第二章『ダブルカップリング』
第12話 初仕事と初ピンチ
何もない。あれから本当に何を無い平日を平和に過ごす俺は今更ながらに面倒事しか残っていないことに気付かされる。
今は6時間目。あと数分足らずでチャイムが鳴る。残念ながら俺は廊下側の席なので窓の外を見て時間を潰すという選択は使えない。そうなればすることは1つ。考え事である!誰だ?今、勉強しろとか言った奴。先生の後頭部が眩しくて黒板が見えないの。オーケイ?
考えることと言っても実はそんなにない。まぁ、再起部のことぐらいしか……再起部。やっぱり行きたくない!部活なんてだるい!このままずっと授業で良いから……。
「では、今日の授業はここまで」
そういう時に限って授業は早く終わる。
☆☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺は帰り支度を済ませた後、重い足取りで再起部へと向かう。大原先生に連れられるようにして訪問したのはいつだったか。実際には先週のことだったが、俺は3年前ぐらいの出来事に思えてしまう。3年前は学校いなかったけど。
「……こんちは」
ドアを開けて取り敢えずの挨拶に対して帰ってくるのは再起部部員の2人の声。
「あ!ちわーっ!ブチョー」
「仕事ですか?解散ですか?」
吉田さんと新山さんである。ん?覚えてた。後、俺来たばかりで解散ですか?ってなけなしの勇気が削れちゃうんですけど。
「……仕事かな?」
全く内容は決めていないが取り敢えず答えておく。今にも帰ろうとしていた新山さんを吉田さんはがっちりホールドし、帰宅を阻止していた。よくやった。
「されで……仕事は?」
「…………ブチョー?」
え、ないの?みたいな顔で見ないでくれ。あるから。
「……再起部を再起する為にはどうしたらいいと思う?」
俺は率直に訊いてみた。そもそも、部員3人というのは生徒会の一言によって簡単に廃部に追い込まれる。それをどうにかしないといけないのが俺の部長とし……いや、先生との条件であると考えている。今は美玖が話していないからこそ表面上平和なのであって、いつ崩れ去るかはわからない。
「1つ、提案をするのならば学校に貢献して重要値を上げる、ですかね」
「はーいっ!部員を集めるのはどうかな?」
2つの意見が出たが片方は無視する。何故か?それはこの再起部が普通の部活ではなく通称で奴隷部と呼ばれているからに他ならない。俺だって嫌である。もう入っているけど……。
結局、先生ほどの学校での地位があり、その人が連れてくるなどをしない限り誰も好き好んで奴隷部などはいらないのだ。
「……貢献とは?」
会社の上司と部下のようだが、俺は上司役なので不都合はない。
「役に立つ行動をする、という意味です」
「たとえばー?」
「彩花にはいって……まぁいいです。簡単に言えば先生や生徒会の手が届かないところを私達がやるのです」
「……一理あるな」
「分かった!恋愛相談的な?」
「随分と唐突ですが、要はそういう事です」
「……前言撤回。一理ないわ」
「えーっ!どうして?」
「……どうしてって。恋愛相談って再起部にしてくるわけないだろ」
「それは、私達が再起部だからですか?」
語気が強くなる新山さん。だが、俺が言いたいことは再起部だからではなく、それ以前の問題で、
「……いや、恋愛経験があるのかって言いたいんだ」
「……」「ないよ。そんなの」
あはは………やっぱりな。となれば俺ぐらいしか経験がないわけだが、俺の恋愛など周りの人から見れば恋愛ではないのだろう。つまり、恋愛相談をしようと思っても手段がないのだ。
「……それで恋愛相談をするつもりなのか?」
「それは例えばであり、そう決まった訳では…」
「やるのっ!」
意見が分かれたぞ。まだ多数決で早める方に軍配が上がっている。
「どうして?」
「私はこの再起部を失いたくない。その為なら何だってやりたいの。経験は無いけど…。……そうだよ。無いならすればいいんだよ」
物凄い嫌な予感。ちょっと待て。落ち着け。意味ありげにこっち見んな。俺にはもう彼女が居るんだよ!
「成程。それなら問題は解消ですね」
何処がっ!?……でも言い出せるわけないし。どうしたら…。
「……待て、それ以上言うな。あと動くな」
ぴたりと止まる2人。部長の力ってすごいな。
「ブチョー」
「……分かった。恋愛相談は好きにしろ。だが、俺は……その……………デートは……しない」
たとえ相手が美玖ではなくても『デート』のワードは恥ずかしい。
「じゃあどうするの?」
「……新山さん。頼んだ」
「お任せください」
丸投げである。実はさっきからポケットに入れている携帯のバイブ振動が異常なのだ。気持ち悪い。
画面には通知13件。差出人は全て美玖。彼女以外の連絡先は知らないから当たり前といえば当たり前だが。内容としては既読を付けてメールが10件で殺天スタンプが一件。残りが再起部廃部のお知らせ、と………………ん?見間違いか?目を擦る、一度電源を落とす、など、試してみたが俺が見える文字は廃部の二文字が映っている。
これは打ち合わせ中の2人には絶対に見せられない。特に吉田さんはこの再起部に強い思い入れがあるようだからな。
俺はまだこの部活で何一つしていない。形だけの部長。雇われ店長ならぬ、雇われ部長みたいなものだ。その俺が何故少し動揺してしまっているのだろうか。
ーー再起部を再起しに来たのではないのですか?ーー
ふと、ここでの会話が蘇る。言葉は先生からの命令だったとはいえ、部員が発した言葉だ。責任は部長である俺がとらなくてどうする。
コミュ障になる前の俺が何故かこの時だけ登場してきた気がした。
ブー。
着信一件。
『なるかもしれないから』
『明日の部活総会。頑張ってね』
……どうやら一件見ていなかったらしい。俺のさっきの時間を返してっ!
俺は荷物を持ち、ドア近くまで行く。帰るのだ。
「……本日は解散。お疲れ様」
部活動時間は42分だった。
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