≪俺の事は放っといて!≫【SIDE♀】

 ホームルームが終わり、質問大会のロスタイムで俺は更なる科刑にすっかり疲れてしまった。よくもまあ10分の間で俺のMPをここまで削れるもんだ。何か怪しい魔術でも使っているんじゃあるまいか、御堂島あたりが。


 しかし、顔も名前も既に知っている連中に質問責めされるという経験はなかなか新鮮で、こちらは相手の事をそれなりに知っているのに向こうは一切知らないというのも随分奇妙な経験になった。帰ったらアマハルに話してやろう。


 コーンカーンキーンコーン………


 チャイムが鳴って、席に戻ってきたアマハルもどうも虚ろな目とギコチナイ微笑みを浮かべてこちらを見ている。嫌な予感しかしない。


 新聞部の連中が大人しいと思ったが、さては何か良からぬ事を考えているに違いないぞ。その証拠に、部長の千傑映吏せんけつえりのほうをチラリと見ると、日英ハーフ、金髪ポニーテールに碧眼の美少女せんけつが意味ありげにウィンクで返してきた。背筋がゾ~~~~っとする。


 さては新聞部の連中、俺に取材するつもりだなッ!!!???


 新聞部の連中は味方にすれば心強いバカどもだが、取材対象として目をつけられたが最後、メキシコまで逃げても追いかけてくるだろう。


 奴らの手にかかれば一高校生のプライバシーなど紙屑同然だ。来週には俺の住所から身長体重、スリーサイズまで全て調べ上げて壁新聞に張り出すつもりだ!!

 そうなれば俺とアマハルが同居している事が公になりクラスの連中はこぞって俺たちをイジリ倒すだろう。なんなら石野と北河などは露骨にセクハラをかけてくるし、クソ真面目キャラの英知なんかには何を言われるかわからないし、池袋は絶対「ヤバ!」を連呼するだろう。


 冗談じゃない!なぜ俺ばかりそんな目に会わねばならないのだ!!


 俺は予想される由々しき事態で頭がいっぱいになり、数学の小テストで赤点をとるハメにもなった。トホホ。



 〇●〇



 新聞部の対処だけでも頭が痛いのに、更に今までの身体と違う、女子としての高校生活が俺に緊張を強いるのだ。数学の授業終わり、10分休憩の時だった。


「ハルたすオッパイでっかいねぇ〜!何カップあんの?」


 人が今後の事を考えてボケっとしている最中に、池袋が突然背後から抱きつき胸を揉みしだいてきた!


「えっ!?ちょ、池袋……さん?」


 瞬間、クラスの雑談がピタリと止まり、旧友たちが俺たちの言葉に耳を傾けている。石野や北河などは露骨に俺に…、正確には俺の胸に視線を向けている。それは1班のミリオタ3人も同様だ。

 普段そういうキャラじゃないのに、イケメンキャラの菜桐までもが隙を伺ってはこちらを見ている。

 なんのかんの言って彼も健全な男子高校生だったのだろう。


「あ、ちょっと、池袋…さん、やめてください…」


 俺は「やめろ池袋!つけ爪が刺さって痛いんだよ!!」と以前の男言葉を使ってしまいそうになったが、なんとか堪えた。実際、池袋のネイルが一回横乳にブスリと刺さってビクッとなった。今日のネイルのコンセプトは恐竜らしい。どんなセンスだ。


「いいじゃん教えてよ〜!ウチらの仲じゃ〜ん!」


 この数時間の間に俺とお前の仲でどんな進展があったのか教えてくれ。

 それにしても、転校生の乳をなんの前置きもなく揉んでも許されるの、池袋くらいのもんじゃね〜のか?(あと別の意味で鈴木ヒヨノ)

 ギャルパワー、恐るべし。というか池袋アゲハ恐るべし。


「教えないとこうだかんね〜!」


「あっ…ン…ちょっと、ちょ、池袋…さん…」


 あろうことか池袋はブレザーの中に手を潜り込ませると、つけ爪で優しくかつ刺激的に俺の乳首のあたりを攻めてきた。いや、責めてきた。痛さとくすぐったっさの絶妙なバランスで弾いたり転がしたり。

 自分で触ってもちっとも気持ち良くなかった乳首が、電流でも流されたみたいにビリビリする。ていうか電気が本当に流れているんじゃねーか、コレ?

 そういえばコイツには超能力者疑惑があった。もし本当にそうなら指先から電流を流せてもおかしくはない。


 いや、おかしいよ!


「うりうりうり〜〜〜!!」


「ちょ、ダメ…、ダメだって…」


 自分の声が意思と反してエッチくなっていく。北河などはむしろ真顔になって俺の胸を見つめている。ちょっと前までミリタリー話に花を咲かせていた1班の男子3人も、会話を止めてこちらを見ている。それだけでなく、1班のフニコ、2班の秋田さんや榊さん、3班の御堂島など、お胸がシンデレラな女子までこちらを注視している。

 ちなみに石野がスマホを取りだし盗撮しようとした所で部長のピースメーカーが火を噴き石野のスマホを弾き飛ばした。ありがとう部長。せっかくだから池袋も撃ってくれ。


「教えておしえてETEエテえてっき〜!」

(どうやら猿のエテ公と教えてを掛けているらしい)


「ホント…、ンっ、ダメ……ヤメ……」


 冗談じゃなくなっきた。コイツ、もしやソッチの経験があるんじゃねえか!?超能力者で黒ギャルで百合とかどんだけキャラついてるんだよ!!設定の過重積載だぞ!?


「ちょっと池袋さん、神さんが困ってるでしょ!」


 そう言って俺と池袋に対面する形でババンと出てきたのは自称学級委員長の英知だ。眉までしっかりと出したオカッパショートヘアに、赤縁眼鏡の巨乳眼鏡っ娘だ。(推定D以上)

 ちなみに自称というのは、委員長になろうとしていたが鈴木ヒヨノの「わたしクラス委員長やってみたいで〜す!」の一言で委員長の座を譲らざるを得なくなったからだ。

 委員長になれるだけの素養がありながら委員長になれなかった悲しい女。それが英知桂だ。そんな英知が今は頼もしい。


「桂ちゃん何怒ってるの〜?ただのスキンシップじゃ〜〜〜ん?」


 池袋はからかうように笑みを浮かべている。英知と話す間も手指の動きは止まらな……、あッ…!そ、そこはヤバ………んッ!


「スキンシップで初対面の転校生の胸を揉んでいいわけないでしょうが!!」


「いいじゃん減るもんじゃないし〜〜〜たくさんあゆしぃ〜〜〜〜」


 お、おお。ヤマネコ組の数少ない常識人。頼んだ英知、俺もこれ以上

 もたなッ…………ク………ッ!!


「池袋さんのはスキンシップじゃなくてだだのセクハラよ!だいたいあなたはあの時もッ!!」


「あぁ〜〜〜〜!そう言えば桂ちゃんもガチのアヘ顔になっちゃってたもんね。あん時さぁ~~~~」


「ッ……………………!!もう知らないッ!!!」


 過去の恥ずかしいトラウマをほじくり返されて、英知は顔を真っ赤にして自分の席に戻ってしまった。机に突っ伏して嗚咽し始め、フニコと阿天に慰められている。役立たずのグラスハートめ。

 このままでは俺も1年の時の英知と同じくアヘ顔絶頂陥落の道をたどりかねない。

 このクラスであと池袋を止められそうなのは部長と鈴木ヒヨノだが、鈴木ヒヨノに助けを求めるのは論外だ。下手をすれば俺も池袋もまとめて流血だ。(そもそも寝ている)

 となれば部長に助けを……と思ったが、部長は新聞部の連中とこちらを見ながら何やら打ち合わせしている。大方、アタック新聞の記事の方向性を考えているのだろう。アマハルも生気のない表情で部長や唯野に相槌を打っている。クソッタレめ。


「………………んアッ!!」


 や、やばい、乳首を起点に痺れが背骨を伝わって、腰までガクガクしてきた。

 それだけじゃなくて、なんだか股の間と下腹部がジンジンしてくる。

 内股がどんどん汗ばんでいくのがわかる。

 このままじゃ、マジでイカされちまう!!


「絶対F以上あるでしょ〜?クラスで一番デカいんじゃね?ヤバ!さ、教えちゃいな中国やっチャイナ〜〜!!」


「ヤっ…………、ヤメッ………………!!」


「教えないならイっちゃいな中華人民共和国〜〜〜〜」








「ヤメロッつってんだよこの淫乱サイキック黒ギャルレズJKがッ!!!」








 再び、クラスの時が止まった。

 池袋の手も止まった。

 しまった、ついつい素ので怒鳴ってしまった。


「あ、アハハハハ。マジごめ!!ちょっとアゲハ、ふざけ過ぎちゃったよね?笑って許して、ね?てかアゲハ超能力者じゃねーし!!普通の黒ギャルJKやし!!」


 そう言い残して、アゲハは自分の席に戻っていった。

 俺は池袋に開放された胸あたりの着衣の乱れを直し、大きく息を吸って吐いた。

 クラスの連中は、ドヨドヨと級友の顔を見ながら何やら俺について思い思いの話をしているようだった。


 コーンカーンキーンコーン………


 3時限目、世界史の岸部先生(なんと御年98歳の非常勤講師。戦時中にあのインパール作戦に参加したらしいとミリオタ3人組が話していた)がやってくると、教室はピタリと静かになった。


 なんとなくだが、下着が少し蒸している気がした。

 クソッタレめ、色々と最悪だぜ!!

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