勇者さん

 いくら浜を歩いても、街や人家は見えてきませんでした。


 あたしたちの疲労ゲージも順調にチャージされつつあります。


 よく考えたら、あたしたちは総力戦を終えた後なのでした。一応、戦闘後に回復薬をみんな飲んではいましたが、精神的な疲労感ばかりは回復できません。


「あついです、疲れたです……」


 魔道士さんが思わずつぶやきました。魔道士さんもローブをすっぽり着込んでいるので、熱はこもりにこもっているでしょう。歩きづらいでしょうし。


「わ、うそです! あつくないです! 疲れてないです!」


 魔道士さんが、慌てて訂正しました。


「ぜんぜんです! むしろ寒いです! 絶好調です!」


 魔道士さんが両の手でファイティングポーズをとります。


 自分の魔法のせいで辺鄙なところに来てしまったのに、弱音を吐いたりするのは悪いと思ったのでしょう。良い子です。


「ほんと、疲れましたね」


 あたしはとくに責任がないので、堂々とつぶやきました。


 砂浜というのは足を砂にとられるので、舗装された道を歩くよりもはるかにしんどいです。足が棒を通り越して、体感ではオリハルコンくらいの固さになっているかと。


「そっかー? だらしねーなおめーら」


 結局、途中であっさり鎧を脱ぎ捨てて身軽なインナーのみになった戦士さんはまだまだ余裕そうでした。物理攻撃の権化と体力を比較されても困ります。


「勇者さん? あの背の高い木まで行ったら、木陰で少し休みませんか?」


「はい」


 戦士さんのと違って軽鎧タイプとはいえ、この暑さにとっては拷問具のような装備に耐え続けている勇者さん。


 あたし、盗賊でよかったです。最強装備でも軽装です。


 しかし、こんな状況でも勇者としての矜持を保つためみっともない姿はさらさない。さすがですね勇者さんは。


 そんな勇者さんは木陰につくとまず、



 伝説の武器防具をすべて脱ぎ捨てて身軽になったのでした。



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