第06話 始動? -01
「えっとでは、今日は弥生時代の16ページから……」
こちら茂明、現在、4限目日本史
あの体育の一件で保健室にて、このクラスの大和撫子荻野目さんに看病され、俺はこの時間から復帰した。
体調は全回復には程遠くて、寝ている時このまま早退きしてしまおうかと思ったが、今日は始めてちゃんとした部活ができる日だ。
俺は寝ている時それを思い出し、病は気からと自分に暗示をかけて、元気を装って気合いでこの授業を受けている。
(ヤバい……しゅ、集中……)
しかし、好きな歴史の教科でも内容が入ってこず元気を装っても無意味な事だと知る。
ペンを持つ手に力が入りにくく、おぼつかないペン使いで黒板を汚いノートに映す。
「えっと……荻野目さん?悪いけどここの所の教科書読んでくれないかな?」
しばらくすると、先生は大体全員ノートを移し終えたと判断したのか教科書を朗読しろと荻野目さんに指名した。
俺は4限目の少し前に教室へ、来たのだがあの黒髪乙女の大和撫子な荻野目さんらしき姿はどこにいるか全くわからない。席は出席番号準なので近くだと思うのだが、席でも変わっていたのだろうかと40人ぐらいの教室の辺りを見渡す。
「は、はい……」
すると、俺の前から3列目の席の方から女生徒の小さい返事の声がした。
俺はその子の方をこっそり右側から覗き見る。
その子は、目付きが少し鋭く少し大きいメガネをかけていて見た感じがり勉ちゃんという感じであった。
「ぎ、魏についての…… 歴史書の魏志に……倭人についての……」
しかし、見た目に反して自信が無さそうで声が小さく途切れ途切れな朗読をしている。
その朗読に、生徒達含めて先生は退屈そうな顔をして重たい空気が流れる。
俺は朗読の感想を態度で表すよりも、このイモがり勉ちゃんが、看病をしてくれた荻野目さんかどうかを俺の頭の映像を頼りに考えた。
黒い髪の長さも顔の造形は、まあ似ている。
でも、看病してくれた荻野目さんはいつもでも素敵な笑みを絶さない穏やか人で、まさに大和撫子という言葉ふさわしい雰囲気であった。が、今見ているこの子はとてもいつも素敵な笑みを絶やすようには見えない。
ずっと俺のように一人でコソコソとしていてボッチ系と思わせる暗い雰囲気であった。俺はこの子は荻野目美穂さんではなく、違う荻野目さんなのではないかとまた席を見渡したがあの穏やかな大和撫子の雰囲気を醸し出している黒髪乙女の女性徒はどこにもいない。
「美穂さんありがとうございます」
「は、はい……」
(マジ!?)
がり勉ちゃんが本を朗読し終って、先生が下の名で美穂と礼を言ったので、この人が荻野目美穂で間違いないのだろう。俺はそう理解し、ノートを映す作業に戻る。
(あの子が荻野目さん……)
作業に戻るが、がり勉メガネちゃんの荻野目さんを何度も2度見する。
二度する度、頭で何度も2人の荻野目さんをもう一度照らし合わせ、今にも目が落ちそうなぐらい驚いている。こんな地味ながり勉ちゃんが、とても清楚で穏やかなあんな大和撫子の姿になるとは猿でも思わないだろう。2つの荻野目さんの姿について考える事に気をとられ、俺のノートの字がどんどん汚くなっていくまま授業が終る。でも言うて、汚くても今までと大差はないと何も気にも止めず、ノートを机にしまう。
「いやー、終わった終わった!」
「コラコラ宮、はしゃがないはしゃがない」
チャイムが鳴ると、共に聞き覚えたての賑やかな声女生徒達の会話が俺の耳に響き、ちらりとその声達の方を見る。
「あれ?柚菜飯買わないのか?」
「きょ、今日は持って来たから……」
何やら、葛城さんは飯を買いに行かないらしい。そういえば朝見かけた時は前ほどではないがぎこちなさを感じた。また、俺以外の誰かに相談するのだろうか。
「柚菜さんはこれから何やら違うお友達と食事をするそうで……」
「柚菜っち珍しいね~!」
「というか始めてじゃない柚菜ちゃん?」
日高さんが何気なく言うのを聞いて、俺も山下さんと吉田さん同様、仰天な声を小さく上げた。鷹森さんはというと……
「おい、お前ら早く行こうぜ、もうあんなおばちゃん同志の押し合いへし合いみたいなのはごめんだ」
空腹の苛立ちとあの戦場への嫌悪かで鷹森さんは葛城さんと自分を覗く3人を急かす。
「そういう訳なので……2人共行きますわよ」
葛城さんが愛くるしくて貯まらない日高嬢なはずだが、今日は何故か聞き分けがいい。
普段のお嬢ならば、相手がどんな人だろうと何がなんでもねじ伏せるに違いないだろう。
不自然な日高嬢と空腹に飢える鷹森さんに後の二人は違和感で戸惑いつつも、山下さんと吉田さんは4人で2人に乗せられるがまま購買へ向かって行った。
そんな不自然な光景を見終わり、俺は開けている弁当の続きを食べながら音楽の音量を上げ、いつものように無言で飯を食べる。
疲れた後のせいか、あまり箸が進まない。
それでも、水筒の緑茶を飲みと好きな音楽で気持ちを惑わせて、愛情込めた母の料理を無理やり胃の中へ押し込む。
そんな調子でいると……
「茂明……」
昼飯を食べずらそうにしていると、違う友達と昼飯をしているはずの葛城さんが俺の席の前まで来た。食べるのをやめて、葛城さんに少し首を傾げながら返事をした。
「なんですか?」
「あ、あんたちょっと付き合いなさい」
「何をですか?」
葛城さんの合意な主語のない説明に対し、俺はその主語の説明を求める。
「な、何ってそ、それは……」
主語の説明を要求したたげなはずが、何故か戸惑い顔で背ける葛城さん。俺は眉間に皺がよった顔で葛城さんを見る。
しばらく、モジモジとする女とそれを変な顔で見る男という端から見たらよく分からない状態が続く……
「いいから来なさい!」
じれったく拉致が空かないと思ったのか、葛城さんは俺の手を引っ張って廊下へ連れ出した。結構な力で引っ張られたため抵抗するにも抵抗できかった。
金髪美少女に腕を引かれるもやし男子、周囲からはどんな風に写っているのだろう。
「い、痛いですよ葛城さん」
「……」
廊下を進めば進むほど、葛城さんの引っ張る速度は早くなって行き、おまけに無口になって行く。
これからこの俺はどうなってしまうのだろう……
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