戦士のトライ
城の外に出たあたしは戦士さんに連れられて、森の中を進みました。空は雲が出てきて、朝よりもいくらか陰っています。
「マオウサマ、オデカケ?」「ナニゴト?」「エンセイ?」「ミッカイ?」
道中、辺りから、ちらほらとそんな声も聞こえているような気がしましたが、気にしないようにしました。
「この木だ」
戦士さんが指さした木は、明らかに他の木とは違いました。背は頭ひとつ飛びぬけていて、明るい黄色がかった幹をしています。枝は頭の方にだけ生えていて、付け根に大きな丸い実が生っているのが見えました。
「なるほど」
登ろうにも岩のように太い幹の表面はトゲトゲで、しがみつくこともできません。
「じゃ、登って採ってくれ」
できそうにないと思ったばかりのことを、戦士さんが命じてきました。
「あたしがですか?」
「おめー、身軽じゃんか。盗賊だし」
「こういうときだけ盗賊扱いしないでください。戦士さんこそ、こんなイガイガの木くらい自慢の防御力でへっちゃらじゃないんですか」
「へっ、オレの防御力は、防具だのみなんだよ」
昨日、戦士さんが脱いでしまった鎧は後からお城に回収してはいましたが、木登りに適した装備とは言えません。
「その、でっかい槍を投げつければ落ちてくるんじゃないですか」
「これは投げて使うものじゃない」
戦士さんは真剣な顔で言いました。
「それによ。魔王と戦った槍が、木の実採りのために投げられるなんて不憫だろ」
「今、そんなことを言ってる場合ですか。このままだと、あたしたちがもっと不憫な末路を辿りますよ」
「……ちっ。わーったよ」
戦士さんは槍を鞘から抜いて構えました。
「下がってろ」
そう言って戦士さんが投げた槍は、後ろに飛んであたしを飛び越えました。
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