盗賊のリトライ
仕方ありません。こうなったら意地でもあの木の実を採ってみせます。
疲れるので嫌ですが、登りましょうか。
といっても、登るのは木の実の生っているトゲトゲした木ではありません。その周りに生えている広葉樹です。
問題の木よりも背は低いのですが、上まで登ってそこから投擲武器で狙えば、地面から投げるよりも当たりやすく、枝を切れるだけの威力も出るはずです。
あたしはシャツと腰布の裾を縛って動きやすくすると、枝の多くついた一本に手をかけました。
「マオウサマ、ガンバレー!」
下からスライムの声援が聞こえます。
おそらくですけど、本当の魔王様はこんな原始的なのぼりかたはしないですよ。なんだかよくわからない力でスーッと浮遊すると思います。いいな。
とりあえず、これ以上は登りようがないところまでは来ました。あたしは、あたしの体重を支えられるだけの枝の上に立ちます。
肉の少ない体型で良かった。
「マオウサマー!」「ナガメ、ドウ?」「タカイタカイ!」「サスガデス!」「キノボリメイジン!」「モハヤ、サル!」「サルマオウ!」
なんだか声がものすごく増えている(しかもなんか失礼なこと言ってる)ような気がします。下の方は見ないようにしましょう。
問題の木の実はそれでもまだ高い位置にありましたが、なんとか狙って落とせそうな距離ではあります。
あたしは腰のベルトに挿したナイフに手をかけました。木の実一つに対して一本使い捨てることになりますが、今は一つでも採れればみなさんのためになるでしょう。そして存分に感謝してもらうのです。
あたしはナイフをつかみ、もう片方の手を木に添えて身体を支えながら、狙いを定めました。よし、このくらいの位置で、強さはこれくらい……、
よし、ここだ、
「モウスコシ、ミギ」
その声がしたのは地面の下からではなく、耳元でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます