第07話 部活だ!セッションだ!部員候補者だ!? -02
「よし行くよ!」
「うん」
二人は合図し合うと、先輩が黄昏に染まる夕暮れ時に合うようなしっとりとしたギターソロのアレンジイントロを弾くと、葛城さんは3.2.1とダウンカウントで丁寧にリズムを取り歌を始めた。
少しスローリーなテンポにして、先輩のギターはそのスローな早さを利用して黄昏へと染まるようにフレーズを弾いていく。
それを引き立たせるように、少し後に追いかけて入る葛城さんのカホン。が、追いかけても焦る事なくすんなり自然と入っている。
まるで先輩のギターが葛城さんのカホンをエスコートしているようだ。
そして、何より透き通る先輩の良き歌声。
「ほら、あなたにとって大事な人ほどすぐそばにいるの~」
さびに入り、少し高くなるが先輩の声はぶれずに芯のある温和な歌声である。
「ほら、あ、あ~、ほら、あ、あ、あ、ああ~」
先輩はオルペジオしながら難なくリズムに乗って歌っている。先輩は綺麗に自然な笑みを浮かべて音楽を心から楽しんでいる顔をしていて、見ているこちらまで引き込まれて行き楽しくなる。
葛城さんも先輩の心から音楽を楽しんでいる表情を見てカホンを鳴らしながら「フフ」と口角上げ笑った顔をしていた。先生と俺も葛城さんのように先輩の自然に楽しむ気持ちに引き連れれる様に笑みを溢していると歌が1コーラスで終わり、俺達二人は大きく拍手して小さな喝采を鳴らした。
「いいですよ、先輩!」
「いやいや、拍手喝采以外送るものないな宮崎は」
「へ、え、ええ……」
俺達が手だけでなく、口でも喝采を促すと先輩はギターのネックをきゅっと握ってキョロキョロと俺と先輩を目で追って素早く交互に見てきた。
「は、恥ずかしいよ二人とも!」
目が疲れたのだろうか先輩は、目を瞑って顔を沸騰しそうなくらい赤くした。
俺はそんな先輩を心から温かく笑いニッコリしていた。先生はと言うと……
「だが、葛城お前ちょっと走りぎみだぞ……」
「え……え!」
先生は先輩を褒めちぎった後、容赦なく葛城さんにダメ出しをする。
「スローなのは得意じゃないじゃないのよ」
「でもゆっくりやる事は大事だぞ、一つ一つの音を大事に思え」
「うぐ……」
言い訳を吐く葛城さんに先生は容赦ない言葉をさらに浴びせる。
「でもまあ始めてにしてわ良くできてるとは思うがな」
「そ、そうですか……」
先生は一応葛城さんの機嫌を思ったのか労う様に少し誉め称えたが葛城さんは口を尖らせ顔をしかめ少し拗ねてしまったようだ。
「あ、あ……」
俺はやはりこの先生は厳しいのだと目の当たりにして口をあんぐりと開けながら二人のやり取りを見据え低くエッジのかかった声を出した。
「う、う……先輩!」
先生からのダメ出しを食らったのが余程心にハートブレイクしたのか、葛城さんは先輩を潤んだ目で見つめている。
「ヨシヨシ、偉かった頑張ったよ、柚菜ちゃん」
「ううう先輩……」
先輩はその瞳を見て直ぐに、聖母マリア様の如く葛城さんを抱きしめ優しい言葉をかけた。葛城さんは先輩の優しい声を聞いて自分の失態感や劣等感を洗われ拭い去られる様に顔を先輩の胸に当て癒され溶けきった顔をする。
「やっぱ先生厳しいですね……」
「当然だ、元プロ級のセミプロバンドマンを舐めるなよ」
俺は恐れながら苦笑いでそう言うと、先生は胸を張って自慢気なトーンでそう口にしてきた。
「え、え!そうなの!?」
「うん、らしいよ」
「へえ……」
葛城さんは先輩の胸に抱かれながら仰天の声を上げていたが、俺は変に察していたのかそれほど驚きはせずに何事もなく頷き練習に戻ろうとした。でも、先輩と葛城さんは抱きあっている内に何かインスピレーションとアドレナリンが沸き上がってきたのか何か演奏しようと再び楽器を持ち始めので、俺はもう少しだけ本室に居座り二人のアコースティックショーを見る事にした。そして、その仲慎ましいショーを見ているとあっという間に時間は過ぎ去って……
約40分後 5時30分
「おいおい、もうこんな時間か……」
先生は頃合いを見て腕時計で時間を確認する。
「え、次はさださんのもう一つの雨宿りやりたかったのに……」
「あ、久しぶりに叩いたから腕痛いわ」
終わる合図を聞くと先輩はまだやりきれない顔で頬を膨らませて、葛城さんは先輩と対象適に腕を痛そうにして疲れきったのか顔を強ばらせて手を振ってストレッチしていた。
「あ、気づいたら俺あんまり練習してないです……」
「それだったベース家に持って行っていいぞ誰もこの倉庫の楽器なんて使わないだろうし」
俺は練習をあまりしていない事に気づくと先生は気遣ってベースの持ち出しを喜んで許可
してくれた。しかし……
「う、嬉しいですけど持っていったらまた学校に持って来なくちゃいけないじゃないですか……」
気持ちは本当に嬉しかったのが、荷物的に大きくて毎日それを持って自転車を漕いで登校するのは考えただけで骨が折れるし、それにベースを持って登校をするなんて軽音学部がないこの学校じゃ変に悪目立ちするに決まっている。あっという間に注目させて周りから何か言われるに違いない下手したら俺の心は完膚なきまでに叩きのめされるだろう。
特にあのちび異性人にはどうからかわれるか……
創造したたげで忌々しく腹立たしい。
もやしもやしと、かこ付けてなんとまた新たな呼び名を言ってくるだろう。
「まあ、それなら仕方がないか」
「はい、悪いですけど気持ちだけ受け取っておきます……」
先生は俺の気持ちをすんなり理解し割り切ってくれると、この話は俺が先生の気遣いだけを汲み取って終わる事にした。
「ああ、学校のベースを借りれるなんて絶対にないのにな~」
「ごめんなさい先生ちょっと俺にはハードルが高すぎます」
「ハードル、ね……」
「はは……」
俺は愉快そうな顔を作って明るいリアクションで諦めた言葉を吐き借りることを否定したが、惜しく残念な思いまでは拭えはしなかった。そんなやるせない気持ちを明るい顔を奥で思っていると、親切だかそうでないだが割りきれない黄色い声が俺の耳に止まる。
「あ、あの……」
その黄色い声は言葉を出し惜しみしているのか、話す事を躊躇している。
「んん……」
黄色く絞ったうめき声で躊躇し自分の腕をぎゅっと握る葛城さん。俺と先生は口をほの形に丸めて葛城さんを凝視する。
先輩はというと葛城さんの隣なに食わぬ顔で平然と立っている。
「柚菜ちゃん!」
「う……うん」
先輩は強ばって何かを我慢し気を張っている葛城さんに隣でニッコリと笑いエールを送る。すると葛城さんは、微笑んだ先輩で力が抜けたのか大きく息を吐いて力を入れ直して俺を見て話をしてきた。
「何です葛城さん?」
変に唸っていて多少の恐れはあったが、怒っている訳では無さそうなので躊躇なく葛城さんに問う。
「そ、その、茂明私のベース使いないさいよ……」
問いた瞬間、葛城さんは顔を少し背けながら俺に衝撃の一言を言ってきた。
「え、いいんですか!葛城さん?」
その一言に俺は驚いたあまり声を大きくした。葛城さんは顔を背けつつ、照れながらそっと口を動かした。
「ええ、本当よ……」
「ウフフ、もう柚菜ちゃんは」
明る様に照れる葛城さんに先輩は隣でニコニコとからかうように笑って頬をつついている。
「うう……そ、それで……」
「それで?」
「フフ」
葛城さんと俺の次の言葉を詰まらせるやり取りを見て先輩は少しニヤニヤと俺たちを交互に見ている。俺はそんな不気味な先輩を流して無視しつつ、葛城さんが口を開くのを待つ。
「えっとその、だから取りに来てほしいから帰る時……う、家寄りなさいよ!」
「え、は、はい!」
こうして葛城さんの照れながらの粋な計らいにより、俺は家でもベースの練習をできることとなったのだった。
「葛城さんありがとう!」
感激した感謝のあまり葛城さんの腕を握って俺は勢いよく上下に握手した手を振る。
「た、大したことないんだから」
「もう……恥ずかしがっちゃって」
「う、うるさい!」
葛城さんがまだ照れ隠しをしているので、それを悪戯に剥がしてやろうと俺がからかい気に口を尖らせて話すと彼女らしくまた照れ隠しなのか俺を小さく声を震わせて否定した。
そんな彼女にも俺は慣れてきたのか少しはにかみ宥めていた。
(ウフフ、私も西城さんと仲良く出来たから二人に恩返ししないとね☆)
葛城さんを宥めぱなしで先輩の妙な企みには一ミリも気が付きもせず……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます