錬金術ギルド1
「ギルド登録に来たんですが。推薦状もあります」
「はい、それではギルドカードと推薦状を拝見いたします」
「どうぞ」
「たしかに」
軽いやりとりで、さくっと錬金術ギルドの登録は完了。あとは推薦状の人物と会うだけである。
錬金術ギルドは、これまた別の雰囲気を持っている。一見、アイテム屋というか、素材屋に見える。
標本のように様々な石が展示されていたり、薬草の絵などが壁に掛けられていたり。ホールは広く、冒険者ギルドのようにカフェスペースとカウンターがある。
若干閑散としていて、物音は少ない。
クエストも張り出されていて、様々な素材の依頼があるね。
ただ、ほぼ全てが元となる素材をこちらで用意する必要がある、と。
自分で元になる素材を用意しないといけないから、ちょっとハードルは高いと感じる。
街の広場にあるアイテム屋に行けば、元素材を用意できそうなのはいくつか。
メモだけしておこう。
それぞれのギルドで特色があって、見比べるのも中々楽しいね。
しばらく見回していると、呼び出され、奥へと通される。
モミジとウヅキとは違い、直に研究室の1つへと案内される。
「君がモーリアちゃんの言っていた子だね、リューンだよ」
「はい、よろしくおねがいします、ルイです」
出迎えてくれたのは、長い緑の髪が特徴的な、エルフの女性だ。見た目は十代前半といった感じで、背もボクと同じくらいだが、モーリアさんを「ちゃん」付けすることから、見た目からは年齢は測れない。
エルフだし。
目上として、失礼のないように対応することを心がけよう。
「モーリアからある程度、話は聞いていると思うが、<錬金術>は変成と合成の魔法技術となる」
「はい」
「まずは、君の力量を見せてもらう。ポーション瓶でも作ってもらおうかな」
「わかりました。質を見ますか? 量を見ますか?」
「ふむ? ……ふむ。そうだね。両方みたいかな?」
「わかりました」
基本的に、<錬金術>は1つずつしかアイテムを作れない。
けれどもこれは、スキル補正にまかせて半自動的にアイテムを作った場合に限られる。
鍛冶や料理など、他の生産でもそうだが、手動でアイテムを作れば、スキル経験値と品質が高まることがわかっている。
では<錬金術>でも手動生産が出来るかと言えば、これが結構難しい。
リアルで魔法が使えないボクたちに、魔法をベースとした生産技術を手動で行うには、かなりの訓練が必要なのだ。
ボクは砂を相当量、錬成陣にぶち撒け、<魔力操作>と<魔力視>により、まずは砂を選り分ける。
ガラスを作る成分だけを、砂の中から<魔力操作>によって判別、持ち上げ、練り上げていく。
<魔力視>によって全体に魔力が行き渡った事を確認したら、一気に形成。
砂の品質は「普」でありながら、混ざりけなし、品質「良」のポーション瓶が出来上がる。
これこそが、<錬金術>における手動生産だ。
負荷が高い!!
結構、精神力を消耗したので、リューンさんに断って少し休む。
その間にポーション瓶を渡して検分してもらう。
「ふむ、ふむ」
彼女は頷くだけで済ませる。
判断を下すのは一旦保留にするらしい。
気合を入れ直し、使用済みの砂を別に移して、もう一度、砂を盛る。
再度、<魔力操作>と<魔力視>によって、今度は大雑把により分けつつ、形成。
今度はまあ、簡単な部類。
粘土のように練り上げ、頭のなかにポーション瓶が並んでいる様をイメージ。
ぎゅるっと形を整えて完成。
5本の品質「普」のポーション瓶が完成した。
スキル任せで作る場合は、砂を盛って、1瓶錬成して、を繰り返すことになる。
今の方法だと、錬成にちょっと時間がかかるが、まあ時間短縮にはなるかな? 単純に時間は1/2程度になるだろうか。
スキル経験値も美味しい。
「できました」
「ふむ、ふむ。大変すばらしい」
ぱちぱちと手を叩いて褒めてくれる。
褒めてもらえると嬉しいもんだね。
「ありがとうございます」
「独学でここまできたのかい?」
「ほぼそうですね。本などでも勉強しましたが、それには素材の組み合わせなどしか、書かれていなかったりしましたし」
「そうだろうね。君は魔法の成り立ちを知っているか? <神聖魔法>や<生活魔法>のほうだ」
「なんとなくは。昔の人がルーンで作り上げた魔法体系を、理解しなくても使えるように行使できると」
「いいね。<錬金術>も、実はそうだ。正確には半分がそう、というべきか」
リューンさんは、薬草を2つ取り出し、錬成して1つにする。
「何故、薬草を2つ混ぜたら品質が良くなるのか? それは、神が『そうあれかし』と定めたからだ。だから同じ物をかけ合わせると、品質が良くなる。君はスキルだけで魔石を合成したことがあるかね?」
「あります。失敗しました」
「よろしい。それはスキルレベルが低いからだ。知識がなくても、訓練を積み、励めば、神によって許可が出て、錬成が可能になる。まさに魔法と同じと言える。しかし、だからこそ、魔法でスキルが足らなくても、然るべきルーンを持ってさえいれば同じ魔法は行使できるように、<錬金術>でもその仕組、過程を知っていれば錬成は出来るのだ」
「なんとなく、わかります。<錬金術>スキルに任せて錬成するのは、神の力を借りていて、手動はその一部、またはほとんどを自分の力で行うので、ここで成否がわかれると」
だから、スキル経験値の入る量にも違いが出て来る。
魔法を使うから、わかりづらいだけで、<錬金術>も他の生産スキルとまったく同じ仕組みで「生産スキル」として存在しているのだ。
「そういう理解でよろしい。いかにそのアイテムが成り立っているのか。これを紐解き、然るべき姿に、いかにして錬成するのか。それが<錬金術>という技術の面白いところだ。君は薬草から乾燥薬草を作ったことはあるかね?」
「あります」
「良いね。大変よろしい!! 成功したかね?」
「しました、丁度持ってます」
「ほう、ほう。良いね。品質『良』!! 方法を聞いても?」
赤色の目をキラキラさせて、リューンさんは乾燥薬草を検分する。
「はい。まず、品質『普』の薬草を合成で品質をあげます。その後――」
ボクは乾燥薬草の作り方を細かく説明する。
「よろしい、よろしい。君はとても優秀だね。<魔力操作>とは別に<魔力視>も持っているか。そのベールは訓練のためかい?」
「ええ、まあ」
「<魔力視>の訓練方法も後に教えよう。<錬金術>は魔法使いの技能でもあるからして、綿密な関係があるのだ。よろしい、大変よろしいぞ」
にぃい、とリューンさんが笑う。
この笑い方は、ボクとても身に覚えがあるよ? 獲物を見つけたモミジにそっくりだ。
この人、自分に正直な人と見たね。
振り回される予感がビシバシ。
「物体の乾燥、この自然現象の再現は非常に難しいとされる。<錬金術>においても、二次スキルの後半にアーツとして【乾燥】を覚えてから出来る事だ。多くの錬金術師は、そこまで到達せずに終わる」
「そうなんですか」
それは意外だ。<錬金術>は他の生産スキル同様、非常に奥が深くて面白いと思うのに。
「君からすると、そうだろう。しかし、ほとんどの人にとっては、<錬金術>は儲からず、役に立たないのだ。まず、アイテムを合成するだけなら、他の生産で事足りるであろう? そもそも品質が上がらぬ。別のものに変成させるにしても、魔法系スキルを多く要求する。そして、それらの魔法系スキルを持つなら、魔法使いとして魔法ギルドに努めた方が金になろう。実際、我々のギルドは閑古鳥が鳴いておるよ。結果として私のような偏屈エルフが残るわけだ」
「自分で言いますか」
「自分で言うとも。物の成り立ちを解き明かし、新たな物を作る喜びに魅せられ、森から研究室へと、閉じこもる場所を変えた偏屈エルフがこの私よ」
無い胸張って、えばられましても、ですね。
しかし、理由はわかった。確かに、上にいくほど、要求される技術が増えていくのは感じる。
ボクだって、魔法系スキルの恩恵をたまたま受けているわけで、魔法職じゃなかったら<錬金術>は早々にあきらめていたかもしれない。
「君さえ良ければ、私が師匠となり、私の持つ技術を全て教えよう。ギルドランクは規定によりFからであるが、なあに、すぐに上がるだろう」
「願ってもないことです。よろしくお願いします」
「うむ! 素直で大変よろしい! これから君、いや、お前は、<錬金魔法>の使い手である、このリューンの弟子を名乗ると良い」
――リューンの弟子となったため、称号「リューンの弟子」を獲得しました。
〜〜〜〜
称号「リューンの弟子」
<錬金魔法>の使い手、リューンの弟子になった物の証
住民の好感度上昇:小
魔法系スキルの経験値上昇:小
錬金術系スキルの経験値上昇:小
錬金術系スキル実行時、器用上昇:中
特定スキルに特殊な派生先が追加
〜〜〜〜
リューンさんはかなりの人物のようだ。
そして<錬金魔法>、とても興味深いですね?
「とはいえ、私の弟子を名乗った所で自慢にもならんがな」
「<錬金魔法>とは?」
呵呵と笑うリューンさんに質問する。
「んお? んーむ、まあ、すぐに披露する機会もあるだろう。ようは錬金術をどこでも使い、その場で必要なものを錬成し使う事ができるというものよ。戦闘で言えば、石から矢を作って飛ばしたり、水から手を放ち敵を封じたりな」
「ほー、それは凄い」
かなり汎用性が高そうだ。ボクの攻撃手段はルーンの数に直結しているので、それ意外の攻撃手段が増えるのは単純に戦力強化となる。
それに、聞く限り、戦闘以外でも使う場面はとても多そうだ。
「ふふん、やはりお前は良いな。他の奴らなんぞ、『普通の魔法でよいではないか』と暴言を吐きよるからして。ちっとも理解しようとせなんだ」
自慢げな顔をしてみたり、笑ったり怒ったり、感情がコロコロと移り変わる人だ。
ボクの周りにはこういうタイプ、あんまり見なかったりするから新鮮だ。
「あー、確かに。ただ威力だけを見るなら、そう感じるかもしれませんね。ただ、戦闘では手段の多い方が有利だとボクは思いますし、是非、習いたいと思います」
「そ、そうか? うむ。お前は師匠を立てるのが上手いな。ふふん」
わーお、ボクの師匠、チョロすぎやしませんかね?
ころっと悪い人についていきそうな気がするね。
「今後は魔法についても指導してやろう。魔法の使い手といえばエルフ。そもそも人間の中に紛れるエルフなんぞ、私みたいな物好きがほとんど。エルフから魔法を教わる人間は限られるぞ?」
「それはありがたいです」
「うむ、うむ。しかし、今はとりあえず<錬金術>だ。1から説明していくか?」
「お願いします」
「うむ。知っている事も多かろうが、聞くように」
「はい」
それから、リューンさんの講義が始まる。
錬成陣の成り立ち、意味、そして<錬金術>の目的。
錬金術は、自然現象を魔法にて代行する技術。ゆえに、全てに精通する必要がある。
「例えば、<錬金術>では最高純度のミスリル銀が作れるとされている」
「ミスリル銀」
とてもファンタジーな響きだ。
「本来であれば銀はとても柔らかい。銀武器が特定のモンスターに特攻効果を持つことは知っているか?」
「はい。人狼とかに効くんですよね」
物語とかの定番だね。
「然り。何故そうなのかは別の機会にしよう。しかし、銀で出来た剣なぞ、振っただけで折れ曲がるであろうよ。突き立てるなぞ、もってのほか。壊れるのが道理だ。針にでもして、投げたほうがマシだな? そこでミスリルが出てくる。ミスリルと合金にすることで、銀の特性を持ちつつも、ドラゴンの鱗にも負けぬ高度を獲得できるとか。これは鍛冶の秘伝とされるが、その品質を求める研究は今なお続き、極地には至らぬと聞く。さて、合金とは知っているか?」
「複数の金属が、混ざりあった状態ですか」
「よろしい。では、合金には複数の種類があることは?」
「えっと、凄まじく細かく混ざりあって互いに結合した状態と、ある程度の塊で混ざりあった状態、とかですか」
原子、分子、アモルファスといった、顕微鏡の世界がここで認知されているのかわからないので、言葉を選ぶ。
「素晴らしい。お前はとても頭がいいな? もしくは、旅人たちは皆、それほどの理解力があるのか?」
「どうでしょうね、ボクよりも頭の良い人は、いくらでもいると思いますよ」
「ふむ。とても興味深いね。さて、ミスリルと銀、それぞれが持つ魔力的要素、それをかけ合わせ、混ぜることにより、魔法という我々にもまだ未知の領域で、それが合成され、錬成という結果を導き出す。だが、それではいけない。実際にミスリル銀が生み出されるには、どのような過程を踏まえ、どのような変化が起こるのか。それを理解していないと、結局のところ、錬成は認められず、失敗する」
