第14話 部活動総会(後半戦)

「松平はなかなか気骨があるとは思わないのか?」


「…あの再起部なんですよ?」


 俺が会長と先生の話についていけなくなってから数分後、俺はグイッと腕を引っ張られるようにして座った。


「お前、再起部だったんだな」


「……まぁな」


「そっか…。ここだけの話、会長は前回のことでトラウマになっているらしい」


「……トラウマ?」


「詳しいことは省くけど…再起部と一悶着あったらしい」


 省き過ぎではないだろうかと思ったが口に出すと面倒事になりそうなので黙っておく。……ハンドボール部長さん。もう少しいい情報くれ。この野郎。


「私に再起部のことを再起部といったな?」


 場の雰囲気が変わったのを感じた俺は家に帰りたくて仕方がない。


「…分かりました。だが、一か月だ。一か月で成果が出なければ廃部にする」


 最後は俺、いや自分自身への口調に変わった会長はそう宣言した。……大原先生強し。けれどそのドヤ顔が地味に腹立つからやめてくれ。

 大原先生が再起部顧問で助かった。俺があのまま会長としていたら必ず負けていただろう。そうなれば再起部は問答無用で廃部になっていた。俺が何故こんなにも躍起になってしているのかは自分でもよくわからないがこれもやりたいようにやりきってしまえば答えは出るだろうと思っている。

 俺のこれからはそれでいいんだが……会長と先生の会話の中で俺の知らないことの引き合いで会長が退いたように聞こえたんだが……どういう事だ?

 俺の今までの我関せずスタイルのせいで全く情報がない。後悔はしないが少しだけ気になる。


「これで部活動総会は終了とする」


「沖田と松平は残っておいてくれ」


 えぇ~俺もか~い。

 再起部部長以外の部長と生徒会長以外の生徒会役員は会議室から退室し、この会議室には俺、会長、大原先生の3人が残った。


「うまくいったな」


 開口一番は大原先生だった。ん?うまくいった?


「ですね」


 2番は会長。ん?何を言っているのかな?俺は沈黙を続けておく。これが我関せずスタイル。


「何処からこんな人を引き抜いてきたんですか?」


「教室だ。暇そうにしていたから多少強引に部長の椅子に座らせた」


 た、多少?!ハッタリと脅しで多少?!先生の口から本気と出た時にははたして何人が生き残れるのだろうか。


「今回の部長は一味違いますね」


「流石だな沖田。お前も見えているんだな」


 そんな期待されても困るんですが。俺自身は見えていないところを見て2人で共感するとかどんな罰なんだ。


「松平、といったか。生徒会に入らないか?」


「……は?」「ほぅそこまでか」


 生徒会。もし入れば今の数億倍は忙しくなるだろう。しかし、その生徒会には美玖がいる。絶対毎日が楽しい。俺が入ろうかな~と悩んでいるとポケットから着信バイブが1件鳴った。

 俺はすみませんと一言言ってそそくさと端のほうまで行きメールを確認する。


『さっき吉田さんが来て、1人相談者が来たと伝えてくれって』


 ありがとう、と返信をし、やれやれと肩をすくめる。何故って……もう後には引けないし、断る理由が出来てしまったからだ。

 俺は会長の元まで歩き、目の前に立つ。


「……お断りだ。メールで早速相談者が出たらしい」


 会長はふっと笑みをこぼし、


「あぁわかった。頑張ってくれ」


 会議中に1か月だっ!と言っていた人には見えない。……ここで俺は初めて会長と先生が会議の時が演技で今の言葉が本音だという事に気付いた。


「それでは」


 会長は会議室を後にし、中には俺と先生のみが残っていた。

 気まずい沈黙だが、俺から話すことは無い。……あるが話せない。


「気にはならないのか?」


「先生はポツリと呟いた。恐らく、先生と会長の会話に出てきた“あの再起部”“あの子”のことだろう。


「……気にはなりますけどそれだけです」


 俺は本心をそのまま伝えた。昔のことを今の俺が訊いたところで何も変わることは無いし、どうすることもできないからだ。

 然し。そのことを相手に話すことは無い。相手は会い手でしっかり、話された奴が何もできないことを知っているからだ。それでも話すのは自分の思いを誰かに知って欲しい、共有して欲しい、理解してほしいという自己満足を満たすために他ならない。


「そうか。なら忙しくなる松平には止めておこう」


 この先生の悪いところはこういう含みの言い方をしてくるところだ。……いい趣味してるよ、ホント。


「……1つだけ。いいですか?」


「ん?なんだ?」


「……会長とは?」


 先生は全てを理解したようだ。俺が何を訊きたいのかというと会長との関係性についてともう1つ。


「私は生徒会の担当もやっていてな。沖田とは長い付き合いがある」


 そこはなんとなく気付いていた。


「あとは……気になるだけの松平には必要ないだろう。新事業の『恋愛相談』もあるようだしな」


 それを言われると反論できない。しかもすっかり忘れていた恋愛相談。誰が相談相手になってやるんだよ。


「……はぁ。やれることしかしませんけど」


「うん。松平らしいな。いいんじゃないか?」


「……俺らしい?」


「お前にどんな過去があって今に至るのかはわからない。だが、本当のお前は責任感の強いやつだと……そうだな……感じるんだ」


「……俺はそんなに立派じゃない」


「でも、立派じゃない割にはやるんだろ?」


 この先生は俺に何を求めているのだろうか。確かに最初は会長みたいな役を中学生まではやったこともある。が、あの事件のせいで……。


「……廃部になるかもしれませんよ?」


 皮肉を込めておく。でないと、何かの雰囲気に流されてしまいそうだったから。


「ならんさ。あの会議の事は全て嘘なのだから」


 ……おい、先に言えよ。

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