ゴジツタン!
関根パン
プロローグ
あたしが盗賊になったわけ
なるべくラクをして生きたいな、
と思っていました。
それはひょっとしたら、孤児院の経営が頻繁にあぶなくなっていて、年長のお兄さんお姉さんがたや先生がたが、そのたびにあくせくどたばたと働いているのが、あたしの目にはあまり楽しそうにうつらなかったし、そればかりか真面目に働いた挙げ句に過労で寝込んだり倒れたり他界したりする人を、何度か見たからかもしれません。
あるいはそんなこととは無関係に、元来面倒くさがりな性格に生まれついたのかもしれません。
労せずして、ものやお金を手に入れるのはどうしたらいいか。
幼いあたしは、そればかり考えていました。
そして幼いあたしには「誰かから奪う」という発想しかなく、そしてたびたびそれを実行に移したりしました。
それには大きな問題がありました。
ご存知のかたもいると思いますが、ものを盗むという行為は実にさまざまな人から怒られるのです。
まず、盗んだものの持ち主から怒られます。
これは当然といえます。理屈ぬきです。
次に、保護者から怒られます。
これには三つの理由があります。一つは、自分が子供を倫理にもとるような人間に育ててしまったという自責の念。そして、もうそんなことはしないようにという戒め。それと、世間への体裁です。
また、事件が明るみになれば、警察組織からも怒られます。
これは簡単で、そういう人を怒るのが彼らの仕事だからです。
あたしはラクをしたいなーとは思っていましたが、怒られたいとはまったく思っていませんでした。これっぽっちもです。
怒られずにものを盗むにはどうしたらいいか。
一つにはバレずに盗むという方法があります。盗んだという事実すら感じさせないような盗み方をするのです。
ただし、これを会得するのには時間がかかりそうでした。あたしはあまり気の長いほうではなかったので、この方向を目指すのはやめました。
もう一つは、盗んでも怒られない相手から奪うこと。
簡単にいえば悪者から奪うのでした。強欲な富豪や、圧政を強いる領主。あるいは人に危害を加える魔物の類。
誰しもが制裁を加えたいと思いながら、立場や力関係上敵わない相手です。そういう相手からものを盗むと、不思議なことに怒られるどころか称賛され、場合によっては英雄扱いなのでした。
また、すでに誰のものだかわからないものも奪い放題でした。
誰も足を踏み入れずに野ざらしになっている洞窟や古城から金品を発掘することは「冒険」と呼ばれ、世間から避難されることは、まずありませんでした。
あたしはそういう盗みを働く人間になることにしました。
最初はうまくいかないことが多々ありました。しかし、運が良かったのでしょう。何度も盗み、経験を重ねるうちにこつを身につけました。
ものを盗むこつ、罠をみやぶるこつ、うまく逃げるこつ。
いつのまにか、前述の盗んだという事実すら感じさせない盗みですら、やろうと思えば可能なほどの腕前になっていました。
ですが、その頃にはあたしも成長し、人並には一応道徳とやらを身につけてしまっていたため、そちらの道には進みませんでした。
ラクに生きるために始めた盗みでしたが、そんなにラクではありませんでした。命の危険を感じることもありました。もういやだなと思うこともありました。
でも、それでもあたしはやめませんでした。どんなにつらくても、あくせく働くよりはよいだろうと思ったのです。というより、ほかにできることもないように感じました。
そしてあたしは勇者さんに出会い、仲間に誘われました。
迷いました。今のままフリーの盗賊を続けていても、なんとか暮らしていくことはできます。
でも、あたしの人生の一番の目標はラクをすること。
もし、勇者さんが本当に魔王に勝ったとしたら、そのとき、あたしもその仲間に加わっていたとしたら、あたしは稀代の英雄の仲間になれるのです。
そうなれば、ちやほやされまくりです。
その後の人生はバラ色のものとなるでしょう。いいえ、バラ色どころか瑠璃色だろうがカーキだろうがセシリアンブルーだろうが、よりどりみどりに違いありません。最終的にはみどりです。
だから、あたしは賭けに出ました。
未来の自分に最高のラクをさせるために。
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