装備をもらう(だけ)

 色々と急ピッチで作業をしている間に、あっという間に約束の日となった。


「よう、よろしく頼むぜ」

「「「「よろしくおねがいしまーす!」」」」

「こちらこそよろしくお願いします」


 集合場所へ行ってみれば、ドッさんが代表してボクたちを出迎えてくれる。

 今いるのは10名程度。エリアボスと戦ってみるまではわからないが、一度に二人ずつクリアさせたとして、5回は戦う必要がありそうだ。

 今回の仕事には、残念ながら今日来れない人たちの分も、後日手伝うことが含まれている。

 ボクたちはずっとログインしているから、そういう意味でこういう仕事は適任だ。最前線まで連れて行け、ならまだしも、難易度が開放されたエリアボス討伐なら慢心ではなく、お安い御用だ。


 今日の行程は、まずエリアボスであるオーガ「イージー」を一度討伐、感覚を掴んだ上で生産組の攻略を行う形だ。それが終わったら、「ハード」に挑戦する予定。


 さすがに「ハード」討伐が出来るとは思っていない。それでも配信のネタには丁度よいだろうという判断だ。


「今日は配信もする予定ですが、今から始めちゃっていいですか?」

「おう、良いんじゃねえか?」

「みなさんも大丈夫です? 映るのが嫌な人はプライベート設定して下さい」

「おっけー」

「いいよー」

「ばっちこいやあ!!」

「生産職は顔売ってこそだしなあ。へへへ。総合スレで宣伝しといてやるぜ」


 そんなわけで、配信も開始である。いきなり「ハード」討伐前で配信をしても、そこまで人も集まらないだろうし、今から配信しておけば周知できるだろうという狙いだ。

 そして、実は今日第二陣がスカイリアへと入ってくる。彼らの一部もボクたちの配信を見てくれるだろう。

 ちょっとだけだとしても、先輩として、恥ずかしい戦いは見せられないね。


 まあタイトルは適当に、「ファスティアエリアボス体験ツアー:ハードに挑んでみる」とかで良いだろう。


『一番乗りだ!』

『いや俺が一番だ!』

『いやいや俺が』

『おつー』

『配信だー!!』

『公式公認と聞いて!!』


 ぞくぞくとコメントが流れるね。

 ボクはとりあえず、配信画面を開いて画面配置を整理する。上部には「現在攻略用の装備受け渡し中」とテロップを出して、右には帯状にしたメモ画面を広げて今日の予定を箇条書き。


『ついに筋肉さんに装備が!』

『ボスがラスボスに!』

『ルイくんと白髪さんの戦闘が見れるのか』


「やあ、色々考えて配信をしていくことにしたよ。よろしくね。どういうスタイルにしていくかは模索していくから、グダグダするかもだけど、冒険中の暇つぶしにでもしてくれると嬉しいよ。ちなみに、配信による収入は、全て医療関係の募金プロジェクトに寄付される予定だよ」


 上空に浮かぶ赤い球体に手を振る。

 あとは基本的にオート設定にして、放置でいいかな。


『募金まじか』

『薬草採取しながら見てる』

『ウヅキちゃん写して!!』

『手を振るのかわいい』


「今から『セカンディア』へと移動するけれど、職人さんたちの依頼を受けて、開通の手伝いもしていくよ」


 コメントが凄い勢いで流れるが、全てに目を通してる暇はないので放置。


 職人さん達も慣れた感じで軽く挨拶し、さくっと装備を受け取る事となった。

 まず受け取ったのは杖だ。握らなくても、うっすらと魔力が篭っているのがよく分かる。


「これ」

「おや、気づいたかい? けど、多分まだ、そんなに広まっていないから、黙っていてほしいナ?」


 狐の獣人である、木工師のファイル―ンさんがにししと笑う。

 明らかに<魔力操作>か、それに準じたスキルが使われている。魔力がスッと入る感覚というか、手に馴染む。魔法使いがよだれを流して欲しがるだろう。


「皆、今後も世話になりてえってんで、キバっちまったのさ。俺たちは生産職だ。客だと思ったらもうガップリよ」


 横で見ていたドッさんも笑う。

 かけたコストは考えない方が良いだろう。


〜〜〜〜

試作「杖」 No.58

製作者:ファイル―ン


魔法攻撃力 +53

移動速度 -40

物理防御力低下:小

基本魔法ベーススペル使用不可

ルーン魔法攻撃力上昇:中

ルーン魔法詠唱速度上昇:小


耐久値:500/500


デメリットを限界まで積んでひたすら火力にガン振りした杖だよ! とにかくめちゃ強い!

〜〜〜〜


「うわあ」

「ルイくん、ルーンで魔法使うんだよね? なら、もうこれしかないかなあって。気に入ってくれたら、この方向でガチ武器つくっから!!」

「いやあ、その通りなんですが、よくこんなの作りましたね」


 見た目は初期装備の杖とそこまで変わらない、少し色が濃くなっただけの杖。飾りもなく、無骨そのもの。しかし、その内容はどこまでもえげつない。


「うーん、ルーン魔法、良いと思うんだけどね? 実際ベース魔法が封じられるとめちゃくちゃ使いづらいみたい。攻撃のたびに、いちいちルーン組むの大変だってさ」

「なるほど、それはわかります」


 ルーン魔法はとても特殊だ。ボクも使い切れていない。ちょっとしたルーンの順番で暴走したりする。

 例えば属性ルーンは最初に設定しなくてはいけない、といった感じで、ルールがあるのだ。


 スペック見せて、というコメントが多いので、素直にウィンドウを公開設定してカメラに見せる。


『うは』

『やっべぇ』

『俺のオーダーメイドの剣で攻撃力+30なんだが』

『やあけど、ルーンだけだと私には使えないなあ』


「うふふー、欲しかったら20万Gくらいで作って上げるよ〜。最新素材だと多分120万Gくらいかな!」


 ここぞとばかりに、ファイル―ンさんが売り込む。


『ひぇ』

『いいです』


 まだ1つ目の街が開放されたばかりだと言うのに、目玉が飛び出るような金額を平気で要求してくる。

 明らかにオーバースペックだ。そりゃ売れない。


 他の面子もそれぞれ武器を貰っている。シオンはMP消費と状態異常付与に特化した杖、ウヅキは攻撃力を犠牲に連射速度に特化した弓、モミジはブーメランに変形する短剣だ。


「はっはっは! これはいいな!」

「だろぉ!? この浪漫がわかるやつがいるとはなあ! 片方しか刃がついてねえからきちんと当てないとダメージにならないのと、受け取る場所、間違えると大怪我するから気をつけろうよ! あと変形するたびに耐久力めちゃ減るからな!!」


『ブーメランダガ―くっそウケる』

『なんでそうネタに走るんですかねえ』

『色物武器しかねえ』

『スペックピーキーすぎんよお』

『トップ生産組は頭おかしいって本当だったのか』


 絶対欠陥武器だろそれ……。しかも聞けば、スカイリアのブーメランは絶対に所有者の元に戻ってくるらしい。

 ということは、1/2で大ダメージのブーメランがまっすぐに向かってきて避けることもできないわけで……。

 すさまじいネタ武器だ。

 モミジは短剣をいじっては大喜びだ。

 まあ喜んでいるなら良いや。

 初期街の時点で、こんな色物装備ばっかり作っていて大丈夫なのだろうか? ボクは心配だよ。

 いや、大丈夫じゃないから取り残されるみたいな状況になっているのか?


 意外と職人組の武器だけで、視聴者の反応は上々である。

 視聴者数自体もじわじわっと上がってきている。遠巻きにこちらを観察しているプレイヤーも結構いるね。突撃してこないあたり、皆きちんとわきまえてるって感じ。

 民度が高くて大変よろしい。


「はい、武器は終わりだねえ。じゃあ次は防具だ! ルイくんにはこれ!!」


 これまたハイテンションなアルにゃんさん他、生産職の女性陣。何故だか目が血走っていて怖い。

 若干引きつつも装備を受け取り、言われたままに装備する。


「「「きゃーっ!!」」」


 黄色い歓声。


〜〜〜〜

妄執のフリル・ローブ

製作者:ツバキ&シオン


魔法攻撃力+20

魔法防御力+30

物理防御力+10

装着ルーン:矢、玉、飛x2

状態異常耐性:小


恐ろしい時間と労力のかかっているフリル多めのローブ。フリルにはルーンが模様として、ローブ自体にも刺繍にてルーンが縫い込まれている。

〜〜〜〜

妄執の純白グローブ

製作者:ツバキ&シオン


魔法攻撃力+5

物理防御力+5

魔法防御力+5

装着ルーン:水


ルーンが刺繍された、純白のグローブ。

〜〜〜〜

妄執のホットパンツ

製作者:シオン


魔法攻撃力+30

物理防御力+1

装着ルーン:闇


黒い生地に白い刺繍でルーンが刺繍されたホットパンツ。

〜〜〜〜

妄執のファンシー・ブーツ

製作者:アルにゃん&シオン


移動速度上昇:小

地形効果耐性:小

スキル:<歩行 Lv5>

装着ルーン:分裂


大きめなシルエットで可愛らしさが前面に押し出されたブーツ。花柄の刺繍の中に、ルーンの模様が隠れて縫い込まれている。

〜〜〜〜

妄執の隠者ベール

製作者:シオン


敵意減衰効果:中

視界阻害効果:中


目元を隠す程度の長さの、見事なレースのベール。見た者の意識を他へと逸らす模様が隠されている。

〜〜〜〜

ウィッグ

製作者:アルにゃん


効果:かわいい。

〜〜〜〜


 うわあ。

 皆ボクをなんだと思っているのか。

 黒を基本としたローブには真っ白なフリルがふんだんに使われている。それだけならまだ良いが、左側面、腰辺りからスリットが入っており、中々に攻めている。

 さらにホットパンツなので太ももが完全に見えている状態だ。

 そのホットパンツも、黒には目立つ白で刺繍されているので、なんとも刺激が強い。

 極めつけはベールだ。口元しか見えてないので、完全に性別不詳だろう。

 ウィッグもあるし、女の子にしか見えないはずだ。


 手足も少し大きめなグローブやブーツなので、余計に女性らしさを強調するようなデザインになってしまっている。


 言いようによってはギリギリ中性的な服装とも言えなくもないが……。一言で言えばあざとい。ゴシックというかパンクというかファンシーというか。


 女性陣はきゃあきゃあ言ってるし、男性陣も「ほほう」なんて興味深そうに目を細めている。


『エッッッッッッッ』

『エッチすぎませんかねえ!!』

『ルイくん! それはいけないよ!』

『唇だけ見えてるのがもうヤバすぎでは?』

『カメラアングルわかってる!!』


 コメントも暴走気味である。カメラ球体が舐めるようなアングルでボクを撮る。

 うわ、視聴者数がガックンガックン上がってる。

 皆エッチなの大好きだな?


「ねえ、ウィッグとか絶対要らないでしょ」

「「「要る!!」」」

「お、おう」

『『『絶対要る』』』

「oh....」


 満場一致だ。変態オンラインだ。

 とはいえ、少なくとも装備自体は破格である。

 全てに「妄執」とついているあたり、シオンがどれだけの力を入れて刺繍をしたのか。レースなんてよくわからないが、手編みで作るものだろう?


「これ、いつから作ってたの?」

「私がアルにゃんさんと会ったときからかな?」

「頑張ったよねー」

「「楽しかったよねー!」」


 ねー、と意気投合する女性陣。そうか、最初からか。

 皆仲良しだね? 仲良しなのは良いことだね。

 もう何も言うまい。ここまで力の入ったものを、「着たくない」という理由だけで突き返すことはできない。

 彼女たちに装備を任せたボクが悪い。


 少なくとも装備効果は破格もいいところ。今のボクはルーンが出来るだけ欲しい。それを考えると、装備にルーンを縫い込めるシオンの存在は今後も必須。


 となると、コーディネートは今後も彼女に任せることになる。

 そしてシオンは、ボクが「ボクのためにやった」ことの大半を受け入れる、という性格を把握している。


 ボク一人の犠牲でシオンが色々な人と交流を持てたと思おう。

 道化になるくらい、やすいものだ。


「はぁああー、やっぱりかわいいわ〜」

 

 シオンがふにゃふにゃとした顔でボクに擦り寄る。


「ウィッグして顔まで隠したら、もう誰かどうかなんて関係ないでしょ!」


 ボク成分はもう身長と口元しかない状況だ。


「そんな事ないわ! この真っ白な肌と薄い唇、ちょっとだけ見えるお腹の丸みとか!!」


『わかる』

『わからない』

『わかるマン』

『わかるらない』

『とりあえずエッチだとは思う』

『欲望の塊なのは理解した』


 そういうシオンは、ボディラインを全体的に隠したローブ。実用重視という感じだ。これはこれで結構意外。

 シオンは女性だけあって結構おしゃれだ。それが飾りの少ないゆったりしたローブというのは、これ自体に意味があると見て良いだろう。

 てっきり、おそろいのコーディネートにしてくるとかはあると思ったが。


 そんなシオンは、ついに我慢できなくなったのか抱きついてくる。

 あ、こら、スリットから手をいれるな。

 やめろ!


