あたしたちは気づくと海辺にいました。見たことのない海。


「ここは?」


 本来ならば、魔王城の入り口に出るはず。


 で、それから街に戻って「ご討伐おめでとう!」などと書かれた垂れ幕を横目に、凱旋パレードでも決行するはずでした。


 ところが辿り着いたのは見渡す限り青、青、青。空と海との境目が、よく見ないとわからないような。


 変です。魔王城は北の果て。周囲は深い霧に覆われていたのです。魔王を倒したことで禍々しい霧がはらわれる的な現象が起きたとしても、青すぎでした。


 高い空、果てのない海、照りつける太陽、白い砂浜。


「おいおい、またかてめー」


 戦士さんが魔道士さんの頭を軽くこづきます。


「す、すみません、やっちゃいましたです」


 魔道士さんが小さくなっています。もともと一番小さいですけど。


 実は魔道士さんが呪文を失敗することは多々あるのです。炎の権化のような魔物に炎魔法を浴びせてパワーアップさせたことだって数え切れません。また、あたしも勇者さんも戦士さんも、魔道士さんの石化魔法を何度かくらったことがあります。


 それでも魔道士さんに誰も文句を言わないのは、助けられたことのほうがはるかに多いからです。


 ぶっちゃけ魔王戦も六割くらいは彼女の活躍でした。


「まことに申し訳がたちませんです……」


 あとは、やっぱり憎めないからです。ずるいです。


「勇者さま、怒ってますか?」


「いいえ(優しい目)」


「ふう、安心したです」


 魔道士さんが、ほっとため息をつきました。


「それじゃ、街へ戻りましょう。魔道士さん」


「了解ですよ」


 魔道士さんが瞬間移動呪文を唱えました。


 しかし、何も起きませんでした。

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