勇者さんと戦士さんは、スライム山の雪崩からギリギリ逃れました。


「なんて数だ、おい!」


 一体一体は、ごむまり程度の大きさですが、廊下から扉狭しと侵入してくるおびただしい量のスライムは、まともに戦っても勝てそうにありません。


 しかも、もしあれが合体して一つのでっかいスライムになったりしたら……。うぅ。


 あたしは恐ろしい想像を頭から締め出しました。えいっ。


 スライムたちはあいかわらず、口々にがやがやと何か口走っており、一人一人は判別できませんが、ときおりはしばしから聞こえる単語を総合すると。



「コロス」「ツブス」「トカス」「ノミコム」「シミコム」「ユウゴウ」



 などと魔物の本能で物騒なことを多々おっしゃっているようでした。気にしない。気にしない。なるべく。


 スライムの山は、じりじりとこちらに迫ってきます。


「おい、どうすんだよ! ドロ!」


「待ってください。やることは決まってるんですが、今、文言を考えてます」


「はあ?」


 なるべく迫力があって、かつ恥ずかしくないテキストを。


「受け入れよう……」


 勇者さんがまた悟りはじめました。


「お前、なんだそれ気にいってんのか!」


「受け入れるです。しを……」


「マド! てめーまで受け入れんな! 流されんなばか!」


 四人が固まっている壁際に、もう視界にスライム以外のものが入りきらないくらいまで迫ってきました。


「文言なんていいから早くどうにかしろ! オレも死を受け入れたくなってきた!」


 仕方ありません。オーソドックスにいきましょう。


 あたしは意を決して、こう叫びました。



「静まれ愚かものども! 我は魔王なるぞ!」




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