謝罪
あたしは古城のテラスから夜の海を眺めていました。船が通る気配はありません。
槍に降られたり、木に登ったり、落下死しかけたり、スライムまみれになったりしたのに、結局何も手に入らずじまい。むしろナイフを一つ無駄にしてしました。
貴重な一日に、あたしは何をしていたんでしょうか。
足音がして振り返ると、勇者さんが立っていました。
「交代ですか?」
「はい」
「……あの、なんでスライムが乗ってるんです?」
勇者さんの肩に、ピンクのスライムが乗っていました。おそらく、朝あたしの寝床に忍び込み、昼はあたしを木から突き落とす原因を作った、あのスライムでしょう。
「はい?」
気づいていなかったみたいです。こっそり人に乗っかるのが得意なんでしょうか。
「アノ、マオウサマ。コレ、トッテキタノ……」
ピンクさんがそう言って手っぽい突起で掲げたのは、あたしのナイフでした。例の木に突き刺さったはずですから、わざわざのぼってとってきてくれたんでしょうか。
「ヒルマハ、ゴメンナサイ……」
頭っぽいところを深々と下げました。むむ。意外としおらしいじゃないですか。
「アノ……」
ピンクさんは頭を上げて言いました。
「イッショニネテモイイ……?」
いくらしおらしくても、その提案は断固拒否です。
「貴様と寝る気などない!」
あのぐにゃっとした感触が一晩中一緒は御免被ります。
「え……」
顔を蒼白にして口を開いたのは勇者さんでした。
「わ、私は見張りを交代したかっただけでそんなつもりはなくて一緒に寝ようなんて考えたこともなくてそう思わせてしまったのなら謝りますがそんな目で私は――」
「あなたに言ったんじゃありません!」
ていうか、
焦ったらめちゃくちゃしゃべるんですね、この人……。
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