 さわさわと、言葉にできない所までシオンの手が入ってくる。

 やめなさいったら!


「ハァハァ!!」


 聞いちゃいねえ!


『エッチすぎてBANされるのでは』

『実質百合』

『いやこれは百合なのか?』

『哲学』

『解脱した』


 最近の人たちは、こういうのが好きなのかい?

 少し裾を摘んでちらっと見せるだけで、コメントが爆発的に流れる。

 こわっ。


「君たちボクが男って知ってるよね?」


『知っているが?』

『ネットゲームで性別とかもはや意味のない代物だろう』

『かわいければなんでもいい』

『俺は構わない』


 まとわりつくシオン含めて、もう無視で良いだろう。

 勝手にやっておくれ。


 ……。


「まって、流石にズボンに手をいれようとしないで。んっ、やめっ! 変態!!」


 思わず杖で殴りつけてしまう。ゴッと、結構、良い音がした。

 少し反省しなさい。


 目眩を感じつつ、ウヅキたちの方を見る。

 ウヅキは今まさに、装備をもらったところだ。動きやすいように皮の胸当てとハーフパンツ、グローブとブーツという出で立ち。

 ちょっと特殊なのは、ナイフを入れるためのホルダーが多数ついたベルトだろうか。

 ウヅキは色々と武器を貰ったらしいから、それを使い分けるスタイルになったのだろう。

 小さめのコンポジットボウを背中に背負い、完全にレンジャーという出で立ち。

 そして目を引くのは……。


「尻尾?」


 ウヅキのお尻には尻尾が生えていた。

 オオカミちゃんと同じ色である。オオカミちゃんも興味深そうにふんふん匂いをかいでいる。


『尻尾装備きた!』

『揺れてる! かわいい!!』

『そんな装備も作れるのか!?』

『獣人が装備したら二尾になるのか?』

『俺ちょっと行ってくる』

『おいおい、あいつ死んだぜ』


 視聴者数がまた爆発した。別のニーズをつついたらしい。

 もう、騒げればなんでも良いのだとボクは理解した。深く考えない。

 考えるな、感じろ、的な。


『ウヅキちゃんがおそろいコーデしていると聞いて!!』

『ペット配信していると聞いて!!』

『狼ちゃんが見れると聞いて』

『あああああああああ』


 完全に趣旨を勘違いしている人たちが合流した。脳は入力が淫れまくって人とかも大量に入ってきて、端的に言って、カオスだ。


「ウヅキ、それいいの?」

「素早さがとっても上がる」


 ふんす、とぐっと両手を握る。

 あー、うん。


「銀狼素材から作った1点物だよ!! 間に合わせるために徹夜しちゃった!!」


 良い笑顔の職人さん。名前はモフ田モフ男、もう何も言うまい。

 やべーやつしかいねえ。

 癖がありすぎる。


 ウヅキはボクの言っていることを理解しているのかいないのか、とてとて近づいてきてボクを見る。

 うーん。


「まあ、うん、似合ってるよ」


 撫でてやると、嬉しそうに目を細める。

 オオカミちゃんも「撫でて〜」とやってくるのでワシワシしてやる。


『かわいい』

『滅する』

『尊い』


「狼耳カチューシャを作ろうと思ったんだけれど、人族をそもそも獣人化するのはどうなのか。尻尾まででギリギリじゃないのか、という思考の迷宮に入ってしまってね。そもそも尻尾も――」


 モフ男さんがなんか言ってる。


『わかる』

『わからない』

『ケモミミは無条件に可愛いのでは?』

『この議論は多方面に波及するのでNG』


 もうなんか勝手にやってろってボクは思うよ。


 で、モミジは?


 パァン!


 ――?


「ふむ」


 顔を向けると、モミジが上半身裸で首を傾げていた。

 盛り上がる筋肉。

 隆起する胸筋。

 シオンとは別の意味で、惚れ惚れするプロポーションである。

 もう少し慎みを持ってくれたら、抱っこくらいされてやっても良いのだが、と最近は考えたりしている。

 繰り返すが、もう少し慎みを持ったら、ね!!

 今のままだと、ひたすらお尻を撫で回されるのが容易に想像できる。


 何でちょっと目を離しただけで、そこまでおかしな事になるんだろう?

 思わず現実逃避してしまった。


「あれー? 普通の革当て防具なんですが?」

「いやしかしだな」


 パァン!


 破裂するみたいなエフェクトがモミジの上半身に炸裂する。

 凄い、筋肉です。


 一瞬、装備アイテム自体壊れたか? と思ったが、単純にインベントリに戻されただけらしい。

 損害がないのはまあ、良かった、のかな?


『wwwww』

『筋肉が装備の着用を拒否している』

『筋肉が装備されているから……』

『どんなエフェクトだよwww』

『そもそもなんで上半身裸なんだよwwwww』


 コメントも一転、草だらけだ。芝刈りしましょうねぇ。

 腰や足はつけられているのに、上半身と腕装備が尽く弾かれている様子。


「一回、装備全部外してからつけてみたら?」

「ふうむ……む」


 モミジは言われた通り、装備を全部外し、丸腰の下半身だけ衣服をつけた状態になった。首をさすり始め。ポンッと手を打つ。


「こいつのせいだな」


 そう言って指すのは首、ではなく、そこにハマった首輪である。トゲトゲした装飾が施され、真っ黒で禍々しい。


「怨輪の奴だ」

「ええ……」


『えぇ・・・・』

『タイミング良すぎじゃないですかねぇ』

『というか装備の内容確認しておこうよ』


 聞けば上半身と腕装備不可、攻撃力低下の代わりに防御力がアップするデメリットマシマシの怨輪武器、というか装備らしい。


「いつの間に」

「俺も狼と戦ってみたくてな。探したら見つけた」


『笑う』

『世界が筋肉に筋肉を見せろと強制している』

『探したら見つかるものでもない』

『デメリットやばすぎる』

『公式公認筋肉』

『100万回保存した』


「初期装備の服はどこいったんだ?」

「さあな。まあ、良いんじゃないか?」

「ええ……」


 いやまあ、本人が良いって言うなら、良いのだろうか? いや、うーん。


「ううん……」

「なんだ? じっと見て、触りたいのか?」

「ピクピクさせるな、気持ち悪い」


 こういう所が、ダメというのが何故わからないのだろうか。


「遠慮はいらんぞ?」

「これ以上ルイに近づいたら、殺すわ」


 ついに冷笑を貼り付けたシオンさんが間に入ってくる事態に。辺りの気温が一段階、下がる錯覚を覚える。


「ふふん、嫉妬か?」

「……は? 女になってから出直してきてください」

「ルイがそんなことを気にするとでも? ついに脳みそが腐り落ちたか? お人形遊び・・・・・もいい加減卒業するといいぞ」

「――――」


『ひぇ』

『マジトーンですやん』

『空気悪すぎて笑う。同じPTだと思えない』


「まあ、あの二人は大抵あんな感じだから、今のうちに慣れると良いよ」


『慣れたら慣れたでダメなんじゃないですかねえ』

『モミジさん挑発で対戦ウィンドウ飛ばしまくってるじゃないですかヤダー』


「ジャレてるだけだよ」


 あの二人は、ひとしきりガス抜きすれば落ち着くだろう。それまではウヅキと一緒にオオカミちゃんを構い倒してやる。


 ほーれほれ、ワシワシ。


「きゅうん」


 肉か? 肉がほしいのか? 卑しん坊め!


「はふはふ」


 いいぞー、かわいいぞー。


 どう対処したら良いのか迷っている生産組さんたちも誘い、皆でオオカミちゃんを愛でる。

 かわいいは正義だと誰かが言った。

 ボクも同意である。


 で、女性陣はボクの頭を撫でたがるのは何でだ。

 いや、ちょうどいい位置に頭があるのはわかるのだが。

 ボク、一応、見た目通りの年齢じゃないからね? わかってる?


『癒やしとギスギスが同居している謎空間』

『和めば良いのか引けば良いのかわからない』

『もふもふかわいい』

『もう、もふもふしか信じられない』


 ――さくっと装備を貰って出発するつもりが、どうしてこうなった。

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