慣れ

 戦士さんがあたしに槍を差し出しました。


「これで、ひとおもいにやってくれ」


 首を差し出す戦士さん。


「何言ってんですか!」


「いや、こればっかりはさすがにオレが悪い。ユウがせっかく作ってくれた船を壊しちまうなんて」


 確かにとんでもないことをしてくれました。あたしたちの希望の光をあっさり破壊してしまったのです。


 だからといって、戦士さんの首をとっても何にもなりません。


 あと、この槍あたしには持ち上げられません。


「さあ、やってくれ」


「いいえ」


 魔道士さんをおんぶしている勇者さんが、あたしの肩をポンと叩きました。あたしの顔を見ると、無言で首を振ります。


 さすがは勇者さん、自分が作った船を壊されたというのに冷静です。そうですよね。腹いせに仲間を殺めたって何の解決にもなりませんよね。


 勇者さんは槍に手を伸ばしました。


「はい(俺が殺る)」


 あ、めちゃくちゃ怒ってました。


「ああ、やってくれ。ユウ」


「やめましょうよ!」


 しかし、勇者さんも基本的には非力なので槍は持ち上げて下ろすにとどまりました。ホッ。とりあえず安心。


 いや、何が安心ですか。脱出に向けた唯一の糸口がなくなってしまったのです。直すにしても新しく作るにしても、もう時間が……。


「マオウサマ」「マオウサマ」「マオウサマ」


 足元からわらわらとスライムの声が聞こえてきました。あたしも成長したものです。足元にスライムがたかっていても平常心です。


 なんて思っていると、集まっていたスライムがくっついて合体しはじめました。


 これは慣れてない。





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