慣れ
戦士さんがあたしに槍を差し出しました。
「これで、ひとおもいにやってくれ」
首を差し出す戦士さん。
「何言ってんですか!」
「いや、こればっかりはさすがにオレが悪い。ユウがせっかく作ってくれた船を壊しちまうなんて」
確かにとんでもないことをしてくれました。あたしたちの希望の光をあっさり破壊してしまったのです。
だからといって、戦士さんの首をとっても何にもなりません。
あと、この槍あたしには持ち上げられません。
「さあ、やってくれ」
「いいえ」
魔道士さんをおんぶしている勇者さんが、あたしの肩をポンと叩きました。あたしの顔を見ると、無言で首を振ります。
さすがは勇者さん、自分が作った船を壊されたというのに冷静です。そうですよね。腹いせに仲間を殺めたって何の解決にもなりませんよね。
勇者さんは槍に手を伸ばしました。
「はい(俺が殺る)」
あ、めちゃくちゃ怒ってました。
「ああ、やってくれ。ユウ」
「やめましょうよ!」
しかし、勇者さんも基本的には非力なので槍は持ち上げて下ろすにとどまりました。ホッ。とりあえず安心。
いや、何が安心ですか。脱出に向けた唯一の糸口がなくなってしまったのです。直すにしても新しく作るにしても、もう時間が……。
「マオウサマ」「マオウサマ」「マオウサマ」
足元からわらわらとスライムの声が聞こえてきました。あたしも成長したものです。足元にスライムがたかっていても平常心です。
なんて思っていると、集まっていたスライムがくっついて合体しはじめました。
これは慣れてない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます