スライム身の上話

「知らぬわけではないが、うぬらの口から聞きたい」


 口があるのかわかりませんが。


「エットソノ、ウレシイ、オコトバデ、モウシアゲ、ニクイノ、デスガ……」


 紫さんが申し訳なさそうなぷるぷるで言いました。


「ワレラ、シマノナマエ、シリマセン」


「なにゆえじゃ」


「モウサレマシテモッ……。ワレラ、ミナ、アルヒ、キガツイタラ、キュウニ、コノシマ、キテイタノデス」


 それじゃ、あたしたちと同じじゃありませんか。


「もともとこの島のものではないのだな」


「サヨウデ。シュッシン、バラバラデス」


「島へ来たのはいつだ?」


「エットソノ、ケッコウ、マエデス」


「曖昧な答えは好かぬ」


「ヒッ」


 紫さんが身震いすると(ずっとふるえてますが)、地獄のスライム沼から別の声がしました。


「ハイッ、マオウサマァ!」


 群衆の中にいたミント色のスライムが、手っぽい突起をうねうねと波打たせながら上げています。あたしは己の視力の良さを呪いました。うへえ。


「申せ」


「タイヨウガ、サンビャク、ノボッテ、シズミマシタッ!」


 三百日……。十か月くらいですか。とすると、勇者さんが旅立ってしばらくして、あたしと出会うか出会わないかってところですか。


「うぬらは、島の外へ出ようとは思わなかったのか」


 三百日もあったんですから、少しは考えたはずです。


「ハア、トクニ」


 紫さんが答えました。



「――デタイリユウガ、ゴザイマセンノデ」




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