第33話 轡に目隠しをさせられた少女
いつ眠りについたのかは分からなかった。
肩を揺すられて起こされたニコは、冷えて凝り固まった体を無理やりに起こし上げる。眠い目を擦りながら肩を揺すった主を見る。
老翁がわずかに怪訝そうな表情を浮かべていた。
「何でそんなところで眠っているんだ?」
そんなところとはと自分の眠っていた場所を見る。リビングの窓際、その壁に寄り添うように眠っていた。凝り固まった腰は痛みが酷く、体を動かすたびに関節のどこかが悲鳴を上げる。
「分かんない」
「そうかい」
実際、ニコは何も分からなかった。
いつ眠りについたのかも、なぜ眠ろうという意思すらもなく眠っていたのかも。
突然揺り起こされた肩に触れる。それからハッとモルーギの顔を見るが、怪訝そうな表情は消えていない。
「……睡眠薬なんて飲ませてねえよ」
迷惑そうに溜め息をつくモルーギの向こうに、人影が見えた。窓枠に手をかけてゆっくりと立ち上がると、大柄の体躯に隠れて一人、俯いて動かない者をニコは見つけた。
「モルーギじいさん、その子は?」
背丈はニコと変わらないほど。華奢に見えるのは全身から弱々しい態度が見てとれるから。
「ああ、こいつか?」
モルーギが避けるとその姿はさらに露わとなる。
体の前で手首に手錠をかけられ、口に轡を、目にはベルトをかけられている。俯いたその顔にかけられた拘束具を隠すように、長い前髪がそれを頼りなく隠していた。
ニコはその姿に驚き、すっかり目が覚めてしまった。覚めたどころではない。心臓がドクンと一つ大きく鳴って、警戒心と怒りとがない交ぜになった感情が臓腑をかき回していく。
「じいさん、何やってんだよ」
叫びそうになるところを、怒りに震える体が引き止めた。あまりに突然の怒りを目の当たりにすると、人間はそうそう大きな声も出せないらしい。
「こいつは、公共財だよ。簡単に言えば、みんなのものだな」
「みんなのもの!?」
ようやく張り上げた大声が、屋内に響き渡る。口も目も塞がれたその者は、しかし耳までは塞がれていない。ニコの大声にビクッと体を委縮させて、俯く顔は余計に下を向き、その場に座り込んでしまいそうなほどに背中を丸めている。
「おいおい、あんまり驚かせるんじゃねえよ。こいつはお前さんと同じ人間なんだぞ」
「同じ!?人間!?じゃあ何でそんな格好をさせてるんだよ!」
避けたモルーギの胸元を手で押しのけて、ニコは片足で拘束具をつけられた人間の下へと駆け寄った。
口と目に着けられた拘束具は簡単な仕組みで取り外しができるもので、ニコでも簡単に外すことができた。
目の周りをわずかに赤く腫れさせたその人間は、突然開けた視界に目を細めた。
「見える?」
ニコが長い前髪をそっと横に払う。
拘束具を着けていた人間は、目の前に人間がいることを見とめると、小さく頷いた。
それは、人間の少女だった。
「おい、ニコ。手荒に扱うんじゃあないぞ」
顎髭をなでながら、モルーギがぞんざいな調子で言った。
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