第08話 クラシック畑出身のキーボード -02

下校中の車(リムジン)の中にて


「お嬢様、本当に大丈夫なのですか……」


運転しながら私を恐る恐る気にかける執事のじいの坂本。


「心配ないです、気にしないで運転しなさいそれよりも坂本!」


私はなりよりも腹を立てている。その怒りで大きくなっていく声を抑え切れず私はその声を坂本へと思い切り吐き出した。


「何で、何で、リムジンで私を迎えに来てるのよ!!」


私は金持ちであるという見栄を張るような行為は大嫌いである。だから登校や下校の時も注意しているのにそれなのに坂本は……


「すいません、学校の方から倒れたとという連絡が入ったのでついお母様の付き添いの装備のまま飛び出してきてしまったものではい……」


苦しいまぎれの坂本の言い訳に私を心配した結果なのだとと、自分の腹の虫を一瞬抑える。でも、理由はそれだけでない。


「しかも、何でよりによって学校の駐車場の一番目立ちそうな所に止めたのよ坂本!」


それを見た乗車前の瞬間は本当に驚いて目を疑った。今にも坂本の長く垂れている白い髭を引きちぎりそうだった。


「し、仕方がないじゃないですか構造上職員玄関に近い所が生徒が絶対通る通路に近いんですから……」


「ああ、もう!」


坂本の何の間違いのない正しい論理的な弁論に何も言えず、私はただ怒鳴り座っているシートの上に軽く拳で叩きつけた。


「お嬢様、あまり物に当たらないで下さい」


「ふん!」


これは昔からの悪い癖である。

ピアノの稽古の時も、幼い時から失敗したり納得がいかなかったりすると適当にピアノを鳴らしたり、椅子を叩いたりしていた。

何度も稽古の先生や両親、坂本からもやめろと指導された。大きくなっていく内に少しはその癖を抑えるようにはなったが、今のように怒りが頂点に達してしまうと昔からのこの癖が出てしまう。


「昔はもうちょっと少しは素直でしたのに……」


小さいため息を吐いて昔の私を名残惜しく坂本が言う。そんな事を言われ、私は腹をさらに立てるばかりである。

車内の空気がこれ一向に回復しないまま私たちは家に着いた。


「お嬢様、私はお母様の付き添いの仕事がありますので、こ、これで」


車の窓から気まずそうな明るい表情で別れを告げて、坂本は逃げていくようにそこから去っていった。


(坂本のバカ……)


少しばかりぐれすぎたと罪悪感で反省し、坂本の表情とは対照的に私は落ち込んで暗い表情になりながら家のドアをゆっくり開けた。


「あら、お帰りなさいませお嬢様」


ミケランジェロが描いたような模様の白いドアを開けると白を基調とした西洋風な大きなロビーの花飾りをしている女性の白い彫刻像が飾ってある所でにこやかと一人、茶髪で髪が首半分くらいまである清楚で可愛らしいメイドが掃除をしながら私を出迎える。


「詠美、今は何時かしら?」


「6時38分です、お嬢様」


詠美は時間を聞れ、私がいつもよりも少し遅いと気がついたのか心配そうに垂れ下がった目尻を小さく膨らませ質問してきた。


「あのお嬢様、何かあったのですか?」


「ああ、あまり大した事ではないわ気にしないでいいわよ」


私はそんな悲しそうなする詠美に安心させるよう、ついでにプライド的に今日の部活で倒れた事を悟られぬよう口角を少しあげ笑った。


「そうですか、安心しました~」


このメイドは単純なのか主人の様子を見て安心すると膨らんでいた垂れた目尻がいつものようにニコニコとした顔に戻っていく。


「だから安心しなさい詠美」


「は、はいお嬢様!」


「フフ、心配してくれてありがとね……」


詠美のニコニコした様子で掃除しているのを確認して、私は私服に着替えるため自室に行こうと階段を登り、今日は運よく弟に会う事もなく自室戻れると、すぐさま邪魔で柵のような服(制服)を脱ぎラフな格好に着替た。

その後はいつも通りに、弟と二人だけで大きなテーブルに座り何人かの召し使い達に見守られながら夕食を食べ、一人お風呂に入り、疲れが癒えて宿題をした。

宿題が終わると体の限界がきてベッドの上で眠りについた。それからしばらくの間、いつもと変わらぬ日々が続いていた。



その日から3日経過して……



「コラ💢 サボるな~」


「は、はい!!」


その次の日から、陸上部で手を抜いている事に気付かれ顧問の指導がキツくなった。

私がなるべく下の方でいると、大きな声を吐いてずっとつけ回してくるのだ。後、他の練習でもずっとベンチから鋭い目で見てくる。そのせいで私はずっと気を張りまくりである。