「なるほど。それで自然現象の代行」
「うむ。何故、薬草は乾燥するのか? 天日に干せば薬草は乾燥する。水分を飛ばせば良いのか? なぜ水分を飛ばすと効能が上がる? それを突き詰めた先に、乾燥薬草を始めとした、様々な時間、道具、手間を超えた錬成という一大奇跡が現界する。ミスリル銀とて、その行程が大量にあり、謎なだけで、乾燥薬草と変わらぬ……はずだ」
リューンさんが若干トリップし始める。
わかった。ようするにこの人は<錬金術>バカか。
偏屈倶楽部の人たちと仲良く出来るのではないだろうか。
「新たな物への錬成は、試行錯誤の連続だ。その先に何があるのかを予測し、結果を手繰り寄せる根気が必要だ。人々は、素材をいじくり回す我々を指して『素材屋』と笑う。ふふん、ならばそう有ろうと、私は思う。『そうあれかし』だ。世の全ての素材を錬成できてこそ、我々、錬金術師の本懐に足ると思わんか?」
「よ! 世界一の『素材屋』! 錬金術師!!」
やんややんや。
「くっふっふ。そう褒めるでない」
くるしゅうない、くるしゅうない。
ひとしきりやったところで、リューンさんはクエストの書かれた紙を何枚か取り出す。
「こほん。以上が<錬金術>の目的かつ存在意義だ。ま、何をするにも、結局はスキルのレベルアップが必要というのも事実。クエストをやりつつ貢献度を稼ぎながら、人の役にも立つ。お前の腕が良ければ金も稼げるぞ。一石四鳥だ」
「ベアの品質『良』魔石ですか。しかし、これは」
「うむ。気づいたか。素材は自分で集めなければならない。市場で買っていては、失敗すれば赤字。上手く成功したとしても、旨味は少ない」
「足元を見られていると?」
「不正解だ。いや、ある一面から見れば正解とも言えるか。ふふん。我々は正しく『素材屋』であるということだ。いい素材を、安く錬成する。足元を見られている? 違うな。我々は正しく利を得ているとも」
にぃい、とこれまた意地悪な笑いを浮かべる。
その笑い方、ボク好きですよ。
「本来であれば、この方法は複数の別スキルを必要とするため、中級以上、ギルドランクB以上に教える方法だ。君であればその意味を理解し、上手く運用できるであろうと思う」
そう言って、リューンさんはベアの魔石1つと、ウルフの魔石2つを出す。
「<魔力視>を使って見ていなさい」
「はい」
リューンさんが錬成を始める。魔力の要素が浮き出し、混ざり合う前に、ウルフの魔石から幾つかの要素が抜き出され、形成されていく。これは、ベアの魔石の魔力と……?
錬成は問題なく完了し、魔石が1つだけ残った。
見れば、問題なく「ベアの魔石」であり、品質「良」であることが確認できる。
「何をしたかわかったか?」
「ウルフの魔石の魔力を、ベアの物になるように形成して、錬成したように見えました」
「大変よろしい。種類の違う魔石が、品質を上げるために利用できる。これはあまり知られていない。外からは、我々錬金術師がせっせと安い素材を作り続けているように見えるだろうが、ふふん。まあ儲けさせてもらっているとも」
「ははは……」
「こほん。では、実践するように。最初はヒント無しだ。試行錯誤しなさい。手本が見たければ、また見せてやろう」
「はい、わかりました」
とりあえず、やってみなければわからないか。
というわけで一回目。魔力の形を変えようとした時点でさくっと失敗。
「これ、かなり難しいですよね」
「ふふん」
やっぱりこの人、スパルタだ!! モーリアさんがスパルタなのは、元をたどれば彼女だろうか。
これは、一筋縄ではいかないだろうな……。
終末のボクたちは、スカイリアで待ってます @aoringo12
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