逃げ場なし

 上からもスライム。下からもスライム。となれば、あとは横しかない。


「みんな、大広間へ行きましょう!」


 さきほど会議をした広間へ向かいます。さいわい、トビラをあけたらスライムの山が雪崩のように落ちてくる、なんてことにはありませんでした。ほっ。


 でも、それに近い状況も時間の問題でしょうか。もう逃げ場はありません。


「昨日見たグミは、あいつらだったのか」


 あたし、一生グミ食べません。


 戦士さんが、全員が部屋に入ったのを見て扉をきっちりと締めてカンヌキをします。人差し指台の穴もなし。


 でも、あれだけのスライムが全員で体当たりをしてきたらこんな扉なんて……。


「どどどどします。どします?」


「戦うしかねーだろ?」


「でも、ここで攻撃魔法を使ったら、あたしたちもひとたまりもありませんよ!」


「あとで回復すりゃいいだろ!」


「スライムがどの程度いるかわかりません! 魔道士さんや勇者さんの魔力と、回復薬が最後まで持つかどうか!」


「じゃ、どーすんだ!」


「うううう、自分のせいでこんなことに! すみませんすみませんすみません!」


 そうこうしてるあいだにも、大広間の扉はギシギシと音を立てています。


 どうしましょう。何か状況を打開する策は――。


「みんな、聞いてくれ」


 そこでさっきまで息を切らせていた勇者さんがすっくと立ち上がり、珍しく「はい」「いいえ」以外の言葉を口にしました。


 そうでした。あたしたちには勇者さんがいるのです。泣く子も黙る勇者様です。神に認められた選ばれし勇者様です。


 スライムごとき怖れるに足りません。何か神がかった都合の良い力を発揮して、あたしたちを勝利に導いてくれるに違いありません。


 そんな期待を背負った勇者さんは、こう言いました。


「――受け入れよう、死を」


 超期待はずれでした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る