第08話 クラシック畑出身のキーボード -07

「気まずいな……」


今日、1限目の体育中、奥谷茂明がカッコつけたかったのか勢よく頭からハードルに突進。

こいつは意識を失う。

そして、たまたま私が保険委員だった。

まあ男子が怪我をしたのだからもう一人の男子の子がやってくれるだろうと勝手に安心していた。


が、しかし


そいつはたまたま休みだったのだ。



「そうか、加藤は休みか……悪いが荻野目女子だが奥谷の事頼めるか?」


「は、はい……」


なので仕方なく、茂明を保険室まで連れて行った。

幸い、こいつは私より軽かったので難なく運び出すことができた。


「あの荻野目さん手伝おか?」


「大丈夫です」


親切なボーイッシュの女子が手伝おうとしてくれたが、それを無表情で断れるくらい容易く運べた。

そして、何もアクシデントもなく先生がたまたまいない保険室でこいつをベッドに寝かせた。


「キュうう……」



茂明は表情を強ばらせながら、痛そうに目を閉じている。


「はあ……」


私は自分の今の運のなさに、自然と大きなため息をつく。最近ついていないといえば、私のチャンネルの動画の再生回数が下がりぎみになってる……

最近、一気に他の人気な登録者が増えてきて埋もれぎみだからだろうか。

まあ私も、登録者25000人と人の事をライバル視できるほどの知名度はないのだが。


「う……」(嘘でしょ……)


さらに不幸は重なり、自分のため息でメガネが雲ってしまった。

私はそれに不幸への怒りと動揺で、自分を目立たなくするための伊達メガネを荒くそして変に急いで外そうとした。


「あ、もうなんなのよ……もう」


気持ちの空回りは現実の自分すら空回りさせてしまい、メガネをとって曇ったのを拭き取るのに思った以上に時間がかかってしまった。


「ああ、最悪……」


私はメガネ外しポケットから出したハンカチで、感情任せに曇った部分を擦って拭く。


「ああ……もう……何で」


さらに運が悪く、なかなか曇った部分が拭きとれない。


「ああ、もう何で拭けないのよ!」


曇ったメガネと悪戦苦闘しながら、私は少し声を荒げる。


「うう」


「げ……」(ちょっと声大きかったかしら)


私の声のせいか、ベットで寝ている茂明が寝こずっている呻き声をあげる。

その呻き声を聞いて私はメガネもせずに口を塞ぎ、慌ててカーテンを閉めた。

私はゾッとして、その場にしょい込むようにお山座をする。



「すぴーすぴー……」


「はああ……」


私は茂明が眠り落ち着き一安心すると、少しずつ立ち上がって保険室を立ち去ろうとした。


「すぴー……すぴー……」


「……」


でも、私はなぜかこいつの事が心配になった。心配……いや違う。私はこいつにただ礼が言いたいのだ。私に頑張ることの大切さを気付かせてくれた事の礼をただひと事。

礼を言うには、私はこの空間が絶好の機会だと思った。なので、私は意を決して茂明をカーテン越しに揺さぶって起こす事にした。


「……うん」


私は目を茂明の体からなるべく視線を反らし、少しずつ茂明の体を揺らしていく。


「うう……」(も、もう早く起きないよ……)


茂明が眠りを覚まさない度に私は顔を火照っていく。


「すぴーすぴー」


それにしても長々起きない。どれだけの強さでハードルにぶつかったのだろうかこいつは。

私は起きない茂明に火照りながら呆れて体を揺らし続ける。


「すぴーすぴー」


「ああ、もう!て、あ」


私は長々起きる事ない茂明に、声を荒げ一瞬だけベットから跳ね落ちそうなくらい揺さぶってしまった。


「ま、まずい!」


私は思いきりベットの端にいきそうな茂明の体をカーテン外して両手で抱き止める。


「良かった……」


幸いにも、なんとかタイミングが間に合ったおかげでなんとか茂明のベットからの転落は阻止できた。

そして……


「は……」


私がほっとしたのもつかの間茂明がその衝撃で目を覚ましてしまった。私はそれに気付くと慌ててカーテンを閉めた。そして、また恥ずかしくなりいつの間にか、床にお山座りをしていた。


「うう……」


茂明は私の悪い寝起きのせいかすごく不機嫌そうな声を上げていた。


「……」(どうしよう……どうしよう……)


自業自得なアクシデントで起こしてしまい、身勝手な驚きおののく私。


「……」


考えていても仕方ない。私は礼を言うと決めたではないか。私は頭よりさっきに体にいいかせ、カーテンを少しずつ開け茂明に問いかけることにした。そして、顔立ちを最高に安定させて茂明と顔を合わせようとした。


「あの……」


私は恐る恐る茂明に声をかける。


「わ!」


すると茂明は予想以上に大きな声を上げてきた。


(え……え!)


私は安定した表情のまま、頭の中で驚きまくる茂明にすごく戸惑った。

しかし怯んではダメだと、顔立ちを整えたまま茂明に接した。


「あらあらごめんなさい、ビックリさせちゃいましたか?」(あ、あれ?)


私は最近あった父が開いたパーティーに主席したせいか、少し上品な口調で問いかけてしまった。


「は、はい……」


茂明はそんな上品な口調の人間に戸惑っているのか、少し不思議そうな仕草をしている。


「どうしたんですか?まだ調子が悪いのですか?」


私は咄嗟に出た自分に、慌てたがこのまま普通に戻すのも不自然なので私はそのままの上品な口調で茂明に話し続ける。


「ほお…… はい、まあなんとか」


「あはは、良かった、なんともなくて」


とりあえず、私は演技した口調のままだが茂明の無事に一安心する。


「うん、なんとか、でも頭と体が痛いけど……」


「大丈夫ですか?」


「あ、うん、何が起きたか思い出せなくて……」


どうやら、茂明はあの衝撃のせいか記憶が欠落してしまったらしい。


「あなた物凄い勢いでハードルで転んで次のハードルに突っ込んだですよ」


「そ、そうなんですか?」


私が真実をそのまま話すと、茂明は血相を変えた様に驚く。私も記憶無くしたぐらいの衝撃を受けたのかと少し血相を変えそうになる。


「うう……」


「無理しないでください…… 奥谷さん」


私は頭からバランスを崩した茂明に、咄嗟に優しく払った布団をかけ直してあげた。



「……あ」


「……うふ」(……平常心平常心)


毛布かけてあげると、茂明は不意に私を瞳を硬直して見めてくる。

私は見つめてくる茂明を、恥ずかし耐えて安定の微笑ましい爽やかポーカーフェイスを決め込む。


「あ、あの…… 何で君が俺の名前を」


「あ、」


ポーカーフェイスを決め込もうとした瞬間、私はその質問で一瞬止まった。


「それは…… 先生が茂明さんの名前を叫んでましったから」


私は必死に茂明を納得させようと捻り出した事をぶつけ、もう茂明の前にいる気はずかしさが先だってお礼を言うことも忘れてこの部屋を後にした。


「あ、あの君の名前は?」


「お、荻野目、美穂です……」


名前だけを捨てセリフに。

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