魔王誕生
「たぶん雨のせいと思います。スライムは水ないと動かなくなるです」
そういえば戦士さんは木の実がスライムになったと言っていました。
おそらく、しばらくこの島へ日照りが続いていて、干からびて収縮した状態のスライムが地面に転がっていたのでしょう。
にしても、多すぎ。
「じゃあ、ユウ、マド。一発でかいの頼むわ」
「はい(親指を立てる)」「ラジャです」
脅威が去って、勇者さんが調子に乗っています。魔道士さんも落ち着いています。
「一発って……。どうする気です?」
「あん? だってこっからだったら巻き添えくわないだろ? ユウの雷魔法と、マドの炎魔法でさっさと一網打尽にしちまおーぜ」
ふむ。二人の力ならばそれができます。おそらくは森の大半もあとかたも消えてなくなるでしょうが。
「よし、じゃあ、オレが『はなてっ!』って言ったら唱えてくれ」
ああ、それ気持ち良さそうです。ほとばしる閃光、原型を留めずえぐれる大地。ぜったい悪役のような気がしますけど憧れます。
「待ってください」
ですがここは我慢。大局を見誤るわけにはいきません。
「島から出る方法を彼らが知っているかもしれません。今、滅ぼしてしまうのは得策ではないでしょう」
「だけど、お前が魔王だなんてハッタリ、いつばれるかわかんねーぞ? あいつらの気が変わったら今度こそオレら終わりだぜ?」
戦士さんの言うことも、もっともでした。
「彼らを焼き払っても同じです。船が近くを通らない限り、あたしたちは終わり」
あたしの人生の目標は魔王を倒し名声を得て、あらゆる人からチヤホヤされることです。倒して伝説になるだけでは意味がありません。チヤホヤまでがコミなのです。
こんなところで終わってたまるもんですか。
「だまし通しましょう。世界を救ったあたしたちなら、きっとできます」
こうしてあたしは、
魔王の名を盗んだ盗賊となったのです。
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