打開策

 戦士さんの平手打ちが勇者さんの頭に炸裂しました。


「久しぶりにしゃべったらそれか! てめーが真っ先にあきらめてどうすんだばか!」


 まったくです。


 でも、おかげで少し冷静になりました。自分より動揺している人を見ると、落ち着くものです。


 向こうは膨大な数とはいえ、最弱モンスターです。何か打開策が……。


 最弱モンスターということはおそらく。


「魔道士さん?」


「は、はい」


「スライムの言葉わかります?」


 知能の高い魔物は人語を解しますが、スライムレベルになるともう異次元通信です。


「素ではむつかしいですが、ほんやくの魔法使えはたぶん――」


「要魔力消費ですか」


 この際、仕方ありませんかね。


「おい、襲わないでくださいって頼んだら、耳貸すやつらなのか、あいつら!」


 戦士さんが勇者さんと一緒に、はちきれそうなドアを抑えながら言います。


「試してみる価値はあると思いますよ」


「ですがですが、これだけいたら一人一人の声なんて判別できませんですよ!」


「いいんです。こちらの言葉が向こうに通じれば」


 あたしの考えが正しければ。


「魔道士さん、それでは翻訳魔法をあたしに」


「……わかったですが心の準備してくださいね、きっとうるさいですよ?」


 魔道士さんが、呪文を唱えます。


 すると、あたしの耳に、さっきまでは無かった無数の話し声が聞こえてきました。開演前の劇場のようなごった煮状態で、一人一人何を言っているかはわかりません。


「おい、もうもたねーぞ!」


「受け入れよう、死を……」


「てめーはだまれ!」


 勇者さんにツッコミを入れるために、戦士さんが手を離した瞬間、扉が派手な音を立てて壊れ、大量のスライム雪崩が起きました。




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