重鎧

 海から浜辺を挟んで反対側には鬱蒼と樹木が繁り、奥の様子はわかりません。


 まずは海岸伝いに歩いてみることにしました。森に入って迷ったりしたら面倒ですけど、海岸を歩いている以上は迷うことはありません。


 空からは、太陽が照りつけています。


「あぢー……」


 浜辺を黙々と歩いていると、戦士さんがぽつりと言いました。何回目かは数えてないのでわかりませんが、やや鬱陶しく感じるほどです。


「その鎧、脱いでその辺に捨てちゃえばどうです?」


 戦士さんは重そうな鎧を着ていました。最終決戦用ですから、防具性能は非常に高いですが、今はただの無駄な厚着です。


「やだよ。もったいねーよ。高かったんだぜこれ」


 脱いだ鎧を持ち運べるほど大きな道具袋は持ち合わせていません。もし、脱ぐのならばその場に捨ておくことになります。


「もう使うこともないんじゃないですか」


 最大の敵は滅びました。このあとあたしたちは、幸せに暮らしましたとさ、と語られるのみなのです。そんな鎧が必要になる脅威はおそらくないでしょう。


「んにゃ、わかんねーぞ。どうする? 森ん中から巨大ゴーレムの群れが出たら?」


「いやなこと言わないでくださいよっ」


 あたしはでっかいものが苦手です。


 でっかいものって不安になりませんか。なんでこんなでっかい必要があるんだろうとか。動くでっかいものはなおさら意味不明で不気味で戦慄です。


「つーか、オレが普段着で帰ってきたらさ。なんか、ありがたみ半減じゃねーか」


 戦士さんも凱旋パレードのことを考えていたようで。


「街に戻ってから新しく買っちゃえばどうです? 世界平和の大盤振る舞いで鎧なんかきっとただで譲ってくれますよ」


 傲慢な希望的観測ですが。


「うーん――」


 戦士さんは迷っていましたが、汗をダラダラとかきながらも文句一つ言わない勇者さんを見て、とりあえず着ていることにしたようです。


 由緒ある伝説の武器防具なので、脱ぎ捨てるわけにいかない勇者さんを見て。


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