第09話 クラシックなキーボードー01

「あ、あの……」


「先輩、何回言ったらいいんですかそこはちゃんと楽譜通りに弾いてください」


「え、あ、アレンジだよアレンジ!」


「毎回毎回、微妙にずれそうになるアレンジがどこにあるですか」


練習中、中々3人のタイミングが合わず。

特に葛城さんが言っている通り、先輩の弾くリフが少しおかしいのである。


「ほ、ほらだって歌手の人だって荒々しい歌い方の人もいるし、うん」


先輩は無茶苦茶な言い訳で必死に言い逃れしようとしている。


「それは全然違います、いくらアレンジでもズレてしまってはカッコ悪くて決まるもの決まりません!」


「ブー、そうだけど……」


先輩は葛城さんにごもっともな指摘をされ、珍しく拗ねて顔をぷっくらとさせる。

俺は拗ねた先輩を心の奥で心配した。

そんな調子で練習を続けているので、当然俺たちの音は噛み合うはずもない。

それどころかどんとずれていくような感覚陥ってしまう。


「あれ?何で……」


「はうう……」


演奏を途中までやりとめ、酷い時は1分もできずに終わる。メトロノームも使ったが治る気配はない。


「何でよ!」


「はうん……」


二人はさじを投げる寸前である。

俺もその合わないぷりのせいかやる気は皆無に等しい。


「おい、お前らもう練習やめろ!そして部活を今日はミーティングしてお仕舞いにしよう」


全然合わなく、音がグダグタしている様を先生は見かねたのか練習をやめろと俺たち大きく問いかけた。


「ええ、あと1時間あるじゃない」


「そうですよ先生!まだ納得ができてません」


葛城さんと先輩は自分たちの演奏に納得できてないのか、先生に中止させられようとすると猛反発する。


「その状態で続けても無駄に体力使うだけだ、だから一旦休憩を」


「嫌です、あと、あと、1だけやりたいです」


葛城さんは先生の説教に被せ、スティックを強く握りながら先生に一度だけと願いをこめた台詞を言う。


「……私も柚菜と同じ意見です、お願いします」


先生は汗まみれになった手でピックを握り、頭を深く下げた。


「……う」


その二人の姿に先生は、参ったと頭を悩ませている。そして一瞬の沈黙があり先生は俺をちらっと見た。


「……」 


「先生?」


「なあ、茂明お前はどう思うんだ?」


「お、俺!」


先生は俺に意見を求めてきた。


「……」


「茂明?」


「……今日はやめましょう二人とも」


俺も先生と同じように、このまま練習をしても無意味だと悟り練習の中止を口にした。


「……そうね」


「……もっと冷静にならなきゃ」


その言葉を聞くと、二人は互いに見合って冷静になったのかすぐに片付けに入った。

俺も二人と片付けをした。


「……」


「……」


「え……え……」


二人はさっきの少しの喧嘩のようなやり取りをしたせいだろうか。なんだか二人の距離を取っているような気がした。

二人とられた距離の間で、俺は一人なんとかしなくてはと焦った。しかし、臆病な俺は何も言えないまま二人のきごちない様子を見ている事しかできなかった。そのきごちないままものが片付けられあっという間にミーティングに入る。


「よし、じゃあミーティングはじめるぞ」


「は……い」


「はい……」


「今日の議題だが、今後の練習についてだなんか意見あるか?」


二人の始めの返事が少しきごちなく聞こえ、ミーティングが始まって約3分が経過する。


「……おいおい」


ミーティングを初めて3分、二人はまだ無言なままである。二人があまりにしゃべり出さないので先生と俺は頭を捻る。


「う……」


顔色を悪くする二人をそっと見て何か言わなければと、俺は頭と口を悩ませ体の全身を静止させてしまう。


「……はあしゃない、いつも積極的な二人はこの調子だから茂明お前が何か案だせ」


「え!俺すか!」


「仕方ないだろ、二人はこの調子なんだし」


「……はい」


いつもの会議は二人がワイワイと意見を言った後、俺が自分的な考えで指摘し後付けする感じの流れなのだがこの際は仕方ない。

そう思い、俺は先生に言われた通り案を出すことに頭を使った。

大体、今回で7回目くらいの練習。

一応簡単な曲に絞って練習をしているが一向にぴったりとは合う気がしない。

それにもうすぐ中間テストだ。

もうすぐといっても2週間と少しあるが……

これまでの練習の合わせしている限り、所々個人個人中途半端な所があり、みんな自分なりのリズムでやっていて、それで上手く噛み合わないなのだ。なので現実的に少し早いが勉強もかねて中間テストが終わるまで自主練をするべきかとも思った。

それかいっそのこと、いい人が入ってくると信じてメンバーを増やすことに賭けるか……

いや、これはツテがなければ本当に博打に等しいだろう。とういうかウチの部活などポスターを張っていても誰もこないのにもう博打をする以前の問題であった。

やっぱりこれこの決断しかないか……

俺はそう思い結論を出した。


「とりあえず少し早いですが、中間テストが終わるまで自主練という案でどうすか?」


「茂明理由は?」


「まだ俺たちは個人個人の音が完璧ではないし、バントというのは音の役割一つ一つが完璧になって重なりあっていい音が作れるだと俺は思いますだから……こういう結論を出しました」


「そ、そうね」


「後輩の言う通りだよ……そうしよ」


俺も完璧ではないが、俺の現実で未熟であると感じる一言に二人はゆっくりと頷いてその結論を受け入れた。


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