錬金術とか魔法とか

――<光魔法>のレベルが上がりました。

――<光魔法>のスキルレベルが一定値に達しました。魔法【ライトアロー】を習得しました。


「およ?」


 今日は朝から教会。

 というのも、生産活動が始まってバラバラに行動し始めたので、教会を朝一に持ってきました。畑の方も一番大変な耕す部分が全体的に終わり、時間が取れるようになったのもある。


 ウヅキとモミジも久々に来たいということで、たまには皆でと祈りの間へ来たのだったのだが。


「あの、<光魔法>のレベルが上がったんですけれど」

「あら、<光魔法>を習得されていたのですね。おめでとうございます。<光魔法>と<闇魔法>は魔法神さまと生命神さま、両方が担当しているのですよ」

「<闇魔法>もですか」

「ええ、命自体は光で出来ていると考えられています。そして、この世に残りたいと思う未練、これは闇として表されるのです。<神聖魔法>は死者の蘇生も出来ると言いましたね? これは、魂がこの世に残りたいという未練、つまり<闇魔法>の要素によって繋ぎとめ、<光魔法>の要素によって結びつけるものだと考えられているのです」


 なので、教会に務める人は<光魔法>か<闇魔法>いずれかを習得する人も多いのだとか。


「こう、闇の要素によって繋ぎ止めるというと、悪いことのようなイメージがありますが」

「そうですね。昔から悪い魔法使いは<闇魔法>使い、というのはよく言われます。しかしこれは、<闇魔法>が単純に、呪いや物を操るといった事が得意であるからという理由があります。善悪を決めるのは私達自身。未練なく人は生きられぬでしょう。悪いことに良く使われるから、それ、すなわち悪であるとするのは、それを司る神を悪だと言うことに他なりません」


 なるほど、神が身近にいるからこその考え方だな、と思う。

 魔法神が認めているからこそ、<闇魔法>もまた、受け入れられていると。価値観の違いというか、とても興味深い。


「とはいえ、やはり全てを習得するには、人の命は短いものです。<光魔法>も<闇魔法>も、どちらかといえば魔法神さまの担当でございますし」

「不老不死とはいかないのですね」

「ええ、ふふふ。いくら生き返るとは言いましても、その御業を持つ方は極少数。結局のところ、人は死に、その魂は劣化していくのです。あなた方旅人たちは、その魂を世界神さまに保護されていますから、その限りではないでしょうが」

「なるほど」


 ふうむ。<神聖魔法>は<光魔法>と<闇魔法>が組み合わされているのか。これは、追々<闇魔法>の方も習得しておくべきか。ああ、時間が足りない。


 ともあれ、お祈りするだけで魔法系スキルの経験値が上がるとは、今後もできるだけ来ようと思う。

 シオンも【ダークアロー】を覚えたようだ。

 ようやく攻撃魔法。これで戦闘でのスキルレベルアップが捗る。

 ただ、感覚的に<光魔法>と<闇魔法>は攻撃魔法はあまり覚えなさそうだ。ルーンを上手く使っていけってことね。


 【ライトアロー】は分散と矢のルーン。

 うん。

 これを使えば【ファイヤアロー】みたいな事もできそう。かなり有用なルーンだと思う。



 教会を後にしたらギルドへの顔出し、訓練場で日課の運動をして畑へ。


「この二面はもういいじゃろ」


 と許可が出たので、さくさくっと草むしりをして種をまく。


「ポーションを作って出たカスを撒いてもいいですか?」

「おう、ええよええよ」


 ポーションを作りまくって出た絞りカスはごっそりと貰ってきた。さっそく有効活用出来るね。

 どれくらい効果があるのかわからないが、まあ、土に帰るわけだしエコってことで。


 残り2面も草むしりして耕す。

 最初に土を掘り返すのが大変なだけなので、ここまで来るともうさっくさくだ。


「それではまたー!」

「ほいよ」


 今日はおじいちゃんの分の畑も、薬草の芽が出始めているだけなので特に作業らしい作業もない。

 たっぷり時間もあるので、がっつりと生産活動できるだろう。

 大変、充実していると言える。



「来たね」

「はい、今日もよろしくお願いします」

「お願いします」


 挨拶もそこそこにポーション瓶を作り始める。


「そろそろスキルレベルが上がらなくなってきたかい?」

「はい」


 ガンガン上がってたスキルレベルも、だんだん停滞してきていた。瓶自体もポンポン出来上がる。

 疲労も無いレベルだ。


「じゃあとりあえず100個を<魔力操作>無しでさくっと用意しな。そしたら次の課題を与えるよ」


 言われたとおりに<錬金術>スキル任せでポーション瓶をぽこぽこ作ってく。

 砂を盛って錬成。

 砂を盛って錬成。

 ははは、楽しくなってきた。

 これが生産ハイか。


「――できました」

「うん、問題ないね。じゃあ、ラビットの魔石は持っているかい?」

「はい、持っています」

「サイズが見えるはずさ」

「えっと、はい。極小です」


 魔石はモンスターを倒した時に、たまに出るアイテムだ。

 ギルドで納品クエストも無いのでひたすら溜め込んでいる。

 ボクたちはモミジの食事以外、基本的にお金を使わないので、これらダブついたアイテムも売ることもしていない。

 取り出した「ラビットの魔石」には、サイズという項目がついていて「極小」ということになっている。

 品質は「普」だ。

 <錬金術>スキルのおかげで色々見えるようになっているようだ。


「それを2つ出して、錬成してみな。合成して大きくするイメージだ」

「はい」


 ぐっと魔力を込めると、バフンと小さな煙を出して魔石が消滅してしまう。


「消えたんですが」

「失敗だね。成功するまで色々やってみるといいさ」


 へっへっへと笑うモーリアさん。

 やっぱりスパルタだ。これ、多分またスキルレベル全然足りないやつだ。

 まあ、こういう試行錯誤も大切なんだろう。そう思うことにする。


 もう一度。

 今度は<魔力操作>で慎重に。さっきはくっつけるイメージだったけれど、溶け合うようなイメージ。

――失敗。

 

 うーん、形を崩した瞬間に失敗する気がする。

 どうすれば? 重ねる? 

 あ、いい感じ。

――でも失敗。


 魔石は魔力の塊みたいな物だとしたら、魔力が見れるか測れれば良いんだけれど……。

 【デバッグ】で見れるか? 

 お、見れる。


――一定の条件を達成しましたので<魔力視>のスキルを習得しました。

――<魔力視><魔力操作><並列思考><思考加速>を習得していますので称号「魔導を歩むもの」を獲得しました。


 おう。


〜〜〜〜

<魔力視>

 魔力が見えるようになる。スキルレベルが上がるほど、見れる範囲が広がり、属性や魔力量といった物が判断できるようになる。

〜〜〜〜

称号「魔導を歩むもの」

 あらゆる魔法に精通せんとする探求者へと与えられる称号。

 全ての魔法属性に適正を持つ。

 全ての基本魔法スキルのベーススペルが使用不可。

 合成魔法スキル、強化魔法スキルの習得・使用不可。

 ルーンによる魔法詠唱に上昇補正:小。

 同じルーンを獲得するごとにルーンの威力アップ。

〜〜〜〜


 んんー……。<魔力視>は良い。問題なし。

 切り替え式で、見た物のオーラのような物が見える。

 とても便利だ。


 ラビットの魔石を見れば、魔法陣のような物が見える。

 これを崩していたから失敗したのだと思われる。

 多分、<魔力視>は相当ハイレベルなスキルだ。【デバッグ】によって半分ズルして獲得できたに違いない。

 

