出入口

「それどころじゃねー。いたんだよやべーモンスターが!」


 確かに。魔道士さんの予感でいくらか予期していたこととはいえ、一大事です。


 なぜなら、戦士さんはモンスターが出たくらいでは普通慌てないからです。その戦士さんが、血相かえて逃げてくるというのはよほどの強敵が現れたのでしょう。


「……な、なにがでたんですか」


 まさか、巨大ゴーレムの群れ? だったら、あたしは前言撤回して魔物と接触をはかるという手段は破棄しますけど。


「木の実が水吸ったら、スライムになったんだ!」


「……はい?」


 スライムは魔物の中でも最弱の部類に入ります。色はさまざまで、からだはぷにぷにしている、動く液体です。目も鼻も口もなく、体内器官も見当たりませんが、なんか生きてやがります。


 冒険者の育成指導要項のレジュメがあったら初級編のページには間違いなくスライムとの戦いがイラストいりで載っていることでしょう。そしてみんな読みとばす。


 魔法も使えず、力もなく、素早さもない。ただひたすら体当たりをしてきますが、ぷにぷにしてるので当たってもそんなに痛くない。


 あたしはもちろん、魔道士さんだって打撃で何発か殴れば簡単に勝てちゃいます。


 つまり、


「からかってるんですか?」


 と聞くしかないです。そんなもんにびびるヤワな戦士さんなんて。


「一匹や二匹じゃねーんだよ!」


 戦士さんは真剣でした。ですが、たとえ三匹だろうが四匹だろうが十匹だろうが、スライムであればものの数ではないはずです。


「五十、いや、百は絶対いる!」


 そ、それはちょっと気持ち悪い。


「まっさか」


「嘘だと思うんなら、外見てみろ!」


 促されるまま、あたしは穴をのぞきました。


 ん? さっきまで外が見えたのにふさがってて見えな――、


 そのとき、あたしのまぶたにニュルリとした嫌な感触が走りました。




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