ウヅキ、駆ける
「……」
夜。決まった周期で、チリチリと虫の、チチチチと鳥の、さらさらと草木の擦れる音が聞こえる。この世界独特の音。
私、ウヅキはゆっくりとベッドから身を起こす。
いや、名残惜しく、ルイの腕にしがみつき、できるだけ自分の匂いを残す。ふふん、満足。
反対側の白髪女を見る。胸ばかり大きくなりやがって。
モイデヤリタイ。
……ベッドから、そっと抜け出す。
モミジがいない。
あいつも外だろう。
あいつも私も、夜が結構好きだ。特にモミジは、あいつは異常だ。
流石に私も、そこまでじゃない。
安心できる場所が一番だ。ルイの側が一番だ。
ルイは結構、私とあいつを一緒にするけれど、不本意だ。
すごくすごく不本意だ。
とはいえ、自分の生き方、在り方を変える気はない。
ずっと私は私のままだ。
最期まで。
部屋の外へ。
この宿屋、残念ながら窓はあるが、そこから外には出られない。きちんと入り口から出る必要がある。
入り口付近から見える食堂にはは誰もいない。
明かりはあるが、皆寝静まっているようだ。
モミジが<料理>の練習を始め、下ごしらえの時間などが短縮できたのだろう。
良い事だと思う。ここの人たちには良くしてもらっている。
もっとあいつをコキ使ってほしい。
外へ出て、軽く屈伸。
次いで、軽く<跳躍>。建物の上へと降り立ち、走り出す。屋根と屋根を飛び、進む。
段々と速度がついてきて、<疾駆>が発動する。
走れば走るほど速度と火力が上昇するスキルだ。
デメリットとして通常時の攻撃力が半減する。このピーキーさが堪らない。
どうせ止まらないから問題にもならない。
「おっと、嬢ちゃんか」
「出る」
「おう、ご苦労さん。できれば門の隣の小口から出てほしいんだがな」
「無理」
「言うと思ったよ」
街壁を監視する、お髭の兵士さんに一応顔を見せる。
見た目通り、ちょっとズボラな人だ。
けれど私にとってはそれくらいが丁度いい。
こんな感じで融通が聞く。
もう何度も同じやり取りをしている。
互いに慣れっこだ。
「じゃ」
「おうよ」
私達の住人への評価は悪くない。街の周りのモンスターを倒しているし、誰もやらないような仕事を請け負っているから。
だからこんな感じで簡単に見逃してもらえる。
私は基本的に口を開かない。ルイが全部やってくれるから。
けど、別に喋れないわけでもないし、人付き合いができないわけではない。
立派なレディなのだ。ふふん。
私はそのまま街壁からジャンプ。
音もなく草原を走る。
再度、<疾駆>が発動し、ぐんぐんとトップスピードでが上がっていく。
風が気持ちいい。
それが限界値付近まで迫ってくると、次いで<思考加速>が発動する。
私だけの世界がやってくる。
すれ違いにウサギたちの首を狩る。
使うのは糸だ。最近覚えた<操糸術>、今これの練習をしている。<解体>している時間はないので、オフにしている。
一瞬で森へと突入。すぐさま<跳躍>して太い枝を伝いぐんぐん前へ。
そうしていると、さらに<アクロバット>が発動する。地上より上で活動しているとステータス全体が上昇するスキルだ。
足場になる場所も直感でわかるようになる。
前へ、前へ、前へ!!
