投薬計画

 疲れきっていたあたしたちは、森の探索は明日に持ち越すことにして、今夜は浜辺で野宿をすることにしました。


「えー、すぐ森探索しよーぜ」


 とか、アクティブなところだけが取り柄の戦士さんは言い出しそうでしたが、あたしの意見に賛同してくれました。さすがに休みたかったんでしょう。


 回復薬には二種類あります。体力を回復するタイプと、魔力を回復するタイプ。


 両方を回復するものもありましたが、それは最後の戦いで盛大に使い切ってしまっていました。だって最後だと思ってましたから。


 体力魔力それぞれを回復する薬も、完全回復するのは使い切っていました。今所持しているのはだいぶ昔に買った安価な薬のあまりです。今さら道具屋さんに売っても大してお財布の足しにならないので道具袋に入れっぱなしでした。


 勇者さんが魔力回復の薬を飲んで、あたしたちに治癒魔法をかけます。勇者さんは回復のスペシャリストではないですが基本的な回復術を心得ており、今のあたしたちの強さならばそれで充分でした。


 魔力の回復薬がつきない限りは、勇者さんの魔法で弱った体力を回復することができます。こうすれば体力回復薬のほうは手をつけず、長く温存できます。


 ちなみに「飢え」も要は体力の減退なので、治癒魔法や体力回復薬でなんとか誤魔化すことはできます。まあ、あの「ゴハンを食べた」という充足感だけはどうしても得られませんが、それで死には至りません。


 戦士さんと勇者さんが、慣れた手つきで簡易テントを張ります。


 これまでも広い平原や砂漠、長い長い洞窟を抜ける際に、何度か野宿を強いられる機会はありました。


 浜辺を一周した段階では、危険な獣の姿は見つかりませんでしたから、襲われる心配はないでしょうが、念のため交替で見張りをします。


「すぴー」


 魔道士さん以外で。夜はすぐに寝ます。この子。


「……ごめんなさい、みなさん、ごめんなさい……すぴー」


 思った以上に責任を感じてたんですね。


「……やめてください……すりこぎだけは……すりこぎだけは」


 ずいぶん嫌な夢。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る