分業

 あたしは指を三本立てて言いました。


「脱出のためにできることは三つ。助けを待つ、船を作る、他の脱出方法を探る」


「船を作る、つっても、そんな技術あるやついんのか」


 沈黙が訪れます。ここにいるのは、伝説の英雄と最強の戦士と大賢者さまと凄腕の盗賊。豪華メンバーではありますが、魔王は倒せても船は作れません。


 こんなことなら船大工さんでも仲間にしておくべきでした。適当な木と石があれば、一晩で船を作りあげてしまうような人。途中まで旅をした仲間の中にも、そんな素敵な人材はいませんでしたね。


「さ、笹船なら作ったことありますっ」


「ありがとう、魔道士さん。でも、それじゃネズミも乗れませんよ」


「お、どした。ユウ?」


 勇者さんが手帳を取り出しサラサラと何か描きはじめました。「はい」「いいえ」「!」「?」だけでは表現しきれない時、勇者さんは満を持してイラストを描いてくれる時があります。えっとだから、そこまでするならしゃべれ。


 勇者さんは描き終わると手帳を開いて見せてくれました。随分と適当ではありますが、イカダが描かれています。


「……これくらいなら作れるんですか?」


「はい」


 なるほど。正直、陸地が見えないような島からイカダごときで脱出できるのかはわかりませんが、笹船よりは遥かにマシです。


「それじゃ、勇者さんはイカダ造りをメインにお願いします」


「はい」


 魔王を倒した英雄が、魔王のまがいものにイカダ造りを命じられるとは。


「オレは食い物をもう少し探したい」


「あまり危険な場所には行かないでくださいよ」


「ガキじゃねーんだ、わかってるよ」


 そう言いながら勝手に行動するのが戦士さんです。


「魔道士さんは、テラスから船の見張りを。あとでみんなで交代します」


「かしこまったですっ」


「あたしは他の脱出方法を探るために、……彼らに話を聞きます」



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