第05話 先輩に優しいあの子と俺に優しくしてくれるあの子 -10

茂明の夢


「は、は、はあ……」


俺は奥谷茂明、中学2年陸上部。

今日は、運が良いか悪いか先生がいなかったため心良い優秀な部員が俺とストレッチをしてくれた事もつかの間……

いつものメニューの10キロマラソンの学校周辺コースを俺は一番遅く走っていた。

息切れを切らし、どんどん呼吸が上に上がって過呼吸になりそうになりながらも、目の前に広がる田んぼ道を稲にへばりく米虫のようにドロドロと走る。

俺がドロドロと走っていくにつれ、呼吸の速度が増す。


「は、はあ…… ぐ……ゲホ……ゲホ……」


俺は喘息であるが故、少しの間咳き込んだ。

自分は喘息とは長い付き合いであるので、咳きを抑制は慣れていると我慢を試みる。

我慢しようと試みて1分もしないうちにまた咳き込んだ。今度はさっきより酷い咳き込み方であった。


「ごほ、ごほ、ごほ…… ごほごほ……」


一瞬足を止めようと、考えたが足を止めれば後が辛くなると思い、その速度を緩める事なく早く走り終えようとした。

が、走るにつれ咳き込みもさらに酷くなり、少しの抑制すらままならなくなっていき、ついには激しい頭痛までしてきた。

俺は自分の体調など無視して、頭でゴールする事だけに集中する。それで意識を保とう、足を動かそうとして……


現実


「……は」


激しい頭痛で頭に違和感を感じ、俺はふと目を覚ました。

目を覚まし、周囲を確認すると白を貴重とした部屋の感じ、棚には沢山の医薬品、他には保険関連な本が沢山ある。

ついでに、白くあまり寝つきには良くなさそうなベッドで眠っていた。

俺は保健室にいると理解して、頭痛が痛かったので、ベッドの布団を体にかけ寝そべる。


「……」


俺は寝そべりながら、ここへ来る前は何をしていたか思いだそうとして眉間に皺を寄せながら瞑想し、記憶を整理しようとするも何やら頭も体も気だるくて、さらに眉間に皺が寄ってあまり優れない顔をした。


「あ、あの……」


そんな時、ベッドの側のカーテン影から何やら声がした。その声の方に顔を向けると、ちょこんと女子生徒が顔の目元部分だけを出しこちらをじっと見つめていた。


「わ!」


俺は目元だけの格好に思わず、大きな声を上げたが、その女生徒は驚く俺に怯えもせず、ヘラヘラと笑いながらカーテンから出てきた。


「あらあらごめんなさい、ビックリさせちゃいましたか?」


出てきた女生徒は長い黒髪の少し大人びた顔立ちで体操服を着ていたが、それでもおしとやと感じるくらい美しくまさに日本の大和撫子であった。


「は、はい……」


俺はそんな綺麗な彼女に見とれそうになるが、先輩への愛を思い出して正気を保とうとする。


「どうしたんです?まだ調子悪いんですか?」


彼女にみとれ、それを隠そうと違和感のある挙動をする俺に、彼女は駆け寄り心配そうな瞳を向けてきた。俺はその瞳はとても美しく奥ゆかしいと感じ、何故かなぞるように彼女の品のあり綺麗な唇へと視線をやってしまう。


「ほお…… はい、まあなんとか」


俺は見事に麗しい瞳に釘ずけになり、その瞳に心の奥まで吸い込ませれそうだ。でも、先輩への恋心のようなものは感じなかった。


「あはは、良かった、なんともなくて」


彼女は俺の元気そうな声を聞くと、嬉しいそうにニッコリ安心した表情をする。


「うん、なんとか、でも頭と体が痛いけど……」


「大丈夫ですか?」


「あ、うん、何が起きたか思い出せなくて……」


俺は不意に起きた当初から抱いている疑問を彼女に聞いた。


「あなた物凄い勢いでハードルで転けて頭から次のハードルに突っ込んだんですよ」


「そ、そうなんですか?」


俺は彼女にそう説明されて何となくだが思い出し、少しのモヤモヤとした気持ち悪さがなくなりスッキリとはしたが、体はその反動と朝の疲れのせいかで全くスッキリとせず俺はクラクラとなり、視界が少し歪む。


「うう……」


「無理しないで下さい…… 奥谷さん」



不意な目眩に襲われ、額辺りを俺が手で目を隠すと、彼女は俺を寝かせ布団をかけ直してくれた。

美しい華やかで大和撫子すぎる人にお世話をしてもらっているシチュエーションのせいか、俺はずっと彼女を見てしまった。それにして、見れば見るだけ美しい人だ……

純粋な優しそうな面影、整っていてほぼ完璧と言っていい顔立ち、どちらかというと知的系な感じ…… そんな大和撫子が、さっき俺の名前を口にした。これは何でだろう。彼女の光輝く美しさから、ふとそんな事を思い、ギャルゲーやりすぎ脳の俺は妙な期待を持ちつつ彼女に質問をした。



「あ、あの…… 何で君が俺の名前を?」


俺は普段から誰とも関わらず、同類そうな群れの仲間も心を許せる友もましてや女友達もいない。だからだろう、俺はとても虚しいそして少しの事で希望だと思ってしまう。

こんな俺の名前を知るものなど、あの葛城さんと愉快な4人の仲間達と楓先輩ぐらいしかいない。そんな孤島で妄想主義に陥ってる俺なので思う、これは何かあるに違いないと、今から何かしらあれのイベントがあるに違いない。ここから、彼女の恥じらう顔のイベントスチルが取れ……


「あ、それは……先生が奥谷さんの名前を叫んでいましたから」


人生、期待するだけ損である。

彼女は現実味溢れる説明を俺にして、そろそろ帰りたいのか体をもじもじとし始める。


「じゃ、私そろそろ行きますねお大事に……」


俺が質問した時に、勢いがありすぎたせいだろうか、彼女は優しそうな笑みを微笑に変えて保健室を後にしようとした。


「あ、あの、君の名前は……」


期待は虚しく散ってしまったが、俺は責めてでも思い、立ち去ろうとする大和撫子に名前を聞いた。


「お、荻野目、美穂です……」


名前を言うと、彼女は呆れてこの場所を去りたかったのか振り向きもせず、何処かへ行ってしまった。やってしまった、人間経験の皆無の俺が女に期待し、少しでも調子を乗るとろくな事にならなかった。俺はため息をついて、さっきまで恥を忘れようと試み、かけ直してくれた布団をまたかけ直してベッドで眠ろうした。


「荻野目美穂……」


何処かで聞いたことあるような……

その名前と芳しい美しい姿を照らし合わせ何かを思いだそうとしたが、溜まりきった疲れと体に広がる気だるさのせいか、考える暇もなく目が閉ざされた。

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