 で、問題が称号「魔導を歩むもの」だ。

 全ての魔法属性に適正っていうのは、魔法の先生とかが言っていた、「属性に体が特化する」というのをほぼ無視して全ての魔法が強くなるんだと思う。

 ベーススペルが使用不可というのは、今まで【ファイヤーボール】とか詠唱で使っていたルーン組み合わせのテンプレート、これが使用できなくなったんだろう。


 つまり今後、ボクは【ファイヤーボール】が使いたかったら【火・玉・飛】のルーンを組む必要がある。

 撃つたびに簡単なパズルを組む感じ。

 これもまあ、問題ない。慣れればいいだけ。


 さらにルーンによる詠唱が強くなるそうだから、これも問題なし。

 同じルーンを獲得するたびに強くなるというのも嬉しい。

 例えばボクは【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】で二回【火】のルーンをゲットしている。

 今後、他の属性魔法をゲットしていけば【玉】【飛】といったルーンも獲得していって強くなれるだろう。単純な戦力強化だ!!


 と、喜んでばかりもいられない。

「合成魔法スキル、強化魔法スキルの習得・使用不可」これだ。

 なんとなく言っていることはわかる。

 おそらく<火魔法>を極めた先に<極火魔法>的なスキルがあるんだと思う。これが強化魔法だ。

 で、<火魔法>と<土魔法>で<溶岩魔法>みたいなスキルがあるのだ。これが<合成魔法>。


 さすがに<神聖魔法>みたいな別枠魔法スキルは習得できるはず……。事実、<神聖魔法>の使用は問題ない。ちゃんと使用できる。

 多分、ルーンを使って同じことができるんやから、いらんやろ? おおん? ってことなんだろう。

 嘆いてもしょうがないな。

 やってやらぁ!!


 やけになった思考は置いておいて、今は魔石の合成だ。

 <魔力視>に切り替えて、魔法陣を抜き出し、合わせるようなイメージ。

 教会での<神聖魔法>の話によると、<神聖魔法>は魂を見て体を治すらしい。では、このラビットの魔石にしたってそうではないか。

 魔法陣を重ねて、魔力を込める。魔法陣に合わせて魔石自体のサイズを大きくする。足りない物は、抜き出した物を使う。


 壊れないように、ゆっくりゆっくり―――。


 出来た!!


――<錬金術>のレベルが上がりました。

――<錬金術>のレベルが上がりました。

――<錬金術>のレベルが上がりました。

――<錬金術>のレベルが上がりました。

――<錬金術>のレベルが上がりました。


 うはは、めっちゃスキルレベルあがるう!


「出来ました!!」

「ええ!? マジで!?」

「マジです」

「ええー、マジかあ。……マジだあ」


 モーリアさんの口調の乱れっぷりがやばい。しばらくできないか、延々とできないと思っていたんだろう。


「はあ、びっくりだよ。魔石の合成は中級の高難易度だ。私にも出来ない合成だよ。色々試行錯誤したり、訓練に丁度いいから勧めたんだがね。成功するとはね。私にはもうお前に教えることはないね」

「ええー……」


 完全に無理難題レベルだったらしい。そりゃそうだ。

 <魔力視>がなければ絶対無理だったと今ならわかる。【デバッグ】がなかったら延々と成功するはずがない作業をやらされていたのか。

 怖いなこのおばあさん。


「知り合いの錬金術師に紹介状書いてやるから、さっさと『セカンディア』に向かうんだね。それまでは魔石の合成しつつ、いくつか本を渡すからそれを読みな」

「わかりました」


 言われたとおり、魔石を合成していく。しかしこれ、たしかに訓練になる。思考系スキルや<魔力視>の経験値が美味い。多分これ、<考察>が仕事してるな。

 一気に<錬金術>がLv40へ。まだまだ上がる。これいつまで上がるんだろう。


「ウヅキ、魔石持ってる?」

「ん」


 途中で魔石がなくなったのでウヅキからもらう。おおー。沢山ある。


「……ねえ、なんでウルフの魔石があるの?」

「あ」

「……」

「……」


 つい、と目を逸らすウヅキ。

 ふふふ、こいつぅ。


「まあいいけどね」


 どうせ物足りなくて森に入っていったんだろう。別に行くなとも言ってないし。――言ってないよね?


「行くのは構わないけれど、事前準備しっかりしていくんだぞ?」

「ん」


 挨拶だけはいいんだよね!!!

 最初の街付近は基本的に安全地帯だ。

 安全地帯っていうのは、PKなどの犯罪行為が制限されているってこと。

 次の「セカンディア」以降では諸々解禁されるらしい。一気に出来ることも増えるわけだ。「セカンディア」からこのゲームの本番ともいえる。


 ウヅキがどれくらい鍛えているのかは分からないが、まあ最初の街の森程度なら問題ないだろう。


 じゃあボクたちはいつまでここで足踏みしてるんだって言われそうだけれど、今の時点でやりたいことが飽和気味なのに、これ以上要素が増えると混乱する。


 ウヅキもさっき<調合>スキルを獲得できて、楽しそうに調合している。シオンもモミジもそれぞれ生産のことについて楽しそうに語っていた。

 不都合が出始めてきたら次へ行くのが良いだろう、とボクは思ってる。

 仲間が行きたいというなら挑戦する、くらいの気持ちだ。


 っと、ドッさんからフレンドコールだ。


「よう。<解体>についての話か?」

「はい。ドッさんは素材の質って見れますか?」

「ああ、見れる。が、鉱石とかだけだな。インゴットにしてからだとハンマーでぶっ叩いていけば品質を上げられることもわかってる。が、たまに使う皮はダメだな」

「それ、<解体>があると見れるみたいなんです」

「ほおん?」

「【ファイヤーボール】使ってウサギ狩ると皮の品質下がるんですよ」

「ははぁん、それで作ってるとたまに出来の悪い防具出来上がんのか」

「やっぱり制作の出来に影響しますか」

「ああ、するねえ。生産品はFから始まってどんどん上がってくんだが、結構ブレがある。これがなんでかって話で、素材の品質だろうって皆言ってたんだがな。<鑑定>持ちは見えるらしいが、俺はまだ持ってねえ。生産職は沢山アイテム見るからな。いつか取れるだろうってんで皆後回しさ」

「ですか」


 ボクの錬金術は基本的に素材を作るスキルだから、見れる品質も「劣」「普」「良」の三段階だけなんだろう。これがポーションとか武器とかだと、さらに段階が増えると。

 ウヅキには自分のポーションの品質が見えているのかもしれない。


「本読めば習得できるんだよな?」

「はい、メールのとおりです」

「よっしゃ。これで一歩リードできるぜ。ありがとよ」

「いえいえ」

「そういやよう、お前ら、いつもログインしてるが、お前らこそ寝てんのか? ゲームは逃げやしねえぜ?」


 あー、さすがに3日も4日もログインしっぱなしだと気づくか。


「うーん、ボクたちはログインし続けるテストに協力してるんですよ。病院と運営の許可出てます」

「ああ、そういや聞いたことあるぜ。お前らがそうかよ」

「ええ、終末医療関係の治験ですね。ゲーム的な経験値とかは全体的に下方修正されているはずなので、有利不利はないはずです」


 実際、ボクたちのスキルレベルの上がりは遅いことを実感している。測ったことはないが、多分半分以下とかだろう。

 さらに、色々なスキルに浮気しているので、それ専門に上げているプレイヤーには相当遅れていると思う。


「ほおん。ってことはお前らよう。――いや、俺らはゲームしてんだ。問題なければそれで良いんだ。俺みてぇに無理してゲームにかじりついてるわけでもあるまい?」

「ええ、楽しませて貰ってます。今は<錬金術>やってますよ」

「ほお。シオンの嬢ちゃんは<裁縫>って話じゃねえか。ようこそ生産沼へ!! 歓迎するぜぇ!! げへへ」

「ははは……」


 色々察して話を切り上げてくれるドッさんには頭が下がる思いだ。別に話たっていいけれど、気持ちのいい話でもない。

 彼の言う通り、ボクたちはゲームをしているのだから。

 楽しくない話をわざわざする必要もない。

 さて、続きをしていくことにしよう。

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