第3話 再起部再起のお知らせ

「何故こんな事に……」


 俺は胸まで浸かっていたのだが首までに変更し、ぶくぶくと泡を出した。これは案外楽しい。

 現在入浴中なのだ。しかし、この入浴を馬鹿には出来ない。入浴には心を落ち着かせる効果がある。この入浴によってアーティストが素晴らしい曲を思いついたり、小説が漠然と次の展開を閃いたりする。のだが……。俺は頭を抱えていた。脳は放課後の記憶を再生するーー


 *** * * * * *


「私はこの再起部の顧問だから」


「……は?」


「まず君には2人を統制して欲しい」


「……え?」


「はっきり口にすると部長だ。頼んだぞ」


「……」


「ともあれ、紹介までは私がしよう」


 先生は2人の女生徒の首根っこをつかんで俺の前に連れてきた。妙に二人とも大人しくなっている。ネコかな?


「こっちが吉田。で、こっちが新山だ」


「よろしくお願いします」「ちわーっす」


 先生の右手側に居る軽~い感じの……いやむしろチャライ薄桃色の髪をしているのが吉田さん。で、さっき先生に究極の選択を迫っていたのが新山さん。インテリ風な外見で(眼鏡に手には本)だが性格やばそう。

 ……っと待てよ。俺より先に入部者がいたんだからこいつらが俺のことを拒否れば部長などという面倒なことをしなくて済む。


「……えっと俺は松平潤平……です」


「お前ら。松平が部長で問題あるか?」


「ん~ん。全然ないヨっ!」


「問題ないです」


 あ~。切り札もうなくなったぁ……。


 *** * * * *


「俺にどうしろと……」


 俺は理屈では分かっている、が感情では納得していないという矛盾している状態だったため、強引に場を浴びて寝巻に着替える。おい誰だ。男のそんなシーンなんてどうでもいいとか言った奴。……同感だよ。

 家で基本的に1人な俺は誰にも邪魔されずに自由。まさに“楽園エデン”なのだが、頭の中は“地獄ヘル”である。


「はぁ…」


 部屋に入り、布団に顔をうずめる。寝入ったら異世界とかない?無いよなぁ……だよなぁ…。

 軽い現実逃避をしていると携帯が鳴った。これはメールだな。


『今、時間大丈夫ですか?』


 美玖からだった。彼女はいつも固い。終盤には柔らかくなるのだが別日に会ったらまた固い。こんな無限ループを俺は小学五年のあの時から続けてきた。


「はぁ……しょうがない」


『勿論、大丈夫。どした?』


 これもいつも通り。


『潤平は部活に入らないの?』


 彼女はメールでは“潤平”とかく。しかし、他人が居る場だと松平君で2人きりだと潤平君、と呼ぶ。境界線が俺にはさっぱりわからないが、名字で呼ばれたときにグサッと来るのはしょうがないことなのだろうか。俺も人前では“美玖”などと言えないけれど……。


『今日、強制的に入らされた』


『ど…………何処?』


『再起部』


 このあと十分ほど連絡が付かなかった。トイレかな?その間の俺?ずっと画面を睨んでいましたか何か?

 彼女はメールでは人格が変わる。素っ気無い感じだったのにメールではねぇねぇ系になる。嫌ではない。むしろ好み。実際にいってみて欲しい。


『お待たせーっ!』


『風呂?』


『まぁそんなとこ……それよりさ…』


『……ん?』


『再起部ってどんなところ?』


『女生徒しかいなかった。成り行きで部長になった』


『女の子…………。私の方が勝ってる?』


 え…何が?俺は今まで止まることなく動いていた手を止め、長考の姿勢に入った。

 勝ってる?勝負事か……。ん~。出て来ない。どうしたものか。


『ニャー(スタンプ)』


 取り敢えず、招き猫が画面に内側からパンチするスタンプを送っておいた。相手の出方を見極め、起死回生の一手を放とうと身構える。


『ニャー(スタンプ)』


 まさかのカウンター。そして全く同じスタンプ。


『ん~。勝ってるんじゃない?』


『満面の笑み(スタンプ)』


 微笑を浮かべた天使がこちらを見てくるスタンプ。だが手に持っているのがどう見ても死神の鎌。“殺〇の天使”とはまさにこのことを言っていたのだろう。(冗談)


『あのぅ……美玖さん?』


『満面の笑み(スタンプ)』


『怒ってらっしゃいます?』


『ん~ん。怒ってないよ~んだ』


 これは怒ってらっしゃる。今までに無いほどに怒ってらっしゃる。俺のせい?……だよなぁ。


『休日、空いてる日は?』


『今週の土曜日』


『近っ!明後日かいっ!』


『他の日は嫌…、じゃなくて空いてない。』


『分かった。都合もあるだろ。どこに行きたい?』


『………そういう事じゃ……自分で決めてっ!』


 わがままなお嬢様の執事の気分だ。


『分かった。考えとく』


『潤平、再起部ファイト(スタンプ)』


 花が鼻息を鳴らすスタンプ………実用性ないだろ……。

 時計を見ると一時間も経過していた。俺は筆箱とノートを取り出した。ん?勉強する為じゃないぞ。デートスポット調査だよ。期限は短いがそれなりにやってみるつもりだ。

 ふと、友達と行ったら?という想像が働く。が、俺は一人最後尾を歩いているか隠れて別行動をしている可能性しかない。その確率……99.9%だ。

 そして再起部。ファイトと応援されたという事は……頑張ろうという気にもなってくる。それが人間であり、俺である。しかし、この応援が大原先生だと舐めてんの?となる。……他の例が出なかった。

 部員のあの2人が俺の見立てによれば再起必要そうである。

 “再起部を再起する”。俺の脳内メモ帳の新規項目が成された瞬間だった。

 そして、一段落するまで調査してふと時計を見ると深夜零時。良い子はおねんねタイムである。もぞもぞと布団の中に入りこみ防壁を作る。これで寒気は入ってこれまい!その代わり、明日の朝は首を下げに行くのだが……。

 目を閉じて今日の事を振り返る。大事なことを忘れていた。

 ーーー委員会も可能性がぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!ーーー

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