第16話 恋愛相談(パート2)

 授業中や学校生活などは俺を拘束するだけの無駄な時間だ。だが、世界中で陽キャラと呼ばれている者には一番大事な時間と言ってしまっても過言ではないだろう。如何にサボるか、如何にバレずに携帯を触れるか。縛りプレイをして楽しむのだ。何が楽しいのかさっぱりわからない。


「今日の授業はここまで」


 担当教諭は逃げるように退室した。余程帰りたくて仕方がないようだ。それは共感できる陰キャラ勢、俺。

 実はこのクラスには歴代最強であろう陽キャラが1人いる。名を沖田烈。あの会長の弟で親はPTA会長でもある。俺が知っているのはそこまでだがここから推測と噂でよければ聞いてほしい。

 強者を後ろ盾に出されて行われる烈の非常識は中学生の時よりもヒートアップした。いじめ、カツアゲ、校則違反。並の中学生ならば退学なのに対して先程の後ろ盾を使って黙らせてきた。

 会長がそのようなことに力を使うとは思えない。PTA会長も違反者を保護することは無いだろう。しかし、もしも起こったら……。立場がなくなるのは告発した方だ。そのため誰も何もできない。俺は全く関わらな……。


「おい、お前ら、今日どこ行く?」


「カラオケはどう?」


「ボーリングもありじゃね?」


 風のうわさが正しいのであればカツアゲにでも行くのではないだろうか。

 取り巻きの名前は残念ながら存じ上げないのでまた何れの機会がありましたら、と次が絶対にこない人に言う言葉を心の中で唱える。


「おーい奴隷部長。今日は暇なのか?」


 今日は相手が俺に用があるようだ。


「……再起部で暇がない」


 お前らと違ってという言葉はぐっと飲み込む。


「あ?奴隷部長。お前学校の奴隷なんだろ?」


「……違うけど」


「俺らの奴隷でもあるってことだろ?ちょっと資金作ってくれよ」


 こいつの頭と耳は使い物にならないらしい。だが、権力、影響力ともに向こうに軍配が上がる。

 俺の打てる手は無し。詰みチェックメイトである。


「……そんな金は無い」


「あぁ?奴隷が主人に口答えしてんの?盗みでも何でもして持って来いっ!」


 何故俺がそこまでしてやる義理がある…。心内ではいろいろと言葉が形成されるが、実際に口から出ることは無い。


「……無理。じゃあ」


 俺は会話を強制終了。荷物を持ってドアに手を掛ける。しかし肩に誰かの手が置かれる。


「逃げるなよ。奴隷」


 いい加減にウザったくなってきた。俺は小声の1つでもくれてやろうと面を向き直した。……が。


「沖田。ちょっと来い」


 背中から声がかかった。大原先生の声が俺の背中に全て突き刺さってくる。


「お前らもだ。逃げようとするな」


 沖田グループは先生によって連れられて行った。奴隷と罵声を浴びせるならほといてほしい。君達に害はないはずなのだが……。


「ごめんな松平」


 学級委員長が俺に謝罪をしてきた。大変だなこのクラスをまとめるというのは。まぁ、俺には全く関係ないし、やりたくもないのだが。


「……部活行くわ」


 ☆☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 再起部に入った俺は先に入っていた人物に驚いていた。部員の2人はいつも通りなのだが、真鐘さんも居たのだ。


「……は、はやいですね。真鐘さん」


「えぇ、また来ちゃいました」


 前回と比べて明らかに変わっている。具体的に言えば部員の2人が居るのに普通なところとか、喋り方がコミュ障のそれではないことだ。恐らくは話を振ることに成功したのだろう。


「……今回は?」


 真鐘さんは既に座っているため、俺も向かい側に座る。あの2人は……そのままでいいか。


「次のイベントのことで話を振ったんですけどその時はいつもより長く話せました」


「……鶴田氏に何か変化はありましたか?」


 仕事として切り替える。この案件は最も大事な最初だ。何としても成功させなければ。


「ありがとうって言われました。あ、そういえば耳が赤くなっていたような……」


「……では、真鐘さん自身はどう感じましたか?」


「楽しい。そう感じました。そしてもっと好……んんっ!何でもありません」


 熱く語りすぎて2人がいることを忘れていたらしい。逆に2人は出かけたワードに反応し聞き耳を立てている。


「……ゲームとはどういったものですか?」


「よくあるスマホゲームです。チャットもあるやつ」


「……ではそのチャットでも彼と話してください」


「そのチャットはやっている人全員が見れるんです」


 それは逆に好都合だ。大多数の人に向けてとの解釈が出来る。俺は話そうかと思ったがやめた。これでは俺が真鐘さんの後ろから操っているみたいではないか。

 本人がそれに気付いていないから余計である。


「……そうですか。では思いきり楽しんでください。ゲームで彼との時間を。そうすればもっと知ることが出来るし、相手ももしかしたら…」


 相手と俺に言われた瞬間に顔を赤くする真鐘さん。ここまで思われている男子なんてそうそう居ないだろう。


「今日はこれで大丈夫です。ありがとうございました」


「……真鐘さん。1つだけいいですか?」


「何でしょうか」


「……異性の俺だけだ無く、同性の内の誰かにも同じ相談をした方がいいと思いますよ」


 逃げではない。実力不足なだけだ。真鐘さんは俺の予測した表情とは違い、申し訳なさそうな顔をした。


「実はもうしているんです。ごめんなさい。今まで黙ってて」


「……ちなみに名前は?」


 俺は後にこの問いをした自分を恨んだ。なぜならその人とは、


「端山美玖さんです。生徒会の」


 かれこれ10分は固まっていたと思う。いや、まさか、あの美玖の名前がね…うそ~ん。


「ブチョー!?しっかりして!!」


 俺が気付いた時には真鐘さんは帰っており、吉田さんに肩を持たれ、ぐわんぐわん振られていた。


「部長と端山美玖……どんな関係でしょうか」


 俺の耳には当然新山さんの呟きは聞こえなかった。……振られていたから。

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