よばいスライム
「え……」
あたしは恐る恐る、顔をゆっくりと左に向けて自分の肩を確認しました。なんだ、何もいないじゃないですか。あたしをからかいましたね。まったくもう。
「そっちじゃねーよ。逆、逆」
「……逆?」
言われて右の方に顔を向けると、頬にぷるっとした感触がにゅるりんとしました。
「ひゆぇいっ!」
慌てて、手でスライムを払いのけます。手で払いのけますってことは、それはつまり手で一度さわらないといけないわけですよああもうイヤイヤぁ!
「気色わるかっ!」
あたしが魂の叫びを上げると、床にとぺっと落ちたピンク色のスライムが起き上がりました。顔っぽい部分に手っぽい部分を当てながら、あくびっぽい動作をしてます。
「フワア……。マオウサマ、オメザメ?」
魔道士さんの翻訳魔法は一晩明けても効果がありました。さすが大賢者の魔法。
なんて、感心してる場合じゃありません。
「き、貴様! なにゆえに我の肩にぷにっといつから居座っておられた!」
混乱して口調も質問もまとまりませんでした。
「マオウサマノ、ヤクニタチタクテ、ヨナカ、シノビコンダノ」
夜中から今までずっと、あたしに張り付いていたというんですか……。
「お役に立ちたくて寝所に忍び込む者があるか! 二度と無断で我に近づくな!」
「ハア、ゴメンナサイ……」
「他の者にも一人残らず伝えよ! とっとと失せい!」
「ズラカルノ……」
頭っぽい部分をうつむかせて、ピンク色のスライムは床を腹で這うようにしながら出ていきました。ああ、失せ方まで気持ち悪い。きも。
「なあ」
特に何も助けてくれなかった戦士さんは、怪訝な顔であたしに言いました。
「気色わるかっ、ってなんだ」
「……そんなこと言ってません」
あまりに驚いて地元の訛りが出たなんて、恥ずかしくて言えません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます