第08話 クラシック畑出身のキーボード -03

私は見つけた自分だけのオンリーワンなスタイルを。


私はあの日、頑張るあいつを見続けた気持ちが蓄積させ何かが吐き出されたあの日以来。

あの日の休日以来、昼下がりの照りしきる太陽が人々を照らし水分を汗となって奪うくらい暑かった日以来。

その日もあいつは汗をかきまくりクタクタになって頑張っている。明確な目標やゴールも決定せずただ自分なりの速さでただがむしゃらに楽しく。

その日の私はというと久しぶりにピアノの前に立ち以前よも軽い気持ちで椅子に座っていた。そんな軽い気持ちに笑みを自然に浮かべ一つの和音を奏で自分の腕のチューニングをする。そして、明るいフレイズから和音奏でて私はダイナミックにショパンのエチュードを弾いた。その時私はとても愉快な気持ちになり、その心のままにその曲を弾いた。

弾き切ると私は楽しくなりどんどんと違う曲も弾いた。

私の大好きなモーツァルトの田園、調子に乗って玉置浩二さんの田園と曲調を混ぜてみたり、他にも昔はあまり弾いていなかったj-popの曲も弾いてみたり……

ともかくその日は自分のやりたいように好きなだけ思う存分遊んでやった。私はその日、自分を解放するようにピアノに強く叩いて弾いた。


その時の感覚が今も忘れる事はない。


解放されたピアノの弾く感覚。リズムやタイミングがピシとはまってピアノが私の音を奏でいく感覚。そしてそれを楽しいと思う感情。

それがリンクして以来、ピアノでひとり弾き語る日々を送りしばらく経った頃、2年に入ると部活をやめずっとひとり遊びのピアノに入り浸った。


両親や弟はその事に大してはあまり反対しなかった。彼らは一流の音楽家だからだろう。でも私に向けられる視線は励ましなどではなくどこか哀れんでいる顔を浮かべられた。きっと音楽から離れたのにその恋しさを思い出して戻ってきて下手なのに音楽をやるバカとでも心の底から罵り笑いものにしているだろう。友達も親しい人もいなくなってしまった私に唯一坂本と詠美だけは笑顔で笑って私がまたピアノを弾いている事を喜んでくれた。


「お嬢様!!私は感激で胸がいっぱいですぞ……」


帰りの車で時たま坂本が子供の時の傷をえぐりながら私の今のピアノ話をするたび涙を浮かべ、私は微笑んでハンカチを手渡して宥めているほどに。


「でね、坂本てばまた私のピアノの話をして泣いてきたのよ……自分の話したネタで泣かないで欲しいわ」




それで時たまに詠美とメイドの休憩中に、二人話し込んでは坂本の涙脆さの愚痴を溢す。


「フフ、全くですお嬢様」


そうすると決まって詠美は美しく整った顔を少し悲しみのある微笑みを浮かべて決まってこう言ってくる。


「だって、お嬢様のピアノの音色聞くたび昔の元気で無邪気で音楽が本当に好きだった姿を思い出すのですもの……」


詠美はその微笑みと言葉で私にとても暖かい懐かしい気持ちをくれる。


「もう!」


「キャッ、お嬢様……」


その2つで私は決まってはにかみ笑い詠美の膨らみのある胸に照れ隠しで思い切り抱きく。


「もう、お嬢様てばそんなのだから坂本さんに子供の頃の傷を抉られるのですよ」


私が小さい子供みたいに恥ずかしがった反応をするのを良いことに詠美は私をからかいトゲのある発言をしてくる。

そんな事を言うメイドは……


「詠美~?そんな事を言うメイドは厳しい仕付けよ、このこの!」


私はそのドケな発言が私の少し堪忍袋と主人としての立場に火がついて怪しそうに大人で大きな膨らみのある胸を見つめてその胸をもみくちゃにした。


「キャッ、お、お嬢様それはやめてえ!!」


その罰に詠美は反抗するも、私の昔から磨き上げられたもみ使いになすすべなく私の満足が行くまで罰を与えまくってやった。


「もうお嬢様てば酷いです……」


「フン、主人にトゲを刺そうとするからよ」


私は鼻に着いた声で赤く火照る詠美の顔を見て捨て台詞を言う。これもこういう風に詠美がからかってくればお約束の展開なのだ。

が今回だけは違った。

私がそのまま火照っている詠美を置いて、いつものようにピアノを弾きに行こうとしたその時詠美が私をちょっぴり怒りながらある言葉を言った。


「もう折角お嬢様にいいアイデアを言おうと思ったのにな……」


「え?」


私はその言葉がつい気になり慌てて詠美の側に舞い戻った。


「え、詠美……」


「お嬢様、私に言うことはないのですか?」


詠美は頬を膨らませながら私を細い目でかわいらくしく睨んで言葉を人質にとり謝罪させようとしてくる。


「ごめんなさい感情的というか恥ずかしさに身をまかせすぎました……」


自らの過ちを悔やみ惜しいみない声で謝ると、詠美は悔しいそうな顔を見て嫌らしく口角を上げて私の顔をなぞりながら驚くような辱しめの条件をつけてきた。


「仕方ないですね、じゃあお嬢様大人気ラノベの金髪吸血鬼少女と黒髪クール儚げツンドラ乙女のコスプレ写真で手を打ちましょう」


「はあ?ちょっと詠美!!」


「へへ、飲んでくれないとアイデアも謝罪も渡さないし許しません」


詠美は昔からそうこうなのだ何かの情報や私の事で内密にして欲しい事があればこのような自分の趣味丸出しな恥ずかしめな交換条件を出してくるのだ。


小1でおねしょをしたときも……


「うう……詠美誰にも言わないで……」


「仕方ないありませんね、じゃこのウサギのお洋服を着てくだざい……フフ」


小4で勉強を教えて欲しいと言った時も……


「仕方ないですね……じゃあフリフリで可愛い黒いドレスの吸血鬼の衣装で手を打ちましょう!」


とな具合で何かにトって付けてこんな変な交換条件を出してきやがる。これ以外にもたくさんあり私は詠美に一体何回変なコスプレをさせられた事か。そのような恥ずかしめの走馬灯が私の頭の中に回って拒絶反応で萎えた気持ちになってきた。

しかも今回は調子に乗ってふたりのコスプレときた。


「い、嫌よ、別にメイドの詠美に主人が謝る権利なんて本当はないんだし、しかもわざわざそんな大きなリスクを背負って詠美のアイデアを聞くメリットなんて私にはないわ!」


でも今回の場合は詠美にメリットが大きな過ぎなので、私はきっぱりと断ろうと声を大きくして威圧をかけながら言った。でも、詠美はそれも計算していたのか表現一つ変えずに思わぬカードを切ってきた。


「フフ、じゃ~ん」


「そ、それは!!」


その写真は去年、私が花瓶を割ってしまった時の口封じの時のために取らされたゴーグル天才魔導少女の写真と、忘れ物をとに行かせた時に何気なく取らされた金髪の銀河の歌姫の写真じゃないか!

さらに追い討ちのように、詠美はその二つの写真を怪しくちらつかせながら恐ろしい事を言ってきた。


「この写真を学校にバラまいちゃおうかな……」


「はああ!!」


私は詠美の恐ろしい発言に眼球を思い切り飛び出させ驚愕の声を上げて、詠美の服を引っ張る。


「ちょっと詠美!」


「さあどうしますかお嬢様?」


詠美は声を上げ襲いかかる私など全く敵視も脅威にもせず、平然と笑ってただ私の目の前で2つの羞恥な写真を片手でヒラヒラと揺らしてくる。

私は詠美の服に掴みかかる力を緩めながら、改めてこの状況を有無を天秤にかけてみた。



詠美のコスプレ写真ショーに付き合わければ恥ずかしい写真が学校にばら蒔かれ私は全生徒にアニメオタクでさらにコスプレ趣味があると誤解させるに違いない。でも私は普段、目立たないように暗いオーラを身にまとって似合わない伊達眼鏡をかけているのでその写真を見ても誰か分からず珍事で終わるというシナリオも創造できなくなかった。がそうだったとしても私的羞恥が皆に私の恥ずかしい写真を見られたくないと言っている。

一方で、詠美のコスプレ大会にちゃんと付き合うとしよう。そうすれば写真をばら蒔かれる間接的羞恥プレイの恐怖もなくなるし、寧ろ付き合えば何か知らないが詠美からのいい提案が聞ける。改めてこの二つを測ると、圧倒的に詠美のコスプレに付き合った方が利点が大きかった。



「分かったわよ……詠美」


私は詠美から腕を離して、諦めたように顔を膨らませ憤怒させ詠美のコスプレのお縄についた。


「フフ、素直でよろしいですお嬢様!」


そんな私を見てながら、詠美は満面の笑みをしてその場で写真を破り捨て自分のポケットにしまった。私は破り捨てられた写真を見て一安心し、詠美のアイデアとやらを憤怒を抑えつつ聞く事にした。


「で詠美、教えてもらおうじゃないそのアイデアとやらを」


「ふ、そうです今回はこれが本命なんです、よくぞ聞いてくれましたよお嬢様」


詠美はその質問を待ってましとばかりに目をキラッと光らせこれを見ろいわんばかりに立派に黒く逆光するデジカメを見せてきた。


「これでお嬢様のピアノを撮影するのです!そしてインターネットの動画サイトへ投稿するのです!」


「え、え?」 


詠美はニコニコとしながら私にその二つを渡してきた。


「ではさっそく機材の説明を……」


「こら、詠美何サボっとる!」


喜んで詠美が説明しようとした矢先、仕事が終わった坂本が帰ってきて拳骨でも入れそうな形相をして詠美にお怒りの声を上げた。


「さ、坂本さん!」


「まだまだ仕事が残っとるだろ、行くぞ!」


「わ!」


詠美は坂本に腕を引っ張らせどこかへ去ってしまう。


「お嬢様また後で説明しますね!」


連れていかれる去り際に詠美は大きく声私に呼びかけて坂本と共に姿を消していき、私はデジカメを持ったままただずんでいた。


「……詠美」


その黒に大きく光る機材をおぼろげに見つめ私はどうしようか迷ってしまった。

そんな時


「フン」


階段の上から見ていた弟が鼻であざ笑い、自分の部屋の方へ去っていくのが見えた。

私はそう鼻で嘲られ、酷く心に迷った。

投稿したら、また弟のような反応をしてくるやからがいるのではないか……

それでまた私は音楽が嫌いになるのではないか……

私はゆっくりと部屋に戻ってピアノも弾かずたデジカメを悲しそうに目を細く見つめる。



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