戦士さん

 話は、魔王を倒したあたりまでさかのぼります。


 あたしたちの目の前には、さっきまで魔王だったものが転がっていました。


「とうとうやりましたね」


 これ、あたしです。最終決戦だというのに身軽な軽装です。盗賊ですから。


「はい」


 この朴訥な声の人が勇者さんです。伝説の大剣と鎧でバッチリ決めています。


 いつもの「はい」よりも感慨深い様子でした。長く一緒にいるとしゃべる言葉が「はい」と「いいえ」だけでも、ニュアンスで気持ちを察せます。


 長い道のりでしたからね。あたしは途中からですけど。お疲れ様と言いたいところです。


「へっ、ざまーねーぜ魔王」


 この粗野な声は戦士さんです。やみくもに武器や拳を振り回すしか能のない人です。同じ女性としてどうかと思います。


「おいドロ。今、気にさわること考えてなかったか」


 戦士さんがこっちをにらんでいます。ちなみにドロというのはあたしのことです。たぶん「泥棒」のドロです。不本意です。盗賊なんですから、あたしゃ。


「まっさか」


 すっとぼけてやりました。


「いいや、顔見りゃわかる」


 長く一緒にいると、武器や拳を振り回すだけしか能のない人でも、仲間の考えていることが多少なりわかるようになるみたいですね。


「魔王の次の獲物にしてやろうか?」


 さっき収めたばかりの派手な装飾のゴテゴテした槍(あたしは興味ないので名前とか知りません)に手をかけています。


 こういうすぐに暴力に訴える人は、困ったもんです。


 ただ、やはり長く一緒にいるので、この人なりのジョークなのだろうということはわかっています。


 ――チャキ――


 戦士さんが槍を構えました。


 ……あれ、ひょっとして本気でしたか。



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