勇者のトライ

 あたしは槍を杖がわりに地面に立たせて、倒れてしまわないように支えているのがやっとでした。


「戦士さん。こんなに重たいもの、持って歩いてたんですか……」


「へっ、まあな」


 褒めたわけじゃありません。起き抜けから、こんなの手に持ったまま伸びをしてる人なんて人間じゃないです。


「マオウサマ、ガンバレ!」「ファイト!」「ドゥーユアベスト!」


 声援でどうにかなるものでも……。


「ユウシャトノ、タタカイヲ、オモイダセ!」


 残念ですが、それは勇者サイドの圧勝でした。


「あ、そうです。勇者さ……ユウさんを呼んできましょう」





 てなわけで、勇者さんを呼んできました。


「はい?(疑問)」


「イカダの設計図つくりをしているところ、申し訳ありません。ちょっと手伝ってもらえませんか」


 戦士さんに力は劣るものの、勇者さんも武器を扱った戦いを得意としています。

そして、勇者さんの伝説の大剣(昨日スライムたちから回収しました)は木の化け物はもちろん、石柱の魔法生物だろうが鋼の甲羅を持った亀の魔獣だろうが、チーズみたいにスライスしてきたのです。なんでも切れます。


「この木を切り倒してください」


 木の実に当てるのが無理なら、木ごと切り倒してしまえばいいのです。この発想の転換こそ、数々の危機を乗り越えた盗賊の神髄。


「はい(わかりました)」


 勇者さんが伝説の大剣を構え、大きな木に向かって振りかぶります。


 バシュッ、と心地よい音がして、いとも簡単に木の幹が倒れました、


 という結果になると思ったのですが、



 コン……、



 という音が虚しく響いただけでした。




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