おかげで私の中に変なモヤモヤができた。


(はあ、そういやあの子にまだお礼言えてないな……)


そうなのだ、未だに先生の手厚い指導のせいで物理的に休める余裕がなくなり私は少しの私語すらままならなず、あいつに3日前の礼が言えてないのだ。さすがにこれ以上礼を先伸ばしにするのは、私的な思い的にも、常識的にも私の家柄的にも、礼は早く言っておきたい所だ。だが……


「はあはあ、先生私そろそろ」


「何を言ってるだお前まだまだ行けるだろ」


「ひ、ひ……」


「ほら次お前の番だ」


「はい!」


顧問は元から飛び抜けた人材や潜在能力がある部員に目がなく、私からの視線を1度もずらそうとしない。このままでは、この日中に礼など言えないだろう。だから私は考えた。

それは待ち伏せだ。

方法は簡単。部活が終わったら目立つのを覚悟で校門であいつを待つただそれだけだ。

と頭に刷り込つつ、私は走り高跳びの155mを飛び宙に舞っている。


「痛たあ!!」


そして、私はバーに当たり頭からクッションに落下した。


「うん……お前もっちょっと助走つけてだな……」


「は、はい……」


「それでこう腰を沿って飛ぶ!」


「え、はい……」


先生の指導を受けたものの、上手く飛べることはなく私だけバーの高さは上がる事はなかった。一向飛べる気配がなく成果のでない1日の部活動は幕を閉じた。


「ほらほら、終わりださっさと片付けろ!」


練習が終わり、皆そそくさとした様子でバーを倉庫に返し始め返し終わると皆一斉に女子更衣室に向い始める。

いつもなら、私は遅れて一人ヒソヒソと着替えるが今日はあいつへ礼を言うため、不自然にはや歩きをして更衣室に行きいち早く更衣室を飛び出し、校門前まで向かう。


「うう……」(早くきないさいよ……もう)


いち早く一人校門前につき、下を見てうつ向きながらあいつを待つ。周りには彼女とおぼしき美人で可愛らしい女生徒の面々がちらほら見える。


(え…… ど、ど、どうしよう……)


私はこんなブスが一人浮いていると焦ってせめて緩和させるようと伊達眼鏡を外した。

すると近くにいる一人のちょっとヤンチャそうで口元が可愛らしい女生徒が私を見てきた。

その娘からブスのクセに眼鏡外してさらにブスになるからと言わんばかりに威圧感のある見下している視線を向けてきた。

そんな意地悪に腕を握ぎりながら怯えると、満足したのか私から視線を背ける。


(フ、そ、そうよこういうのは自分が満足したらやめるような自己中心的なやつなのよ……)


私はそれにほっと安心した。

が、しかし、ここでの目的を思いだしあいつへの苛立ちに心を乱される。


(ああ!何であいつこのないのよ、もう!)


落ち着いき開いていく拳はまた握り返され、あいつが早く来ない事と周りへの浮き具合のせいで不安が私を混乱させ苛立ちを覚えさせる。待ち時間をそんな風に葛藤してる内、帰り際の生徒達が押し寄せていき周りにいた美人で可愛い彼女達はあっという間に姿を消し、人の数もどんどんと減っていき雑踏もただ静寂になりそうな賑わいになっていく。


(お、遅いわね……)


あんまりにも遅いので、これであればわざわざ急いでくる必要はあるのだろうとまた苛立ちを覚える一方、まさか入れ違いになっているのではないかと萎える振動が気持ちを揺さぶる。一応坂本には、あいつが通ったら連れてくるよう頼んでいるのだがそもそもあいつが車が止めてある所を通ってくれるとは限らない。色々思考が周り不安になって、運よく今日の見回りの当番だった陸上部の少し若さが目立つ先生にあいつの事を聞く毎にした。


「あ、あの先生いつも遅くて足を引っ張ってそうな男子て今日どれくらいに帰りましたか?」


「え……奥谷の事か?」


あいつからしたら不謹慎極まりないで説明の仕方だと思うがあいつよ私の礼でそれは水に流しておくれよ。


「まだ帰ってないと思うけど、どうしたのえっと……」


「荻野目です……」


若いし経験も浅いだろうし、あまりこの先生は女子サイドには来ないから仕方ないとは思うが同じ学校にいるのに知らないと思われるのは寂しいものだ。


「へえ~、荻野目ちゃんか」


先生は作り笑顔で笑って答えて、自分が私を知っていると偽っている。


たかだか眼鏡を外しただけなのに酷いものだそれ以前の問も問題があるとも思うが……


でも一応、名前を聞かれるだけでなく話を聞いてくれたのでそのショックはなかった事にしよう。


「荻野目ちゃんなんか奥谷くんに用があるの?」


「は、はい……」


がそのショックを先生の綻んだ顔を見て、許さない事にした。


「そうかそうか、若いていいなうんうん」


その若くそばかすが目立つ笑顔をツマヨウジで串刺しにしてそのそばかす一つ残さず潰してやろうかと私はそんな衝動にかられる。


「あ、あの……違っ」


「うんうん頑張れ聖少女」


先生は一人楽しそうに自分の仕事に戻って何処かに行ってしまった。私はそんな衝動のまま先生が見てなくなるまで睨み、呆れたようにため息を吐く。若く盛んな人はすぐそういうのと結びつけたがる嫌になるものだ。

私はそう思ったが抑えて、気持ちをあいつの礼の事に注意する。


それから約10分後


見覚えのある低い背丈の男の子がとことこと自転車置き場に走っていくのが見える。

きっとあいつだ、あいつに違いにない。

私はそれに喜んで心で喝采を上げる。


(よし、お礼言わなきゃ!お礼お礼!)


ゴールが見え先走る感情に乗せられて私はあいつの方へ小走りで自転車置き場に足を走せ急ぐ。


「はあはあ、あの~!」


「!?」


私はつい感情を先走らせあいつが自転車を乗る前に声を勢いよくかけると、あいつはその場に立ち止まってぴくんと肩を動かして私の方を向く。


「はあはあ……あ、あの」


勢いよく走ったせいと声を勢いよくかけたせいか私は少しバテてしまう。あいつはこんな私を見て目にはてな浮かベ首を傾げてくる。


「あの何ですか?」


「え、えっと……」


私は息切れを起こしたまま、緊張し全く頭が回らず言葉を詰まらせ口ごもる。


「あ、もしかして3日くらいに倒れてた人!」


天は察してくれたのか、向こうから先に準備を整えさせてくれた。これであとは、私から礼儀正しい品格のある礼を言うだけとなった。


「はい……」


私は令嬢であるゆえに、強き気な気持ちを保たなければいけないながら声を掠めてしまう。


「そ、そうかそうか……はあはあ」


あいつは弱々しい私の事を見てもただのほほんと静寂している。それに負けじと私は令嬢であるそのプライドのため咳払いして気も保つ。


「ご、ごほん、えっと奥谷くんですよね?」


「は、はい……」


私は意を決して、呼吸を高め胸に手を当ててリラックスをしあいつに言葉を放った。


「そのね、わ、私は荻野目美穂よ、遅れたけど助けくれてありがとう……」


「は、はあ……」



「……」


意を決して礼を言ったがこいつの反応は思ったよりも薄く顔を白くしていて、私が変に緊張していたのが馬鹿らしく思えてこちらまで白くなり私たちの空気感がしらけてしまった。


「え、それだけです?」


「そ、そうよ!悪い!」


なんだろうか、このしょうもない落ちは具合は……


「じゃ、じゃあ私はこれでね」


「え?あ、はい」


その後眼鏡をかけ直すと、私は余計な力を使いすぎた疲労感とあいつに対する妙なイライラ感が芽生えながや車に歩いて向かった。


「でね聞いてよそいつたら、私が緊張してやっと思いで礼を言ったてのに無関心よ!」


「は、はあ……」


この日は車内、ずっとあいつに対するイライラに持ち越しであった。


その次の日から私は自然とあいつの事が気がかりになり部活でも人間との関係は先生以外ないのであいつの事をチラチラと見るようになった、するとどうだろう。

あいつはできないなりに一生懸命部活に取り組んでいる事に気がついたのだ。日々繰り返しひょっこりと壁の影から覗きこう思う。

いつも毎日のように死ぬくやい息切れしていつもドベでいい結果など残しておらずダメな意味で目立ってしまっていたが私は彼が自分なりの限界に取り組んでいると。

そして思ったのだ、それは何かに似ている。

そう昔の私だ。あのダメでも頑張っていた小学校の時の私に。そう気付いた時の休日私は軽い気持ちでピアノに向かい楽譜を立て黒い椅子に座り自分なりの音を奏でてピアノで遊んだ。その時は今でも忘れない。上手いとは言えないしとてもコンクールで聞かせれるような演奏ではない。でも演奏している私は空に羽ばたいている沢山の自由な鳥たちのようだった。それぞれ自由に羽を広げ飛び、どこまでそれは飛んでいけるそんな感じ。それくらい壮大でも軽い。だがそれが今の私を作っている。オンリーワンな自分のスタイルを。

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