うぬ

 山のようにいるスライムたちの動きが、ぴたりと止まりました。


 ……あと、味方のみなさんの動きも。


「おい、大丈夫かおめー?」


「……とうとう狂ってしまったですか?」


「?」


 ああ、やっぱりこういう反応になりますよね。まあ、今は仕方がありません。生き残るのが最優先。


 世界を救ってチヤホヤされるというあたしの計画が、こんなわけのわからないところで狂わされてたまるもんですか。恥ずかしい思いの一つもしましょう。


 あたしはスライムたちに向かって言い放ちます。


「我を魔王と知って、まだこのような狼藉を働く気であるか?」


 あたしが問いかけるとスライムの群れはざわつきはじめました。よし、とりあえず第一段階は成功です。


 すると、スライムの山の中から、紫のスライムが一匹だけ前に出てきました。


「ア、アノー」


 スライムがフルフルと揺れると言葉が聞こえました。どっから声が出てるんだろ。


「なんであるか?」


「コノヨウナバショニ、マオウサマガ、イルノハ、オカシイノデハ?」


 まあ、疑問を抱くのも無理はありません。


「我の言葉を信用せぬというのか」


 思い切りにらみつけてやりました。フリーの盗賊以来の凄みを利かせて。


 もっとも、顔の位置がわからない(あるんでしょうか)ので、適当に山全体を見ただけですが。


 しかし、効果はてきめんでした。山がちょっと後ずさりします。


「デスガデスガ、シツレイデスガ、ニセモノデハナイデスカ?」


「ならば、うぬらに聞こう」


 声音を低く落とします。うぬ、って一回言ってみたかったんですよね。


 仲間たちはあたしの魔王っぷりにひいていますが、今は気にしない気にしない。



「うぬらの中で、魔王に会ったことのある者はおるか?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る