不思議な力

 魔道士さんは慌てて、何度か同じ呪文を唱えました。


 が、結果は同じで、あたしたちの周囲には何の変化もありません。


「あれれ、なんでなんでですかっ?」


 転移魔法が封じられているようです。結界のような何か不思議な力によって。


 そもそも魔法という力自体がとっても不思議ですから、別の不思議な力でなくなったとしても何も不思議ではありません。


 以前にもそういうことはありました。そしてそういうときは、大抵、徒歩で目的地に向かう途中で重要な出来事が起きたりするのです。人生そういうもんです。


 だから別に驚くことでもないんですが、


「困りましたね……」


 事情が何にせよ、転移魔法が使えないのならば、それ以外の手段で町へ戻らなければなりません。


「ここがどこか知ってるやつ、いんの?」


 戦士さんがみんなに尋ねました、あたしも魔道士さんも首を横に振ります。


「ユウは?」


 戦士さんは勇者さんをユウと呼んでます。


「いいえ(落胆)」


 現在地不明。


 今、居る場所がわからなければ、どこに向かっていいのかもわかりません。


「オレも知んねーな……。しゃーねー。とりあえず人を探すか」


「そうするしかないみたいですね」


 はあ。最後の敵を倒したばかりなのに、未知の場所を探険しなきゃならないとは。


「すみませんです。あたしのせいで」


 魔道士さんがぎゅっと米粒のごとく小さくなっています。無論、比喩です。


「魔道士さんのせいじゃありませんよ。便利な魔法を使わせてくれない、この場所が悪いんです」


 それと、何かというと魔道士さんの魔法に頼りまくっているあたしたちにも、きっと問題がありますね。


「な、マド。人のいる場所がわかる魔法とか使えねーのか?」


 ほら。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る