第06話 始動? -06 end

「とりあえず何するんですか皆さん~」


先輩についての話でお祭り騒ぎだったが何とかそれは鎮火されて場が程よく収まり、やっと部活の練習をする雰囲気になる。


「一応確認なんだが、お前らやることは軽音楽で良いんだな?」


玉置先生は黒板の前に立ち一人一人の顔をしっかりと見ながら、顧問として確認と覚悟の意を込め俺達に3人問いてきた。


「もうなに言ってるんですか当然ですよ」


やれやれと濁った顔をし、先生の意に少し呆れながら笑って答える先輩。俺と葛城さんもそれに便乗して、隣でニコリと笑って意を決した事を表す。


「ちい、そうかよ……なんかイマイチのりが悪な」


先生はお熱い円陣的な感じなのを期待していたのか、俺達が思った反応をしなかったので少し拗ねる。


「それより、一応担当楽器の確認をしておきましょ」


「そうだ~ね!」


「賛成で~す!」


拗ねて教卓机にうずくまる先生は黒板の隅にでも置いておくと、葛城さんが指揮をとり始め分かりきっているようなものだが激しく同意しながら担当楽器を確認する事となった。


「えっとまず、とりあえず私がドラムよね」


黒板


柚菜 ドラム


「それでと、先輩はエレキで茂明がベースよね?」


黒板


柚菜 ドラム 楓 エレキ 茂明……


「ちょ、ちょっと待ってください葛城さん!」


葛城さんは勝手な解釈で黒板に書き始めたの

俺は全力で止めた。


「え?」


「はう?」


「いやいや、なんですか先輩まで俺を勝手にベースにしないでください!」


俺が止めると、葛城さんだけでなく先輩までもポカーンとした表情を浮かべてきたので全力で拒否する。


「ていうか先輩もエレキできるんですか?」


「え?うん多分、去年は色々と先生に鍛えられたから、タブ譜も読めるしフレイズも練習すればすぐに弾けるよ~」


先輩は俺の疑問対して、何の躊躇もなくよもやどっしりと構え腕がなるぞと言わんばかりのやりきり様であった。

先輩と始めて会った時の最高と言っていい弾き語る様子をふと思い出して今の発言と重ね改めて先輩の凄さに俺は感心する。


それよりも……


「感心してる場合じゃないや、葛城さん俺ベースないし出来てボーカルのリズムギターがくらいですよ~」


心の中で実力のある先輩と非力な自分を比べ、悲しくなりつつ葛城さんに必死にやりたくないとすがりついて拒否を繰り返す。


「え…… ベースいなかったら出来ないじゃないの……」


「出来なくわないが低音があるとないじゃ音がスカスカになるな……」 


拒否を訴え続ける俺に、3人はじっと残念そうに見てくる。


「ああ、折角これで部活がやれると思ったのにな……もう」


葛城さんは大きくため息をついて放り投げるように言葉を吐いて、頭を強く掻き少し不機嫌な様子を浮かべる。


「やっと宮崎も新規部員が入って来てこれからだって言うのに困ったもんだ」


「そうですね、はう……」


先生が現状に行き詰まり根を上げているとそれに答え、先輩が子アザラシが親アザラシの帰りが遅く困り果てるように声をフォールさせて甘く鳴き目をつぶらにさせる。


「ああ、どうしよう……」


「全くね……」


「はう……」


それぞれに感情を表現し終わると、3人はその表現の表情のまま俺の方を向く。

どうしていいか分からず頭に手を置いて机に塞ぎ気味に悩み込む葛城さん、腕組みしてこれからの事を若干早いリズムを足で刻みながら考えている先生。

そんな風に二人が考え込む中先輩はというと、愛くるしくつぶらな瞳を保ったまま俺をじっとその眼差しを注ぐ。

俺はその瞳を見て拒否した自分を気まずく感じ微汗をかいてオロオロと皆(主に先輩)を見ないようにする。


「ああ、茂明が文句言わずにやってくれれば出来るんだけど……」


「そうだよな、なあ宮崎?」


「は、は~う!」


先輩は部活が出来そうで出来ないもどかしさのストレスのせいか、言葉が「はう」だけになり言語能力を失い、大きく甲高い声で叫び涙目になる。


「うう……」


「せ、先~輩!」


「おいおい宮崎大丈夫か」


先輩のつぶらで甘えた瞳が涙でどんどんと濡れていくと、俺はさらに気まずくなって顔が青くなる。


「あ、あの先輩……」


「はう~」


「しっかりしてください先輩!」


「はう?」


空気が気まずくなりすぎ、遅すぎるタイミングで声をかけたがしかし時はもうすでに遅し……


「ありゃ……こりゃ完全に壊れたな、去年あたしにしごかれた時と同じじゃないか」


「嘘、それマジヤバイじゃないの……」


葛城さんと先生は先輩の朽ち果てた様子に焦ったように血相を変えもう後がないぐらいに追い詰められる。


「はう、はう……」


俺も同じくらい血相を変えているが、先輩のこんな姿を見せられてはもう迷ってられず唾を一つ飲んで不安を押し殺し、決断の言葉を下した。


「しかないです、僕がやりますよベース!」


俺は目を瞑ったまま必死の言葉を上げる。

ベースはやったことなどないし、不安しかない。さっきまで拒否を繰り返えていたし、皆がこの事を受け入れてくれるか分からないが俺はゆっくりと目を開け三人の顔をそっと見た。


