魔道士のトライ
コン! コン!
勇者さんは何度か大剣を幹に打ち付けましたが、コンコンと虚しい音が鳴るだけで頑丈な木は揺れさえしませんでした。
「まあ、そりゃサスティーンには無理だよな」
「サスティーン……って、なんでしたっけ?」
勇者さんが大剣を掲げました。
「はい(剣の名前です)」
ああ、そうでした。聖剣サスティーン。あたし、店に売っぱらえないアイテムについてはあまり詳しくないんですよね。だって売っぱらえないんですもん。
「ユウの剣の切れ味は、神の加護次第なんだからさ。こんな明らかに神の力が行き届いてない島で、ただの剣として振ったらこんなもんだろ」
「そうなんですか」
あたしが尋ねると、勇者さんは振り向いて大きくうなずきました。
「はい(そうみたいです)」
勇者さん的にも、一応トライしてくれただけだったんですね。
見た目的にはそれなりに切れそうなんですが……。あれでは大剣というより平べったい板です。強い風でも吹いてくれた方がまだ実の落ちる望みがありそうです。
魔王を倒した剣が、何の敵意もない木の一本も切り倒せないなんて。この事実は島を無事に脱出できたとしても、どこにも残さないでおきましょう。
「わかりました。もう大丈夫です……」
「はい(イカダ作っときます)」
正直、あのへっぽこ板では普通の木の枝を切れるのかどうかも怪しいところではありますが、勇者さんは戻っていきました。
「マドのやつ呼ぶか?」
「うーん」
戦士さんの提案を受けて、あたしは魔道士さんによる木の実ハンティングを頭の中でシミュレーションしてみました。
「やめておきましょう。魔道士さんの魔法では強すぎて、木の実ごと焼き払ってしまう可能性が高いです」
あるいは失敗して、森ごと消えてしまう事態になりかねません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます