第4話 自己紹介
次の日の朝、俺は想像通り寒気に首を差し出して起きた。昨日の彼女とのメールの記憶が鮮明に蘇る。慌てて頬に手をやると案の定、緩みきっている。ははは……何やってんだろ俺…一発殴る。ぐへぇ……痛い。
まぁこれも一人だからできることだ。一人万歳。
……よし、学校行こ。
「……っと思ってきた…が」
何だろう。この裏切られた感…。時は放課後、目の前には再起部部員の2人。……えっと新山さんと吉田さん。
「ブチョー、考え事?」
昨日のうちに部長任命され、その部長椅子に座っていると吉田さんが顔をぎりぎりまで、放蕩に花席が当たるぐらいの距離に近付けてきた。
「……ち、近い」
その気がなくても心臓に悪い。だが、答えてもいいかなという気はしてしまった。
「……名前誰だっけ、と」
「ひどいっ!」
「……すまん」
謝るときには謝る。それが俺だ。吉田さんはうんうんと頷いている。何かむかつく。
「しょうがないな~。自己紹介しよーっ!」
「仕事ならやります」
今まで読書で我関せずだった新山さんが乗ってきた。何か若干眼がキラキラしている気がする。
ちなみにだが、常任委員会の方も最初は……という空気の結果、学級委員長がすることになった。
その時の先生の顔が“最初は助けてやる”という上から目線だったのを俺は一生忘れないだろう。
「私の名前は吉田彩花です。よろしくね、ブチョー」
「私は新山静乃。……仕事完了」
「……俺は松平潤平。よ、よろしく」
ちゃんと挨拶できただろうか。……って小学生か!何分人と会話したのは久しぶりだから(美玖は除く)しょうがない。
「ブチョー、もう覚えた?」
いや、無理だろ。俺を打ち込んだパソコンか何かと勘違いしてんの?
口に出していないが、顔や間で察したのだろう。ぷーっと頬を膨らませていた。……俺にどうしろと?元々人との接し方なんて知らないから記憶が残らんのだよ。
「ぶーっ!」
口にする奴は初めて見たぞ。……どう反応を返していいのかわからない。
「ブチョーは何でここに?」
「……脅され……いや、先生に推されて…」
あれ?何故言い直したんだろうか。こういう輩は根掘り葉掘りに見境なく訊いてくるからか。美玖との関係を隠すためか。そうだろう。そうだと思いたい。
「じゃあ何をしに?」
「……分からない」
「おーい。読書してないでシズシズも何とかして」
「仕事ですね、では」
新山さんは本を閉じて俺の方へ一歩踏み込んだ。俺は一歩退く。一歩進んでくる。……一歩退く。……一歩進む。……一歩引…けない。壁が俺の行く手を阻む。あっ……終わった。
そんな俺を余所に新山さんは俺にずんずん近づいてくる。何がしたいのか。何をされるのかわからない。
「あの……何を勘違いしているのかは知りませんが…私は仕事用のファイルを獲りに来ただけですから」
ひょいっと俺の奥にある戸棚から一冊の青いファイルを抜き出す新山さん。
「……え~……っはい」
「あはは…シズシズはいつもこうだから」
先に言えよっ?!
「あなたは再起部で“再起”しに来たのではないのですか?」
「……え?」
「昨日、初めて会った時に思ったんです。この人、“何を迷っているのだろう”って」
そうなのか。俺は迷っていたのか……。
「これで良いのですか?彩花」
「うん。バッチグー!」
うん?どういうこと?
「仕事完了」
「流石先生。ブチョーの事はお見通しっ!」
ちょっといい感じになって感動していた俺の気持ちを返してっ!あと、あのアマ絶対ゆるさねぇ…。
「……決めた」
俺は一言、そう呟いた。2人は俺の方を向いて何を?という顔をしている。どうやら美玖よりは分かり易そうだ。
「……再起部部長になる」
その先を俺は言わなかった。いや、言えなかった。だが、もし、俺が最後まで部活をやりきったその時には……。
「もうなってるじゃん」
台無しだよ。まぁその方が俺らしい。
「はい部長。本日の仕事分です」
ドーンッ!地震が起こったと錯覚するほどに響かせた震源、まさに原因は山積みにされた書類だった。
え?俺一人?これを全て?冗談じゃない。
「何でしょうか」
「……いえ、なんでも」
怖ぇぇぇぇぇええええっ!!人ではない何かが新山さんの後ろに居たよ?!
「私達もさっさとやっちゃおーっ!」
2人は俺の目の前の山積みになった書類をとっていく。何で?
「…何でしょうか」
何でしょうか、じゃねぇっ!知っててわざとやってんのか?扱いがひどい!!
俺の中で新山さんの株が勢いよく下落した。
手際よく仕事をこなしていく2人の姿に疑問が一つできた。……が、わざわざ言う必要は無いだろう。というより話しかけ方が分からない。
「ブチョーは気にならないの?」
「……何が?」
「私達が何故2人だけで再起部をしていたのかということ」
…こいつ。俺の心を読んだのか?さっきは気になっていただけで口には出していないのでセーフ。というより面倒くさい。どうせ明日にはきれいさっぱり忘れている。
「……別に」
最強の
「うひっ!仕事」
時折発せられる声が彼女を一段と怖くする。
「ならいいや」
ほっとしたような不安そうな複雑な表情で吉田さんはポツリと呟いた。
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