第一章

魔王撃破、そのあとに

 あたしは盗賊です。


 盗賊っていっても、ただの盗賊じゃないです。あのみんなが知ってる勇者さんの仲間の一人。


 えっ、勇者さん知らない?


 世界を滅ぼそうとかいう、到底叶いそうもない野望を胸に抱いてのこのこ復活してきた魔王とかいう大バカを倒すために、伝説の武器防具を集めて仲間とともに立ち向かったあの勇者さんを知らない?


 そうですか。でしたら教えましょう。勇者さんはですねえ、えっと……。


 あ。さっきのでだいたい情報出尽くしちゃってました。三行くらいで説明できちゃうんですね勇者さんって人は。


 強いて言うんなら、恐ろしく口数が少ないです。「はい」か「いいえ」以外にはほとんど口を聞かない。なんともレトロな人。


 そんなんでも勇者さんは勇者なので有名人なわけで、つまり、あたしはその仲間なんで、盗賊の中の盗賊ですね。


 盗賊と聞けば、まともな常識のある人はまずあたしのことをみんなが思いだします。ザ・盗賊。キングオブ盗賊。エンペラーオブ盗賊。それがあたし。


 そう。あたしは人生勝ち組なわけです。将来安泰。現役を退いても地方にいってトークショーで食べていける。そのくらいの地位を獲得したんです。人前でしゃべるの自信ないですけど、カンペあればきっと大丈夫。


 てなわけであとは魔王を倒しさえすれば心配はカンペのことくらいでいい安定した人生が待っている。しばらく、そんな状況でした。


 で、ついに魔王倒しました。


 詳細は長くなるので省きます。「壮絶な戦いだった」と後の世には記録されるでしょう。そうでなかったとしても、そこは壮絶に戦っとかないとお話になりません。


 で、倒したってことは、もうあとは英雄と呼ばれチヤホヤされるだけの素敵な人生、


 の、はずだったんですけど、


「「「「ヨウコソ、マオウサマ!」」」」


 あたしは今、なぜか魔王様と呼ばれていました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る