第10話 戦いの始まり
風間天が糺の森に敷かれた参道を本殿に向かって歩いていくと、反対側から漆黒の闇に紛れて、松本アキラが向かってきた。
松本は刀を腰に携えていた。
風間は手ぶらで来たことを後悔した。
松本は無言で鞘から刀を引き抜くと、中段の構えで刀の切っ先を風間に向けた。
月の光が刃に反射し、眩い光を放つ。
風間は後ずさりした。
蒸し暑さと緊張感で風間は汗ばんでいた。
追い討ちをかけるように、西側の森から忍姿の男が3人、東側の森から2人が姿を現した。全員真剣を構えている。
「卑怯者め」
風間は舌打ちした。
松本は笑いながら、
「卑怯者で結構。お前を倒すためなら、俺は鬼にでもなる」
といった。
「マジでやばいな」
前方からは松本が、そして左右からは忍姿の刺客が徐々に距離を詰めてくる。忍の者の実力は定かではないが、松本は手練れだ。前回手を合わせたときも、重傷を負ったのは風間の方であった。
丁度そのころ、祇園祭で湧く四条通りの南に位置する五条通りには、けたたましい音を立てて警察車両が集結していた。
五条通りと堀川通の立体交差点の上で、再び惨殺死体が発見されたのだ。
そして、この死体の近くにもカラスの羽が置かれていた。
一方、糺の森では、松本がさらに距離を縮め、得物が届く間合いに風間を置こうとしていた。
風間は近くに武器になるものがあるかどうかを探りながら、
「爺さんがお前の恨みを買うのは理解できなくはないが、なぜ俺まで恨む。一応お前の息子だぞ」
と問い掛けた。
松本は「フフ」と失笑を漏らすと、
「お前ら天狗族は滅びるべきだ。正義の味方のように振る舞っているが、お前らのしていることは、ただの人殺しだ。今も殺しを続けているこの前も楽屋に殴り込んできたじゃないか。」
「爺さんから使命を受けたからだ。俺は自分の運命から逃げない」
風間は鋭い視線で松本を見返した。
そのとき、この聖なる森のどこかでカラスが鳴き声をあげ、飛び立つ音が響いた。
そして、合図を待っていたかのように、機会をうかがっていた忍びの者が襲いかかってきた。
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