生産ギルド
さて、ひどく疲れた冒険者ギルドを後にする。
今日はこの後、それぞれの生産スキルのために顔合わせをして、一日をスキルレベル上げに当てようと思う。
シオンは一足先に共同生産所へと送り出している。
彼女は<錬金術>のレベルもあげているが、二次スキルの【専属】のため、<刺繍>をメインに上げることにしたようだ。
各生産ギルドの場所はもう教えてもらっているので、送り届けるだけである。
なぜここで解散しないのかと言えば、ぶっちゃけこいつらの信頼がゼロであるからでして。
脳裏に、頭を抱えたノーウェルさんが浮かぶ。
うちの子たちが迷惑かけて本当に申し訳ない思いでいっぱいだ。
◇
というわけで調合ギルド。
ギルドに入った瞬間から薬品の匂いを感じる。各生産ギルドは、研究所や受注所の趣が強いらしく、ウヅキのギルドカードを渡したら、すぐさま調合ギルドランクFの情報が付与される。
生産ギルドは総じて実力主義。
良いアイテムを作れる者は部屋すら与えられて、ギルドが強力なバックアップをしてくれるらしい。
「それでは、あなたが作る最高品質の薬品アイテムを提出してください」
「ん」
ウヅキは、ボクたちで作れる最高品質のHPポーションを出す。
ギルドに顔を出すには、これから師匠になる人に成果物を見せることになるだろう。そう思って作ったものだ。
その品質、A+。
かけた製作時間は、考えたくない。
ポーション瓶から始まり、水、薬草、絞り布まで、<錬金術>によって、まず素材の品質にこだわった。さらに、ウヅキのこれまでの<調合>で培った薬品製造の勘と、戦闘経験から裏付けされた驚異的な器用さと忍耐で一滴ずつ抽出した、まさにボクたちが作ることのできる最高傑作である。
「……<調合>スキルレベルを教えてください」
「35」
「一次スキルですか?」
「ん」
「わかりました」
最高品質といっても、最下級のHPポーションに変わりはない。これだけのものをつくっても、経験値的には雀の涙だ。
受付さんはポーションを見て目を細め、それにいくつかラベルをつけ、ウヅキに質問をしていく。
ウヅキがこれまで作っていたのはほとんどがHPポーション。そこまでスキルレベルは高くない。本来であれば、スキルレベルに合わせて難易度が高いアイテムへとランクアップする必要があったが、第二陣に合わせて需要を優先していた結果である。
ポーションを検分している受付さんに、モーリアさんからの推薦状も渡す。
モーリアさんはボクとウヅキに推薦状を書いてくれている。
これも提出すれば、話はもっとスムーズになるだろう。
「かしこまりました。それでは試験をしますので、試験室へとどうぞ。お連れの方も見学されますか?」
「はい、お願いします」
言われた通り、試験札をもらい、指示された部屋へと入る。
「それでは早速試験を始めるかね」
「はい」
試験室には既に一人の老人が立っており、机の上には様々な素材が置かれている。ウヅキを老人の方へと送り出し、ボクとモミジは部屋の隅でおとなしくする。
オオカミちゃんは今だけ送還している。
「ここにある素材で、好きにアイテムを作ると良い」
言われて、ウヅキは机を見回す。
机に置かれた素材には、罠のように品質「劣」のものや、見た目で騙されそうなほど似た物があったりする。
彼女はしばらくして動き出すと、素早い動きでアイテムを手に取り、薬研でゴリゴリすり潰し始める。
その片手間で、ビーカーに水を張り、沸騰させていく。
あっという間にすり潰しが終え、それを一旦放置、別のものを作り始める。
今度はすり潰す端から別のアイテムを混ぜていく。
そんなふうに、ひたすら作業が平行されていく。薬研の数が5つになったところで、湯が沸騰したので、それを5つに小分けし、薬品を無造作にぶち込み、煮出したり、混ぜ合わせる。
それぞれの薬液を別々に管理しつつ、ウヅキのペースは一切乱れない。
そうして、最終的に3種類、15本の薬品アイテムができた。
「緑がHPポーション、黄色が麻痺毒、青がその解毒薬」
「ふむ。HPポーションがC-で止まっているのは何故だ?」
「薬草の一部の品質が『劣』だったから」
「何故混ぜた?」
「品質が『普』の物だけを使うと、HPポーションが一本しかできない」
「その分、完成品の品質は上がると思うが?」
「調合にかかる時間と、HPポーションの効果を考えて、品質Bも品質C-も効能はそこまで変わらないと判断。数が多いほうが良いと思った」
「この草は薬草では?」
「それは薬草じゃない。葉の裏が違う」
「よろしい。麻痺毒を作ったわけは?」
「私がここにある物で作れる薬で、一番役に立つと思ったから」
「通常の毒薬以上に効能の高い、猛毒薬も作れるはずだが?」
「毒は効くまで時間がかかって、肉質にも影響が出る。この麻痺毒は、即効性があり、時間で分解されるから肉質にも影響を与えづらく汎用性が高い。ギルドのクエストには肉を求めるものも多いので、肉質は考えるべきだと思った。あと、安くて、最悪、解毒薬がなくても時間で治る」
「なるほど。ちなみに猛毒薬はどれから作れる?」
「これとこれと、あと麻痺毒に使ったドクツルタケ」
「よろしい。複数同時に作るのは、効率ゆえか?」
「ん。それに、それ以外で薬を作ったことがない。一度に多く作れると、多く納品できて助かると言われた」
「よろしい。実利伴った回答である。手際も良し」
淀みなく答えるウヅキに、老人はうむうむと頷き、最後にこちらを見た。
「最初に提出されたポーションは見事であった。全てに対して質を追求したことがわかる。素材を作ったのはお前たちのどちらかか?」
「あ、ボクです」
「ふむ。素材屋志望か? 何を学んでいる?」
「魔法を学ぶ一環で<錬金術>を学んでいます。どちらかというと、<錬金術>で出来る事を模索する事に興味があり、結果的には彼女たちの素材を作ることになりそうです」
「大変よろしい。励むように。調合師にとって、材料の質は永遠のテーマだ。それを仲間内で補えることは少ない」
「はい、がんばります」
「うむ。彼女は問題なく合格だ。ランクはFからであるが、早期のランクアップが見込めるであろう。興味ある分野はあるか? 調合は様々な薬品を作るが、大まかに3つのジャンルに別れる」
まず、身体異常を回復する、回復薬系統。
状態異常から始まり、体力、魔力を回復するといった薬品の効能を高めたり、新薬を開発したりといった研究を行う。
次に、身体能力を向上させる、バフ系統。
興奮剤や鎮静剤を始め、筋肉を増強させたり、集中力を増したりと言った少し変わった薬品がこっち。
最後に、毒薬。
モンスターたちに対抗するために、効能の高い薬物を研究する分野。
「一応、全部。けど一番興味があるのは毒薬。私が今まで作ったので一番強いのがこれ」
ウヅキはそう言いながら。1本の瓶を出す。オーガにも効いた毒薬だ。
「ワームの毒をひたすら煮詰めて、砂糖と混ぜて粘りをつけてみたもの。毒ジャム。剣とか矢に仕込む」
「ふうむ。『ワームの毒ジャム』とな? 新薬扱いじゃのう。効能は確かめてみんとわからん」
「強い方のオーガに効いた」
「ほほう。それは興味深い。あいわかった。話を通しておこう」
ウヅキと老人の会話は続く。
どうやら特に問題もなさそうである。
話も決まったようなので、ウヅキを預けてボクたちは調合ギルドを後にすることにした。
◇
さて、子供に手をひかれる筋肉というヤバイ絵面で料理ギルドにやってきた。
さすがゲームというか、この怪しい見た目でも呼び止められることはなかったのが幸いか。
相変わらずチラチラとみられるが、それはいつものことだ。
「おー」
調合ギルドが縦に高い建物だったたが、料理ギルドは比較的こじんまりとした建物になっている。
基本的に、皆、自分の店とかを持っているからだろうなと考える。
これまた受付に行って、さくっとモミジのギルドカードを登録してもらう。
「えっと、少々お待ち下さい」
と思ったら、受付さんは困惑顔である。
まあ、そりゃそうだ。
突然上半身裸の筋肉がやってきたら、ボクなら「冒険者ギルドはあちらですよ」となる。
「ちょっと来い」
別の、調理服をつけたおじさんがやってきて奥をしゃくるので、素直についていく。
奥は広い調理場になっていて、色々な人が料理をしている。
「料理ギルドは、基本的に人員の斡旋に近いことをやっている。人員を育て、新たな料理方法を模索し、それを提供することで資金を回す。ゆえに、料理ギルドに入会して、一定のギルドランクになった者は定期的に金を収めることになってる」
「ふむふむ」
普通の生産ギルドであれば、クエストという形で、外からギルドへと依頼がくる。それが資金源だ。しかし、料理ギルドにはその仕組ができない。
わざわざ○○を料理してくれ!! という依頼が来るはずもない。
料理の素材調達は、料理ギルドではなく商業ギルドや冒険者ギルドの仕事となる。
代わりに、ギルドランクがそのまま料理人の腕としての証明になり、その免許のブランド力を保ちつつ、料理人本人たちからお金を収め、新人を育成し、料理人の水準を保つと。
かなり他の生産ギルドと毛色が違うね?
趣味スキルなんて言われているらしいけれど、さもありなん。
「そんなもんで、一応試験という形で腕を見る。本当にお前がやるのか?」
「うむ。ここで料理をすればいいのか?」
「ああ」
言われて、モミジは調理台の1つに向かおうとする。
が、止められる。
「ちょっと待て。お前、調理服はどうした?」
「無いが?」
「はぁ? ……ちょっと待ってろ」
で、おじさんは手早く調理服を持ってきてくれるが、まあ、お察しの通り、モミジの上半身は破裂した。
裸にコック帽。まごうことなき変態のそれである。
「……」
おじさんは無言でこちらを見る。
いやあ、そんな難しそうな顔で見られましてもね。
「すいません、彼、ちょっと呪われてまして」
「……まぁいい。調理服は、ただの服じゃねえ。調理に最適な付与効果をもたらす。ようは料理の品質がよくなるんだ」
「ふむふむ」
モミジは他人事のように頷いてくれる。
あーでもない、こーでもないと、破裂すること3回。
ようやく調理ズボンとコック帽、エプロンという出で立ちに落ち着いた。エプロンはアクセサリー扱いだからOKだ。
見た目だけで言えば、裸エプロンで筋肉のやべー奴が完成した。
禍々しさすら感じる。
周りで調理をしていた人たちも、もはや作業を止めてモミジを観察する始末だ。
「では、調理するぞ」
「お、おう」
気圧されながらも、おじさんは頷く。
そして始まる調理。
いくつかの野菜をつまみ、それを皮むき、丁寧に処理していく。
食べやすいように切り分け、鍋に水をはり、ドボドボ落としていく。
あとは煮立ち、程よいところで調味料を咥えて味を整え、完成。
その間、ボクたちは無言で、皮を向く筋肉、野菜を刻む筋肉、お鍋をかき回す筋肉を見ていた。
現実とは違い、料理に費やす時間はそこまで長くないことが救いである。
「普通だな」
「普通ですね」
「普通」
いつの間にか品評会みたいになっていて、周りの人たちもスープを飲むが、評価は総じて「普通」であった。
「そりゃそうだろう。レシピ通りだ」
なんて、裸エプロン筋肉がのたまう。
「まあ、なんだ。とりあえず一定の水準はあるようだな。お前の<料理>スキルを上げたい動機はなんだ?」
「自分で狩った獲物を食うといったところか。どうせなら美味ければ美味いほどよかろう」
「あー、なるほどね」
そこでようやくおじさん含め、集まっていた料理人が頷く。
とりあえず、理解は得られたようだ。
少なくとも料理に関して、モミジの行動原理はわかりやすい。
「目下はこれを料理したいな」
「ほお、これはすげえ」
「確かに、これを調理するには骨が折れるぜ」
取り出したのは、亜種ベアの肉である。モミジ曰く、<料理>スキルのレベルが足りないのと、調理方法がまだわからないらしい。
周りの人達も感嘆の声を上げる。
ちなみに、インベントリの中の時間経過は止まるので、肉が腐ることはない。
モミジも安心して<料理>スキルのレベル上げに励むことが出来るだろう。
「ようはバトルコックか」
「バトルコック?」
「料理人は3種類ほどいる。自分の技術にしか興味がなく、転々と修行をしつつ渡り歩く奴、自分の店を持ちたくて資金を貯める奴、最後に、自らモンスターを狩りその肉を食らう奴。最後のを『バトルコック』とかいうわけよ」
「なるほど」
ここはファンタジーの世界だから、普通は食べられない肉を持ったモンスターがいくらでもいる。冒険家の料理人版とでもいうやつか。
「だと、肉をメインに、その調理法を知りたいってところかね?」
「まあ、そうなるな。しかし、食べられるものなら何でも興味がある」
「そーかい。であれば、とりあえずは一通り知りたいって感じか」
「よろしく頼む」
うむ、モミジはモミジで、そのインパクトで一旦は引かれるが、受け入れられれば問題なく話が進むことが多いね。
ここも問題なさそうだろう。
ボクは軽く彼らにモミジをよろしくと言って、料理ギルドを後にした。
さて、ようやくボク自身の事ができるね。
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