「茂明……フフ」


「おう、そうかそうか、ははあ」


「はう!後輩君!本当!」


目を開けると、皆の表情はさっきはなんだったのかと思うくらい明るくなっていた。

不自然な感じがしたが、取り合いず俺が満身創痍になる決断を受け入れてくれた様だ。


「え、あ、はい……」


「やった!決まりだね後輩君頑張ろ!」


不安しかない表情で返事をする俺だったが、先輩が嬉しそうにバンドをやれる喜んでいる顔をしているのを見て俺はさらに決断する。


「そうですね、先輩!」


嬉しそうにする先輩に俺は太陽のように明るく元気に答える。引き受けた以上やらない訳にはいかない。そう新たに決断を追加して自分に渇を入れた。


「という訳で決まりにね、でも茂明初心者だしこのまますぐに合わせてて訳には行かないわ」


「そうだな……どうすかなあ」


決断をしたもいいのももの葛城さんがすぐさま問題を見つける。それは俺が非力なベース初心者だと言うことだった。


「うう……すいません!」


俺は非力の嘆きを訴えながら、皆に肩を崩し謝る。これでまた先輩を涙目にさせてしまっただろうかというやるせなさも同時に頭に乗りかかりさらに俺の不安を誘った。


「フフ、後輩君謝んなくていいよ」


「せ、先輩……」


体を起こすとそこには涙目の先輩ではなく、ただ俺に微笑みかける先輩がいた。


「練習すれば必ず出きる私が保証するよ!」


先輩は両拳を作って力強い顔を作り応援の言葉を俺に送る。


「先輩、あ、ありがとうございます……」


思わぬ先輩のエールに驚きつつ、礼を言いながらその言葉を先輩と同じようにゆっくりと微笑んで受け取り新たなる挑戦への活力を貰う。


「でね、私考えたんだどねこの曲を練習しない?」


俺が活力で溢れんばかりに心で瞑想していると、先輩は「小さな恋の歌」が載っているドラム、エレキ、ベース、の3つの楽譜を用意して俺達に配ってくれた。


「なるほど、まあ始めてやるには定番だな」


「私これ腐るほどやったわね~」


「こんなくそ簡単なのに長々弾けないのな始めてて」


「ああ、そうなんですよ凄いシンプルで分かりやすいリズムなのにもうヨレヨレで~、はは思い出すな色々……」


「ああ、私もだよ葛城……」


葛城さんと先生は渡された楽譜に御執心のようで互いに苦悩話と昔の話を蒸し返しあっている。


「はい後輩くん!」


「は、はいどうも……」


しかしながら、ベースのタブ譜というかタブ譜に向き合った事がないので全く何が書いてあるか分からない。というか小さい頃から適当にアコギを掻き鳴らしていた身ながら、俺はこの曲には全く興味がなくアコギでもまともに弾いた事がない。(多分弾けるけど)


「……先輩これどうやって読んですか?」


「え、あ、うんえっと、ちょっと待ってね今からベース持ってくるから」


先輩に教えて貰おうと話しかけると、先輩は直ぐ様楽器の倉庫からベースを取りに駆け出していき、ものの数十秒でこちらへ来てアンプをセットし出す。


「よしよし、まずねこう弾くのね!」


先輩はベースを手馴れた様子で持って、人差し指で弦を一つ弾き適当にリズムを刻む。


「それでと……」


先輩は楽譜を見て、弾き方を確認している。

確認は直ぐに終わり、余裕たっぷりで自信満々な顔で俺を教える。


「えっとまず音符はよめるね」


「遅いですが、大体……」


楽譜は分からないが音符ならなんとか分かる。


「えっとこれはこれで……」


「うーん、やっぱこっちの方が早いかな」


俺の楽譜の理解するスピードの遅さを見て、先輩は何やらもう1つベースのコードの押さえ方が歌詞に合わせて載っている楽譜を俺に渡す。


「え、なんですかこれ全部押さえるの一本だけじゃないですか……」


「うん、まあコードは簡単だよねコードはでもやっぱりベースのピッキングは難しいんだよね……」


先輩はややこしそうに顔を歪ませ、難なく小さな恋の歌のベースを弾いて俺に見せる。


「色々とタブ譜て読めた方が便利なんだけど……なるべく早く合わせたいからまあこんなのでいいよね後輩くん?」


俺もタブ譜も読めてようにしたいという気持ちはあるが、皆と早く音を合わせたいという気持ちの方が強い。


「俺もタブ譜読めるようしたいですけど、分かりやすいし簡素的な楽譜で頑張ります!」


「うん分かったよ、まあベースを弾くだけども基本的な事は分かるからね」


俺がそう判断を下すと、先輩は歪ませた顔を直ぐ様整えていつもの明るい顔をしてオッケーと合図をするように片目を閉じて指をdの形にして了解の合図をする。


「そっちはまとまったぽいな~、じゃあ奥谷は先生が教えてやるから宮崎と葛城は各自で練習してろ」


先生は話がまとまった事に気づくと、直ぐ様ベースと俺を引き取り楽器の倉庫へ連れていった。

これから俺のベースへの挑戦が始まるのだった……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る