<気配察知>に引っかかったモンスターの首を狩る。<操糸術>のスキルが上がっていく。森を縦横無尽に駆け回る。
そうやって体を温める。速度に体をなじませる。
スピードに興奮した頭を冷やす。
冷静な私になる。
反対に、これから向かう場所へと、興奮する自分を見つける。
戦いの前への高揚感。勝つか負けるかわからない何かに挑戦する熱。
それを丁寧に詰めあげていく。
途中、「セカンディア」開放のアナウンスが鳴った。
私達がそこに行くのはもう少し先だろう。畑も見ないと行けないし、モーリアおばあちゃんの所で薬を作るのは楽しい。
やりたいことがいっぱいある。
繰り返すようだが、私はモミジとは違い、戦闘だけを楽しむ乱暴者ではないのだ。
◇
1時間ほど、森を走り回った私は、森のなかにある、とある広場に来ていた。
黒い短剣を握って掲げる。
〜〜〜〜
怨輪の短剣
物理攻撃力+45
物理防御力-45
素早さ+100
破壊不可
譲渡不可
装備解除不可
恨みの連鎖の中、殺しの中で継がれてきた短剣。その呪いは魂を病み、恨みを晴らせと囁き続ける。絶対に壊れず、鋭さを失わず、血を吸っては悦に震える。
恨みを晴らせ、恨みを晴らせ。
〜〜〜〜
こういうゲームをしない私でもわかる。
ぶっ壊れ武器だ。
ちなみに、初期武器の短剣は攻撃力2だ。笑える。
これは少し前、この森のとある木に空いた穴、樹洞に隠れるように亡くなっていた骸が大切そうに抱えていた。
埋葬しようと
出そうとすると手の中に現れる。
隠し武器としては中々便利だ。
ただ、片手が埋まるので弓が使えなくなる。
それはちょっと不便だった。
この短剣は私に色々な記憶を見せる。短剣が辿った歴史だ。
最初は狼が人を食った。その被害者の親が、短剣の製作者だ。
その人は命をかけて短剣を作り、怨嗟と共に狼を討った。
その狼には子供がいて、その一部始終を見ていた。
あとはもう、よくある話だ。
狼の子供がその人を殺し、その人の知り合いが狼の子供を殺し、狼の子供を育ていた女の子が――
ひたすら、ひたすらな殺しの記憶だ。
それをつぶさに見てきた短剣は、流れ流れて、こうして私の手元にある。
殺せ、殺されろと怨々語りかけてくる。
まっすぐな感情だ。裏も表も無い。
ただただ殺せと。恨みを晴らせと。
私はこの短剣を握ってから、自分なりに、このゲームの中で鍛えてきた。
ある程度動けると自分でも思う。
そして準備不足だとも。
記憶としてみた狼と戦うには、分が悪いだろう。
けれども、嗚呼、嗚呼。
こんな素敵な声を聞き続けて、自分を抑えられるはずもない。
ずっと、ここで待っているのを感じていた。
自分を鍛えながら、ルイの手を握りながら、ご飯を食べながら、畑を耕しながら。
ずっとここで短剣を、私を待っているのに気づいてた。
それを感じながら、無視しつづけるなんて、とても、とても。
「さあ、やろう」
森の奥から、私より何倍も巨大な銀狼がゆっくりと音もなく現れる。
とても美しい毛並みだ。月明かりにテラりと光る。その瞳は真っ赤に燃えていて、けれども静かに凪いでいる。
さあ、あなたの
私がお前の敵だ。
私はお前を知らない。お前にとって、どんな恨みがこの短剣にあるのか知りはしない。
どうでもいい。これは私が受けた仕事だ。
仕事はきっちりと片付ける。
ルイもそう言っていた。
だから、さあ。
「やろう!」
殺したり殺されたりしよう。
全て出し切るまで、何もかもをぶち撒けて果てよう!
「―――グォオオオオオオーーゥン!」
私達は動き始める。
銀狼がジャブのように、爪による致死の一撃を放ってくる。
私はそのかわいいお手てに乗って<跳躍>――。
「っ!」
と思ったら、風圧だけでつま先が逝った。
HPが一気にレッドゾーンへ。
すぐさまポーションを飲む。[部位欠損]じゃないからセーフ。
ただの致命傷だ。問題はない。
私は初期装備のままだ。どんな一撃でも死ぬ。
とはいえ、今揃えられるだけ強い装備を揃えたところで、この銀狼を前にしたら雀の涙だ。
むしろ何もつけない方がいいと私は判断して、ここにいる。
銀狼は私を確実に捉える。
偏差、フェイント、織り交ぜながら爪が迫り来る。そのたびに、私は風圧に揺さぶられた。
足を回して避ける、避ける、避ける!!
だが、速度はどんどん上がり、私は銀狼を翻弄し始める。
高速とスローとを世界が交互に明滅する。
頭が割れそうに最高だ。
ここは私の世界だ。
お前はここに入れないようだね?
狼は体が長い。必死に食らいついて来ようとするが、私には触れられない。
ごめん、嘘。
風圧でビシビシHPが削られている。
むしろ私のスピードが上がってるから、相対速度か何かで受けるダメージ量が増えていく。跳ねた小石に当たるだけで体に穴が開いて死ぬだろう。
「ウォアォオオオオオオン!!」
音圧に、体が硬直する感覚が走った。<思考加速>の中では、それがじわじわと全身に広がる、ビリビリするそれを細かく認識することができる。
咄嗟に、別の手に持った初期装備の短剣を投げる。
それは、ほぼダメージは無いながら、しっかりと銀狼に刺さった。
防御力はそこまで無いらしい。
投げた短剣の柄には糸が括られている。
私はそのまま<跳躍>、空中で体が完全に硬直する。
[スタン]だ。
銀狼は、固まって地面を無様に転がる私を予測したのだろうが、地面に私の姿はない。私を完全に見失い、攻撃の機会を見失っている。
ぐるぐると周り、尻尾をむやみやたらに振り回している。
見てる分には、かわいいと思わなくもないが、その風圧は私を1回で3人分くらい殺せる威力を持っている。
踏まれるだけで2ウヅキだろう。
<操糸術>で補強された糸は、銀狼を支点に弧を描いて空中の私を運ぶ。
そのまま元の場所とは反対側へ。
[スタン]が途切れる。
よし!
ズサッと少しだけ足を止めたら、また走り始める。
<疾駆>は切れていないので、すぐさまトップスピードへ。
隙だらけの首へと真っ黒な短剣をぶっ刺す。
「グオォ!?」
「あははははは!!」
おまけとばかりに、短剣には毒をたっぷり塗っている。虫の弱い毒をひたすらドロドロに煮詰めたひどいやつだ。
効くかわからないけど、気分の問題だ。
柄をぐしぐしと捻ったあとで、下へと削り混むように傷口を広げ、走り抜ける。
銀狼のHPがぐぐっと削れてくぐもった悲鳴が上がる。
「さあ、勝負だ! お前が一発入れるか、私がお前を殺しきるかだ!!」
<挑発>が銀狼の視線を私に固定させる。
けれども、もう私はそこにはいない。
「グオォオオン!!」
「あはっ、あははははは!!」
死角から確実にダメージを重ねる。
銀狼が振り向けば下へ、尻尾が振り回されれば上空へと飛び、<アクロバット>と<不意打ち>の乗った攻撃が突き刺さる。
私の短剣は銀狼を確実に追い詰めていく。
けれど、奴も私を捉え始める。
「オォン!」
「あうっ」
強烈な風圧が私をかすめ、足をもつれさせて転倒してしまう。
ドッ、ドッ、と冗談みたいに私の体は転がる。
ははは、3回もバウンドした。
腕が変な方向になるも、【リジェネ】でゴキゴキと回復していく。
回復するのは良いが、MPがシャレにならないスピードで削れた。
「痛い……」
体中から血が流れているみたいだ。とても痛いし、泣きそうだ。
――恨みを晴らせ。
うるさい。
――殺せ。
うるさい。
――殺されろ。
「うるさい!!」
私とあいつは今、めちゃくちゃ楽しんでるんだ! 黙ってろ!
……そうでしょ銀狼。
もう恨みとか、どうでもいいでしょ?
その眼を見たらわかる。
どうやって、殺そうか。どうやって、食ってやろうか。
単純な殺意。相手に勝とうという一心。
それ以外は雑念だ。
「こいよぉ!!」
今の私は瀕死だぞ!
「ウオオオォオオ――ン!!」
「あはははは!!」
◆
「うっは、すげぇ」
モニターが所狭しと並ぶ部屋で、それを見ていた男が呆然とつぶやく。
ここはゲーム、「スカイリア」開発陣のモニタールームだ。ゲーム内の情報などを、現実側からモニターしつつ、問題ないかどうかをチェックしている。
今はまだ夕方前、ほぼ全てのスタッフがここにいた。ゲーム内では深夜を回った所だ。
本日、『セカンディア』へとトッププレイヤー達が到達しそうだということもあって、皆が詰めかけていたのだ。そんな中で、「怨輪の銀狼」戦が発生した。
銀狼戦は1つのエンドコンテンツだ。ゲームフィールド内で偶然手に入る怨輪武器を手に入れることで挑戦可能となる。
怨輪武器を持った状態で夜、『ファスティア』の森にある広場へ行くと戦える。
負けたら怨輪武器は無くなり、また探す必要がある。
今後企画しているイベントなどで定期的にこの武器を配ったりすることで、一応、だれもが挑戦可能なコンテンツになる予定である。
バトルジャンキーなどはこいつを倒すのが、一つの目標となっていくだろう。
さて、その銀狼の特徴であるが、一言でまとめれば「無理ゲー」と言える。
まずソロであること。一人で巨大な銀狼へと挑むことになるのだ。さらに、メリットとデメリットが混在した怨輪武器を強制的に装備させられる。
そして、銀狼はプレイヤーのスキルスペックでその強さが決定する。
防御系のスキルを多く持っていたら攻撃寄り、攻撃系を多く持ってたら素早さ寄り、といった具合だ。
対象プレイヤーよりも、1段階上のスキルスペックがAIによる演算にて設定される。
下手にスキルを多く持つと、それだけ銀狼は強くなる。
かと言って、スキルが少ないと、ただただ殺されるだけだ。
何度も繰り返し挑戦し、スキルのオンオフによる構築、レベル上げと装備構成による戦力増強が必要なのだ。
求められるのはプレイヤーのバトルセンス、スキル構成、アイテム構築。つまり、全てだ。
開発陣渾身の、理論上、初期から挑戦できる超高難易度エンドコンテンツ。それこそが「怨輪の銀狼」なのだ。
そんなエンドコンテンツに、今とある少女が挑んでいる。
スタッフ間では少し前から、彼女が「怨輪武器」を手にしているのは知られていた。いつ挑むのか、事あるごとに話していたものだ。
「しっかし、一次スキルのみとはいえ、きっちり仕上げてきましたね」
「戦闘系スキル綺麗に使いきってるな。<疾駆><弱点看破><不意打ち><隠蔽><跳躍>エトセトラ、エトセトラ……。完全に銀狼だけを狙ってましたって構成だ」
「実際そうでしょう。<操糸術>なんて、完全に狙って習得してますよ。スタン対策とは、すさまじい戦闘センスです」
「怨輪武器は過去の記憶見せるからな。なんとなく狼で、どういう動きをする敵かってわかる。とはいえ断片だしな……。そこから、ここまで仕上げてくるか」
「<身体制限解除>も上手く限界値見極めてますね」
「ま、
「違いないですね」
スタッフたちは画面越しの戦闘に、完全に魅了されていた。
外の様子に当てられたのか、ゲーム内の神たちですら、興味を示すように世界の魔力が偏っている。
どこまでも加速していく少女、それに追従しようと徐々に学習していくAI。どちらの命が尽きるのが先か。
ごくり、と誰とは言わずつばを飲む。
「流石、あの治験テストの参加者たちですよ」
「そうだな。彼らには出来るだけこの世界を楽しんでもらいたいものだ」
「楽しんで貰ってると思いますよ。ずっと笑ってますし」
「彼らがいて、俺たちがいる。ちょっとした恩返しになれば、これ以上、嬉しいことはない。PVに使える所ないか見とけよ」
「了解っす」
少女のMPが心もとなくなってきた。勝負の終わりは、もう、すぐそこまで迫っている。
◆
「はぁあ!」
足を出した先に爪が横切る。
牙が差し込まれる前に私の体が宙を舞う。
私と銀狼は今、一つになっていた。
互いに互いを見ず、短い時間で理解し合った思考をつなぎとめて、互いに体の位置を動かす。
お前ならここにいるだろう、お前ならそこにいくだろう。
それを繰り返す。
一手ミスるとどちらかが死ぬ。
短剣を刺し出すと空を切る。ステップを踏むと暴風が過ぎ去る。
もっと早く。
相手が行動するよりも早く体を駆動させろ。
もっと疾く。
スピードを上げてダメージを乗せろ。
もっと速く。
体の限界ギリギリを見極めて体を制御しろ。
「っ!」
私の体が宙へと飛んだ。<アクロバット>によるダメージを載せようとする。
銀狼と眼が合う。
読まれた、と思った。
「ガァアアア!!」
「ぁあ!」
銀狼が無理矢理体をひねる。がくんと奴のHPが削れる。刺さった短剣から伸びた糸に突然、別ベクトルの力が加わって、私はコントロールを手放してしまう。
もはやあいつが、ただのゲームの敵モンスターだと私は思わない。
私を殺したいと、「心から」思い、決死の行動に出たんだ。
私はゴミクズみたいに地面を跳ね、木に激突する。
「かふっ」
激痛。
ゲームでよかったと思う。速度が乗ってたとは言え、ギリギリで生きてる。骨折もしていない。
「ふう、はぁ」
からっけつだ。
背中に木をあて、ずりずりと支えにして立ち上がる。
もう、何も出やしない。
アイテムも使い切った。
MPも
「ふ、ふふ」
銀狼はただただ私を見ている。
……なんだ? どうした。
来いよ。
来なさいよ。
「来い!!」
今更、
生ぬるい終わりでお茶を濁すなんて、そんなの許されない。
私達の戦いは、そんな、ちんけな感情に流されていい物じゃない。
「グオォオオオン!!!」
銀狼の体が輝き、身を縮め、跳ね伸びるように私へと突っ込んでくる。体全体を使った、一瞬でトップスピードへと至る一撃。
私はただ、それを見ている――。
なんて、グズで女々しいことなんてしない。
足に力を込めて短剣を握る。
「りゃああああああーー!!!」
木を蹴り飛ばし、私の体は弾丸のように前へと、一瞬で自身のトップスピードを超える。
目前に広がる大きな口。それを、体をひねることでそらし、風圧でズタズタに体が引き裂ける痛みを感じながら、私は――。
◇
「……」
気づくと、私は教会前に立っていた。
手元を見る。
〜〜〜〜
怨断の短剣 Lv1
物理攻撃力+0
物理防御力-10
素早さ+20
移動速度が早くなるほど攻撃力が増す。
所有者の行動によってこの武器は成長する。
<召喚:銀狼>スキル付与。
破壊不可
譲渡不可
かつて恨みの連鎖に塗れていた、今はもう役目を失った短剣。新たな役目を与えられ、その刃は白銀に輝いている。前へ進むため、全力を出し合い認め合った証に、銀狼の力が宿る。
〜〜〜〜
「……」
やった、ということだろうか。
あの銀狼を思い出すような白になった短剣を観察する。夜の中でも、うっすら輝いているように見える。少しあたたかい温度を感じる。
あの声も、もう聞こえてこない。
やった、ということなのだろう。
「やったー」
おそらく、あの瞬間、打ち勝ったのは私で、そのまま<身体制限解除>によるダメージか、もしくは風圧で死んだんだろう。
なんとも締まらない。
まあ、勝ちは勝ちだ。たとえコンマ何秒でも、生き延びていたのは私だ。
純粋な勝ち負けの果てに、1つの勝負が終わったのだ。
あの銀狼も、少なくとも最後は、シンプルな勝ち負けに命を賭けられたんだと、私は思う。
誰かの恨みとか、妬みとか、憎しみとか。
そんなもので命をかけるのは、
せっかく命をかけるのだから、もっと単純で、もっと根本的なところでぶつかり合わなきゃいけないと、そう、私は思うのだ。
ともあれ、これで仕事は完了だ。
アナウンスが沢山流れていたけれど、今は見る気もおきないし、どうでもいい。
街中、月夜の空を駆け抜け、素早く宿屋へ。
まだモミジは帰っていない。
あいつはあいつで、よろしくやっているんだろう。
私はするりとベッドに入り、ぐりぐりとルイに体をこすりつける。ふふん。
ああ、今日も今日が始まる。
新たな出会いと、刺激のあるであろう今日が始まる。
こんなに素敵なことはない。
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