魔道士のトライ

 コン! コン!


 勇者さんは何度か大剣を幹に打ち付けましたが、コンコンと虚しい音が鳴るだけで頑丈な木は揺れさえしませんでした。


「まあ、そりゃサスティーンには無理だよな」


「サスティーン……って、なんでしたっけ?」


 勇者さんが大剣を掲げました。


「はい(剣の名前です)」


 ああ、そうでした。聖剣サスティーン。あたし、店に売っぱらえないアイテムについてはあまり詳しくないんですよね。だって売っぱらえないんですもん。


「ユウの剣の切れ味は、神の加護次第なんだからさ。こんな明らかに神の力が行き届いてない島で、ただの剣として振ったらこんなもんだろ」


「そうなんですか」


 あたしが尋ねると、勇者さんは振り向いて大きくうなずきました。


「はい(そうみたいです)」


 勇者さん的にも、一応トライしてくれただけだったんですね。


 見た目的にはそれなりに切れそうなんですが……。あれでは大剣というより平べったい板です。強い風でも吹いてくれた方がまだ実の落ちる望みがありそうです。


 魔王を倒した剣が、何の敵意もない木の一本も切り倒せないなんて。この事実は島を無事に脱出できたとしても、どこにも残さないでおきましょう。


「わかりました。もう大丈夫です……」


「はい(イカダ作っときます)」


 正直、あのへっぽこ板では普通の木の枝を切れるのかどうかも怪しいところではありますが、勇者さんは戻っていきました。


「マドのやつ呼ぶか?」


「うーん」


 戦士さんの提案を受けて、あたしは魔道士さんによる木の実ハンティングを頭の中でシミュレーションしてみました。


「やめておきましょう。魔道士さんの魔法では強すぎて、木の実ごと焼き払ってしまう可能性が高いです」


 あるいは失敗して、森ごと消えてしまう事態になりかねません。




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