≪俺の事は放っといて!≫【SIDE♂】
ホームルームが終わり、質問大会のロスタイムが続いている。
俺は巻き込まれてはたまらないと、短い休み時間の間、教室の外に避難する事にした。今頃ハルは好奇の目に晒されてアタフタしている事だろう。
しかし、もう顔も名前も知っている奴らに質問責めにされるのはどんな気分なんだろうか?家に帰ったら聞いてみよう。
●〇●
小休憩中の廊下では、教室の中のライブ的な騒がしさと違い、健全な学び舎らしい節度を保った騒がしさだ。教室移動のためにぞろぞろと歩く下級生達が目立つ。次の時間は音楽だろうか?(余談だが三橋がサボって寝るためか、教室から出ていき屋上へ続く階段へ向かっていくのが見えた)
「しかし、まさかお前に従妹がいたなんてな。しかも転校してくるなんて、一言教えてくれても良かったんじゃないか?」
頭の黒革の指ぬきグローブを着けた手を頭の後ろで組みながら隣の男が言った。こいつは
新聞部だが、まともな記事が書けるだけの文章力がなく、新聞部部長から仕方なく『今日の良かった事欄』を任されている。内容は「コンビニで買ったバナナがおいしかった」などと中身もクソもない小並み記事を毎号量産している。
ついに部長から「トイレットペーパーのほうがまだ賢い」との言葉を頂戴していた。
「まるで双子みたいに似ているな。何か裏がありそうだ」
金縁眼鏡の縁に指をあて、レンズをキランと光らせているオールバックの男が
新聞部部長の忠実な犬で、部長の命令なら「尻の穴でスパゲッティを食べる」とも言われている。新聞部ではよせばいいのに社会欄を担当し、独断と偏見で勝手気ままな記事を書いてはしょっちゅうクレームを貰いお詫び文をのせている。過去一回、アサクラのせいで新聞の8割がお詫び文という異常事態に見舞われた。
「興味がないわけじゃない…」
目を瞑ったままで、開かれた窓から流れ込む風に赤いスカーフをなびかせている黒髪ロングの少女が
小さな背に小さな胸で、とてもじゃないがお色気の術は使えそうもないが、足音を立てずに走るという、地味に凄すぎる特技を持つ。
その他、変装も得意で必要とあればどんなキャラでも演じられるので、取材成功率は今のところ10割だ。(もっとも胸だけは大盛できないようだ)
「部長。ご意見を」
「うむ」
アサクラがクイと眼鏡を上げて、隣の少女に促す。
この、アサクラの隣で腕を組んでいる少女が口を開いた。
「ある日唐突に転入してきた謎の美少女、いったい彼女は何者なのか…。そして疑われる神天晴との関係性。これぞまさに新聞部が取材せねばならない事件ではないかね?むしろ新聞部の一員を自任するならアマハル君と彼女にはなんとしてでも我々の取材を受けてもらわなくてはならないだろう!そうではないか、諸君?」
そして、声量が普通に比べて3割増し大きい少女が
校則と常識を無視しているのか、腰にガンベルトを下げコルト・ピースメーカーというリボルバー拳銃の遊戯銃を差している。容姿は金髪のポニーテール、碧眼、そして大和民族の肌をもつ日英のハーフという平均から外れたルックス。夢は「お嫁さんになって幸せに暮らす事」という、豪傑奇人美少女が彼女だ。
他にも部員がいるが、同学年でしかも同クラスのこの5人と俺は基本的につるんでいる。
ちなみに俺の担当は写真だ。実際、部長の写真への評価はかなり正確で将来プロを目指す身としてはなかなか刺激的な環境だ。素直に言うと、新聞部の活動は楽しい。
そういえば、女になったハルの将来の夢も変わらずカメラマンなんだろうか…?むう、カメラは1台しかないぞ。必死にバイトして買ったキヤノンは俺の物だ。たまには貸してやるが。
「アマハル、次のアタック新聞の1面はお前で決まりだな」
タダノが笑っている。
「冗談じゃない! プライバシーの侵害だ!!」
ちなみにアタック新聞とは新聞部が校内に張り出しているA2サイズ1枚の壁新聞だ。
「アマハル、部長命令だ。拒否権があると思うな」
アサクラは真顔だ。
「インタビューは放課後に準備しておくから」
クジョウも勝手に準備を進めようとするな!!
「アマハル君。我々は過去に真実の報道の為、様々な人間の心の垣根を壊してきた。自分だけが真実を照らす銀のレンズから身を隠そうなどと、少々恥知らずとは言えまいかね?」
「真実って言うか、ただの野次馬根性だろうが!!」
部長の好奇心の為に私生活を詮索されてはたまらない。最悪、ハルとの同棲がバレたらクラスの連中にどんな目で見られるか…。
俺は『不純性行為発覚か?天晴氏転校生と屋根の下 グラマーな従妹との蜜月 疑惑の二人を直撃』などと見出しと写真をつけられて昇降口の目立つ柱に張り出されたアタック新聞を想像して震えあがった。
「アマハル、口の利き方に気をつけろ。部長だぞ」
「アサクラはいいよな! インタビューされる事もないんだから!クジョウ、助けてくれ!!」
「カメラは私がやる…」
クジョウに慈悲を求めたのがバカだった。冷徹クノイチなりきり貧乳女め。
「まあ、落ち着きたまえ諸君。取材対象には敬意を払わねば。アマハル君とハルカ君には、放課後部室にお越しいただき茶菓子でもつまんでもらいながらインタビューするとしよう」
「いや、だから部長。インタビューに答えるなんて一言も…」
コーンカーンキーンコーン………
「さ、チャイムが鳴った。戻るぞ諸君」
授業開始のチャイムが鳴った。席に戻らねばならない。
新聞部の連中を説得するタイミングを逃した俺は、ゲンナリとした気持ちで席へと戻るしかできなかった。
席に着く前に質問責めされた後のハルと目が合った、ハルもゲンナリしていた。そんなレイプ目をするのはまだ早いぞ、
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