盗賊のリトライ

 仕方ありません。こうなったら意地でもあの木の実を採ってみせます。


 疲れるので嫌ですが、登りましょうか。


 といっても、登るのは木の実の生っているトゲトゲした木ではありません。その周りに生えている広葉樹です。


 問題の木よりも背は低いのですが、上まで登ってそこから投擲武器で狙えば、地面から投げるよりも当たりやすく、枝を切れるだけの威力も出るはずです。


 あたしはシャツと腰布の裾を縛って動きやすくすると、枝の多くついた一本に手をかけました。


「マオウサマ、ガンバレー!」


 下からスライムの声援が聞こえます。


 おそらくですけど、本当の魔王様はこんな原始的なのぼりかたはしないですよ。なんだかよくわからない力でスーッと浮遊すると思います。いいな。



 とりあえず、これ以上は登りようがないところまでは来ました。あたしは、あたしの体重を支えられるだけの枝の上に立ちます。


 肉の少ない体型で良かった。


「マオウサマー!」「ナガメ、ドウ?」「タカイタカイ!」「サスガデス!」「キノボリメイジン!」「モハヤ、サル!」「サルマオウ!」


 なんだか声がものすごく増えている(しかもなんか失礼なこと言ってる)ような気がします。下の方は見ないようにしましょう。


 問題の木の実はそれでもまだ高い位置にありましたが、なんとか狙って落とせそうな距離ではあります。


 あたしは腰のベルトに挿したナイフに手をかけました。木の実一つに対して一本使い捨てることになりますが、今は一つでも採れればみなさんのためになるでしょう。そして存分に感謝してもらうのです。


 あたしはナイフをつかみ、もう片方の手を木に添えて身体を支えながら、狙いを定めました。よし、このくらいの位置で、強さはこれくらい……、


 よし、ここだ、


「モウスコシ、ミギ」


 その声がしたのは地面の下からではなく、耳元でした。




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