第07話 部活だ!セッションだ!部員候補者だ!? -04 end

葛城さんからベースを貰った俺は家に帰ってからもひたすらに練習をした。

日数は休みを挟んで約7日 現在は水曜日


俺はダークでロックスターのニヒルを感じさせる青のベースに俺は引けば引くだけ腕が震え先人たちの魂の指先が降りてきた感覚が全身を伝った。


※カッコつけて何を言っているか分からないが要約するとカッコいいと思ったベースのおかげでテンションが上がり下手くそながら引き続けた結果なんとなくコツが掴めてきたという事だ。


「いや~結構上達しましたよ皆さん!」


俺はまだまだだな演奏だが、簡単なプレイをしながら部室で自慢気にベースを大きく鳴らした。


「全く誰よ、ベースを持ちながら登校するのは恥ずかしいとか言ってたやつ……」


「え……誰の話?」


俺はとぼけて気の無い声で返事しながらベースのチューニングのため弦を1弦ずつおどけた感じで鳴らす。


「まあいいじゃん、後輩君もちょっとは恥ずかしいとか思わなくなったて事で~」

(私が言うのも何だけど……)


「え、え……まあ……」


先輩は屈託のない笑顔で葛城さんに俺への肯定的な言葉を言ってくれた。

本当は朝早くに来て、旧校舎の2階にある誰も使っていない縦長のロッカーにいつも置いて来ているだけなのだが……

それを知っている先生は先輩と俺の反応の温度差を見て笑いを堪えるのに必死である。


「と、ともかく早く練習しましょうよ皆さん!


俺の図星をつくように顔を向けてきた先生にいち早く気づくと俺はともかく話題を変えようと練習が楽しくて堪らない様にまだ下手くそで適当な早弾きをして二人に促してみせる。


「そうね、あんたの練習して撮った動画見せてもらったけど合わせられるくらいにはしやがってるみたいだし」


「私は早く合わせてみたいし!」


二人とも目の輝きがいつもより一段増してバンドの編成を組んで合わせられる事をとても楽しみにしているみたいだ。

俺はもう少し三人でダベっていたいと思ったが、一等星のようにキラキラと輝く二人の瞳に心を動かされ自然と練習へのやる気が溢れてくる。


「やりましょうか皆さん!」


「お~!」


「お、おう……!」


俺が拳を上げると二人はそれにつられ拳が上がり結束力が高まり、そのまま練習に取りかかる。


「よっしゃ~行くぜオラー」


「て、そんな歪むくらい低音ならすな!」


「よし、じゃあ私も景気ズケに……」


「て、先輩も茂明のマネしなくていいから!」


俺は思い切りストーロークを、先輩は俺の音につられて気分が上がったのか思いきったメロディー引きをした。葛城さんはそんな乗りを渇を入れて俺達を正気に戻してくれた。

葛城さんが俺達の楽器に負けないよう声をはって疲れたのかため息をつき呆れるも、すぐに顔を明るくして曲へスネアドラムでカウントを鳴らす。演奏するのはもちろん……


「広い宇宙の、数ある一つ……」


そう、それは小さな恋の歌。

この曲はバンド中の定番の定番といっても過言ではないだろう。というか、この約1週間はこの曲を合わせるために腕がちぎれそうなくらいにベースを弾いてきたのだ。(他の曲も少し練習していたが)

そのくらいを練習を重ねたおかげか、弾きやすく凄く曲が腕に馴染んでくるような感じがした。それと同時に妙な音のズレを感じる。

その違和感を感じるまま、何とか周りと音を合わせようと俺は必死に音に食らいつく、でも音を食らいつく度にそのズレはどんどんと高くなっていく。


おかしい…… 

こんな簡単な曲なはずなのに……

どうしてだ……


そんな違和感で引き続けていると、あっという間に曲は終わってしまう。


「まあ始めはこんなもんだよな……」


「うんそうですね先生……」


先輩と先生は演奏が終わると、二人で何やら話合いをしている。それを見ながら俺は渋い顔を浮かべベースのチューニングをする。

葛城さんはというとソワソワしながら何度も足を鳴らしていた。


「葛城、奥谷」


先生が突然俺と葛城さんの名前を呼んできた。俺達はピクリと肩を震わせて反応すると先生は俺達の二つの肩に両手を乗せてきた。

顔を少し覗き見して見ると先生はとても穏やかな顔をしていた。俺は先生のいい放つ言葉をドキドキと感じながら生唾を飲む。


「まあ、そう喧騒するなお前ら!ははあ」


先生はゆっくりと問いかけるように話ながら豪快に俺達に笑いかけてきた。


「まあ始めはこんなもんだよ誰も……」


その顔のままで先生は言葉をかけ続け、言葉を続ければ続けるほど俺達の顔は安心に満ちていく。


「う……」


「すいません先生……」


その言葉を十分に飲み込むと自分の非力さを悔いる。


「まあゆっくり練習していこうや」


「そうだよ皆焦らず焦らず!」


悔いる度に二人は俺達を励まし、元気をくれる。俺の悔しさが励ましを聞くたびプラスに変えていけるような気がして目が段々と熱くなる。


「分かりました!やりましょう練習を!」


俺は熱くなった瞳のまま立ち上がり、練習再開の合図を鳴らす。


「そうね、ここでグダグダしても仕方ないし」


葛城さんはその合図の音を聞くと、俺に続いて立ち上がり首や腕を回してストレッチをし気合い入れる。気持ち入れ直した俺達はもう一度また次と大体5回くらい練習をした。


「……」


「今度はちゃんと全員で周りの音を意識して演奏しろ!」


「じゃあカウント行きます……」


音作りの独特な緊張感を感じつつ、俺は首筋から一滴の汗を流す。

数ミリリットルくらいの雫の汗が首筋から下に行く時、俺達の本当の演奏が始まった……

この時の演奏は、さっきまでとは明らかに違っていた。

バラバラだったパズルの欠片がぴったりと填まったそんな達成感のある感覚と、耳から聞こえる皆の音のハーモニーがそれぞれ混じり合い音の芯が定まったような感じもした。

演奏が終り俺達は互いに顔を見合わせる。


「……」


俺は言葉に表せないような衝撃に襲われて、しばらくの間目の瞳孔を大きく開いた表情のままになった。


「……いい」


反動が少し遅れてやってきて、俺は小さく言葉を呟いた。その衝動の反動は頭の中で大きな激動となって一気に体の底から沸き上がるようにアドレナリンが溢れ出した。


「うんうん、バッチリバッチリ♪」


「……うん、そうですね先輩……」


葛城さんも俺と同じ激動を感じたのか、顔を赤くして火照った顔をしている。


「……凄いですね、これが音楽……なんですね!」


俺はその始めて感じた激動の感覚のあまり跳び跳ねたように皆の顔を嬉しそうな顔で見て声を上げた。


「フフ、大げさだね後輩君」


俺のはしゃいだ反応に先輩は子供が新たな発見をした事を喜ぶ母親ような微笑みをした。


「そうよ、茂明こんなのまだまだなんだからね!」


俺と同じように苦戦をしていたクセに葛城さんは往年のバンドマンの意地があるのか偉そうプンスカと説教染みた声色で俺に言い放ってきた。俺はそんな葛城さんの理不尽な説教を笑顔で受け止めると、それがまた変に尺に触りまたプンスカとなりだした。

だが、それが彼女なので俺は軽い気持ちでその姿を眺める。


「ちょっと聞いての?茂明……」


「ゲ……す、すいませんそれで何でしたけリズムの感じがどうのこうと……」


「はあ、まあいいわ私も久しぶりだから感覚掴むの苦労したし……」


葛城さんは一瞬本気の重圧のトーンで怒ってきそうだったが、たまに沸点が変わりすいのも彼女なので自分の非力も認めてくれたようで俺は一安心した。


「もう二人とも、いいじゃないまだたった1回の練習なんだよ、それでこれだけできたら上出来だよ!」


そして追い討ちをかけるようにこの理不尽な言い合いは、先輩のポジティブな発言により収められた。


「そ、そうですよね先輩!」


「ま、まあ……私達これからどんどん良くなって行くと思うし、うん」


「それじゃ、この調子で違う曲も合わせて見よう!」


そのポジティブな思考により俺達は絶好調になり、何曲か違う曲も合わせて見ることにしたのだった。


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