第二章
二日目の朝
石壁に空いた小さな穴から光線のように日が射し、あたしの顔を照らしました。
高級宿の豪奢なベッドで目を覚まし、汚れ一つない真っ白なカーテンの隙間から日射しを浴びていたのならば良かったのですが、ここは武骨な石造りの古城です。
あたしはみんなを起こさぬよう、足音を立てずにテラスへ出ました。その気配の無さといえば、たとえ猫のヒゲを踏んでも目覚めません。世界一の盗賊ですから。
まあ、本来こんなところで使うスキルではないんですが。
テラスからは小さな森と砂浜の向こうに、見渡す限りの空と海が見えます。もしもこの風景を絵にするなら、青い絵の具ばかり減るでしょう。
……。いいえ、そうでもありませんね。
いささか人より優れてしまっているあたしの視力では、島のあちこちに赤やら黄やらミントブルーやら浅黄やら藤鼠やら、様々な色が点々としているのがわかります。
この島の先住者、スライムたち。
彼らだか彼女らだかにも睡眠の習慣があるのか、それとも日が照っている影響で縮こまっているのかはわかりませんが、動いてはいない様子でした。
でも、ひとつひとつが生き物。
また昨日のニュルリが蘇ります。うひやあ。
「お、ドロも起きてたか」
後ろから、粗野な声で失礼な呼びかけがありました。
「戦士さん」
起き抜けから槍を携帯している戦士さんは、槍を掴んだまま伸びをしました。それではかえって疲れると思うんですが野暮は言いません。槍の錆になりたくないので。
戦士さんは辺りを一望しました。
「へっ、陸がねーぶん、朝焼けは綺麗だな」
この力自慢さんにも朝焼けを綺麗と思うような心があるんですね。意外。
「同感ですが、こんな気持ちの悪い島は嫌です」
「そうか? てっきり、おめーはあいつらと仲良くなる気かと思ってたけど」
「冗談はよしてください」
「だってよ」
「――肩に一匹乗ってんぞ?」
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