を向いてふーっと息を吐いた。そこで俺はようやく自分の言った言葉が少々ストレートだったことに気付いた。しかし、今までの自分から変わりたいのであるならばこれぐらいは必要だと思ってもらおう。


「はい」


「……それでは1つ。真鐘さんは話しかけられたときにしっかりと返答をしていますか?」


「話しかけられたら話すようにはしています」


「……なら、話題を振ってみてください」


 真鐘さんがえ?といった顔を俺に向けてくる。しかし、それも想定内。話しかけたい、というやつに話題を振れと言っているのだ。言われたのが俺だったら机をばんっと叩き立ち去るところだ。


「どういう事ですか?」


「……会話中で自分から話してみてください」


「なるほど。分かりました」


 案外抵抗がないんだな。てっきり拒絶されると思っていたのだが……。それともう1つ。どうして俺と話しているときにはコミュ障が出ていないのだろうか。


「……では今日の相談は以上です」


「できたらまた来ます。今日はありがとうございました」


 しかし、仕事として接することが出来ても個人として接することが出来ない俺は引き留めることは出来ずに真鐘さんの背中を見送った。

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