第08話 クラシック畑出身のキーボード -05

「お嬢様!」


音楽をしていてどうしたい……


「お嬢様も自分の歌を一人にでも届けたいそして認めてもらいそう思ってるのでしょ」


詠美に確信の言葉を言われて、自分に改めて自問自答をしてみた。

音楽を始めたきっかけは小さい頃から世界を飛び回っている一流のピアニストである父の荻野目雄二のピアノに憧れたからだ。

大勢の舞台で中でこれでもかと綺麗な伴奏をして拍手喝采を受ける父の姿に4才の私はとても感銘を受けた。

それからありとあらゆるクラックを聞いてピアノの稽古を真面目に受けるようになった。

しかし、不器用で中途半端な私は弟のようには結果を出せずにただただ音楽が好きという思いだけが残った。


その思いだけが……


私の胸に当てて考え思う。この好きでどうよもなくて曲がりなりに続けてきてその最果てに何を見るのか、私は音楽で何がしたいんだろう。コンクールの結果もボロボロで家族からの風当たりもあまり良くなく誰も私の音楽を評価しようとする人は居なかった。その好きという気持ちと周りの評価というギャップに尋常じゃないくらいの劣等感を抱え音楽をやめてしまった。でも再び音楽を再開して思った。詠美の言うように一人でも多くの人に自分の音を認めてほしい。そして、父があの夜奏でた夜を祝福し彩るようなピアノの演奏をしたい。

いや、そんな大層な事は出来なくてもいいただ私は……



「私は……音楽を楽しみたい!それでその気持ちを一人でも多くの人と共有したい!」


「お嬢様……」


私は弟や父のように立派で綺麗で迫力のあるピアノは弾けない。それならば私なりの解釈で音楽を楽しんでそれの気持ちを一人でも多くの人に分かって貰おう、下手くそでも途切れ途切れで荒削りでもいい。今発揮できる力なりの演奏でもいいじゃないか。


「詠美カメラを回してちょうだい」


私は瞬間的に目頭が熱くなって詠美にその燃えたぎる炎のような目を向けて、主人らしく指示を出した。


「はいお嬢様!て、昨日やり方教えたじゃなきてすか!」


「いいから早く用意しないよ主人の命令よ」


こういう時くらいは主人らしい事を言ってもいいだろうとわたしは肩組みして威張ってみる。そんなわがままな私の命令に詠美はやれやれと両手を振りつつも心優しくカメラをセットしてくれた。


「よし、じゃあ準備は宜しいですか?」


やれやらとした顔をしたと思いきや、詠美は私の動画を撮る事に情熱が燃えたのか気合いのこもった声を私に向けてくれた。


「いいわよ詠美!」


私のその声に振り返り答え、ニッと笑って

私の小さい頃からお世話になっているピアノをいつも以上に調子がいいように弾いた。

そして、ここから私の動画投稿生活が始まったのだ……


今まで最高の演奏終了後


「あ、そうそうチャンネルのページなんですけどこんなのでどうですか?」


「てちょっと!」


撮影がとりおわり見せられた私のチャンネルのアイコンには私が何回も詠美にさせれたコスプレのえりすぐりの一枚である金髪吸血鬼の写真が使われていた。しかも私の顔が丸出しである。メイクで誰か分からないくらい綺麗な姿になっていたがやはり当の本人の私は恥ずかしい。他にもページに行くと、周りの背景には沢山の私のコスプレ写真が張ってあった。


「今すぐ作り直しなさいよ!」


張られている写真はアニメシーンのポーズきめさせられ、見ているだけでその写真をシュレッターにかけたくなるくらい恥ずかしい。


「え?可愛いじゃないですか、ほらほらこのベッドで女の子座りしている妹ちゃんのこのアングルの写真なんてもう……グフフ」


「あ~、やめええ!」


そのコスをこれでもかっとアップにされて、詠美の気持ちの悪い笑いと共にその時の羞恥心が思い出され私は両手で顔を隠し頭の上から湯気を出す。


「お嬢様アイコンの写真この中から選んで下さいよ!」


「は、はあ?」


そんな私に詠美は恥ずかしさに拍車をかけるような質問を満面の笑みでしてきた。

その拍車をかけた質問に私は違う意味で顔を赤くして、詠美に下に響くような大きな声で怒鳴り散らした。


「選ぶ訳ないでしょ!もっとまともなのにしないさいよ!てか、さっきも言ったけど作り直して!」


「じゃあpcも渡すのでお嬢様が全部やって下さい」


詠美は私に全てを投げると宣言して、とても卑怯な物を天秤にかけてきた。


「ぐぬぬ……」


私が気張って詠美を睨むが詠美の顔は満面の笑みのままである。その可愛らしい笑みの裏でどれだけ嫌らしい思いが溢れているのか。


「はあ、わかったわ詠美……」


「さすがお嬢様話が早いです!」


裏表が丸出しの詠美の笑顔を見て私は半分諦めそれに許可を承諾しようとした。


半分は!


「ただし、私の顔は隠しなさい!」


「え?」


私はとりあえずこれだけでもと全力で顔を伏せるようにと意地を張った。


「そ、そんななんで~」


その言葉に詠美はガクーンと顎を落としがっかりした顔で私を大きく慌てて身振り手振りをしながら見てくる。詠美がどれだけ慌てふためこうと私は何も変えるつもりなどない。


「ふんす!」


その意志が分かるよう私は鼻息を物凄く荒くして詠美へと思い切り頑固な意志があることを体現しみせた。


「なんでですかお嬢様!?」


「そんなの、もし私がこんな事してるて学校のみんな知られたらどうするのよ!」


私はふんすふんすと湯気が立ち登らせ、詠美に怒る。


「はあ……」


私の思いの丈に詠美は呆れたようにため息をつく。


「周りの人たちにばれないようにこそこそと変な芋みたいな格好でいるのによく言いますね……」


詠美はちゃかし半分呆れ半分な声色で私へと声を上げる。私はその言葉に反応して大きく怒鳴りそっぽを向いてやる。


「う、うるさいはね!もう!ぷい」


「やれやれ、まあいいですよお嬢様」


「え、本当?」


詠美は私の事を考えてくれてやめたと、安心し今すぐにでも私のポケットマネーで臨時収入を上げてやろう。


「よく考えると天下の荻野目雄二の娘がこんなオタクみたいな格好で動画投稿してピアノ弾いてるなんてネットの一部の人に騒がれて拡散でもされたらただじゃくまなくなりますからね……特にお嬢様が」


「……そうね」


詠美の新の理由に私はゾッとしつつも納得し、私は閉めてなかったピアノの蓋をそっと閉めた。

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