勇者のトライ
あたしは槍を杖がわりに地面に立たせて、倒れてしまわないように支えているのがやっとでした。
「戦士さん。こんなに重たいもの、持って歩いてたんですか……」
「へっ、まあな」
褒めたわけじゃありません。起き抜けから、こんなの手に持ったまま伸びをしてる人なんて人間じゃないです。
「マオウサマ、ガンバレ!」「ファイト!」「ドゥーユアベスト!」
声援でどうにかなるものでも……。
「ユウシャトノ、タタカイヲ、オモイダセ!」
残念ですが、それは勇者サイドの圧勝でした。
「あ、そうです。勇者さ……ユウさんを呼んできましょう」
てなわけで、勇者さんを呼んできました。
「はい?(疑問)」
「イカダの設計図つくりをしているところ、申し訳ありません。ちょっと手伝ってもらえませんか」
戦士さんに力は劣るものの、勇者さんも武器を扱った戦いを得意としています。
そして、勇者さんの伝説の大剣(昨日スライムたちから回収しました)は木の化け物はもちろん、石柱の魔法生物だろうが鋼の甲羅を持った亀の魔獣だろうが、チーズみたいにスライスしてきたのです。なんでも切れます。
「この木を切り倒してください」
木の実に当てるのが無理なら、木ごと切り倒してしまえばいいのです。この発想の転換こそ、数々の危機を乗り越えた盗賊の神髄。
「はい(わかりました)」
勇者さんが伝説の大剣を構え、大きな木に向かって振りかぶります。
バシュッ、と心地よい音がして、いとも簡単に木の幹が倒れました、
という結果になると思ったのですが、
コン……、
という音が虚しく響いただけでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます